お江戸物語 藤恋歌

らんふぁ

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四十四話

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鈴代屋では招かれざる客にピリピリしていた。


藤兵衛は白雪太夫に、まだ明日の長崎屋の宴が中止になった事を告げていない。


太夫が命の恩人の右京を迎えるのを、大変楽しみにしているのを知っている彼は、神経を使う客を迎えるのに、彼女がガッカリして、気もそぞろにならないよう用心したのだった。


客は、一足先に着いて出迎えた山城屋に頷いて見せる。


藤兵衛に一番良い部屋に通され、中には花よりも美しい花魁達が並び、揃って頭を下げていた。


妹花魁の春菜、吉野、松尾を従え、一際白雪太夫は美しい。


彼女はにっこりと艶やかな笑みを浮かべた。「ご家老様、山城屋様。ようこそ、おいでなんし。ご身分あるお方が、わちきのような者へのお心遣い……ほんに嬉しゅうありんす。今宵はゆるりと……」


家老は機嫌良く「おう、元気になったか太夫。皆もこの間は悪かったのぅ。今宵は儂が詫びの宴。無礼講、無礼講。さ、まずは儂から酒をつごうかの」
太夫の隣に陣取って彼女の杯に酒を注いだ。


「……では、お先に」太夫は軽く頭を下げた。


「おお、ぐっと行け」


藤兵衛は、今日は太鼓持ちは同席させていなかった。

相手は冗談が通じないので、また騒ぎになると困るからだ。


趣を凝らした膳が次々に運ばれて来たが、どこか違和感があり、山城屋と家老は訝しい顔をする。


素材も吟味してあるものばかりなのだが、何かがおかしいのだ。

よくよく見て、ハッと気づいた。


そうだ。魚介類の生物が一切無い。

必ず火が通った物で占められていた。


鈴代屋では他にも山菜やキノコなどは使用を避け、後であたったと難癖をつけられないようにしていたのである。







鈴代屋の板場に入った若い男は、当てが外れた。


今日のお品書きには、後でこれが原因で中毒になったと言われるような食材が、一切使われていなかったからである。


貝や刺身の生物、山菜、キノコ…


隙を見て、膳に混ぜてやろうと毒の気がある食材を用意したのだが、これでは使えない。


使用していないのが明らかだからであり、故意に混ぜられたとなれば、板場の新参者に真っ先に疑いがかかってしまう。 


畜生!どうすりゃ良いんだ?


仕方ないと、こっそり捨てようとした手を押さえられた。


「……てめぇ、ここで何してやがる?」

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