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「赤い絵」
しおりを挟む日曜日の午後、麗華が古びた額縁を抱えて帰宅した。古本屋での掘り出し物らしい。額の中には、一枚の絵が収められていた。真っ赤な背景に、黒い影が何かを掴んでいるように見える、不気味な絵だ。
「ねえ、よっちゃん!見て見て、これすごくない?」
「ああ……確かにすごいけど、なんか気味悪いな。その赤、妙に生々しいし」
僕は距離を置きながら額縁を見つめた。赤い色が目に刺さるようで、視線を合わせるたびに胸がざわつく。麗華は気にする素振りもなく、その絵をリビングの壁に飾り始めた。
「こんなの飾って、悪夢見そうだよ」
「大げさだなあ、ただの絵だよ。でも……確かに、この赤、目を引くよね」
そう言いながら麗華は楽しそうに微笑んだ。僕は妙な不安を感じつつ、その場を離れることにした。だが、その夜から異変が起き始めた。
深夜、妙な物音に目が覚めた。廊下から聞こえる、かすかな音。僕は布団を抜け出し、そっと扉を開ける。リビングからかすかに、誰かの話し声が聞こえる気がした。
「…?…麗華?」
誰もいるはずのない時間。恐る恐るリビングへ向かうと、麗華が絵の前に立っていた。ぼんやりとした瞳で、絵の中の赤い色にじっと見入っている。
「おい、どうしたんだよ?」
僕が声をかけると、麗華ははっとして振り返った。
「あ、よっちゃん……何かね、絵が喋ったような気がして」
「絵が喋る?冗談だろ?」
だが、麗華の顔は冗談を言っているようには見えなかった。僕もつられて絵に目をやると、赤い色が微かに揺れているように見えた。その瞬間、背筋に寒気が走った。
「今日はもう寝よう、な?」
僕は強引に麗華の手を引き、絵から引き離した。
翌日、麗華はいつものように明るかったが、絵の話をすると決まって目を逸らした。僕も深く追及するのを避け、普段通りの日常を取り戻そうとした。だが、その夜、再び異変が起こった。
リビングに戻ると、今度は絵の中の黒い影が妙に浮き上がって見えた。まるで、こちらを見つめ返しているかのように。
「よっちゃん、見て。今度は影が動いているような……」
「バカ言うなよ。そんなことあるわけ……」
その瞬間、耳元で低い声が囁いた。
「――見つけた」
鼓動が一気に早まり、僕は振り返るが、誰もいない。ただ、絵の中の影だけが不気味に揺れていた。麗華も声を聞いたらしく、顔が青ざめている。
「姉ちゃん、もうこんな絵捨てよう!」
だが、麗華はなぜか絵を抱きしめて離そうとしない。その様子に異様さを感じた僕は、強引に麗華から絵を取り上げた。そして、裏庭に駆け出し、その絵を焼き捨てることにした。
炎に包まれた赤い絵は、最後に黒い影を浮かび上がらせながら、低い呻き声を上げたように感じた。しかし、絵はあっという間に灰となり、全てが静かに消えた。
数日後、麗華は元の麗華に戻った。リビングの壁には、ただ一つの釘跡だけが残されていた。
「もう、妙なものは持ち帰らないでくれよ」
「ごめんね、でもちょっと面白かったね?」
彼女は悪戯っぽく笑ったが、もう二度と赤い色には触れようとしなかった。
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