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振り返れば

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恐る恐る振り返った私は、驚きのあまり飛び上がった。

「千尋様っ!?」

え、なんで? どうして???

「どうしてここに? え、ていうか気配……」

混乱して独り言がダダ漏れてしまった。

慌てふためく私とは対照的に、千尋様はとにかく不機嫌そう。憮然とした表情で物陰からこちらをジットリした視線で見ている。

うんうん、確かに怖いわ。こういう感じ。絢香さんチキンだなあって思って悪かったよ。

「あ、あの、千尋様……?」

あまりにも微動だにせず、恨みがましい目でこちらを見るだけの千尋様に業を煮やして話しかけてみれば、千尋様は悲しげに「あれほど絢香には会うなと言ったではないか……」と呟いた。

いやいや、出来るだけ会わないとは約束したけどね?

「調査に必要な事だったので仕方なく」

「その割には楽しげだった」

なおもブチブチと言い募ろうとする千尋様。こんなに女々しげな人だったっけ? と思いながらも、とりあえずは悲しげに目を伏せるその麗しいお顔を堪能させていただく。可愛いは正義だよね。

千尋様が気がすむまでブチブチ言っているのをハイハイと聞きつつ、役得とばかりにこっちも千尋様をガン見してやった。

怒っているんだろう尻尾はブワッと大きくモフモフに膨らんでいて、今すぐ触りたいくらいの愛らしさ。もちろんお耳もピンと立って緊張したように時々ピクンと動くのが可愛らしい。

切れ長の目は怒りに燃えて若干吊り上がっている……と思ってたんだけど。徐々に徐々に目尻が下がり、若干目の縁が紅くなってきた。

あらま。ついでにお耳も尻尾もシュンと下がってきたんだけど。そろそろお怒りが解けたのかしら?

「……真白」

「はい」

「なぜニコニコしているのだ」

「えっ?」

ニコニコしてました? 

いや、多分ニヤニヤしてたんだろう。だってやっぱり近くで見れば見る程、千尋様すごく綺麗だし。こんなに美麗なお顔なのになぜか可愛く見えるって思うようになったのホントつい最近だし。

「こっちは怒っているのに、そんなに、見つめられると」

若干頬を紅く染め、ふいと視線を逸らす千尋様。

か、か、か、可愛い……っ!

殺す気ですか!

思わぬ可愛い仕草に内心身悶える事数秒、千尋様が改めて私に向き直る。

視線を逸らせ、すう、はあ、と小さく息を整えていた千尋様がまたもや可愛いかった事はあえて言及すまい。

「時に真白」

「はい」

「先刻、雅がどうのと言っていただろう」

「!!!!!!!」

楽しいフワフワした気分が一瞬で吹き飛んだ。聞こえてたのか、千尋様!
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