21 / 65
二十ー話
しおりを挟む
妹花魁の春菜は物怖じしない性格らしく、「松永様、奥方様は?」と尋ねてよこした。
右京は頬をかきながら苦笑した。「……某のような野暮天に来てくれる、酔狂な女はおらぬ」
松尾が首を振った。「あれ、松永様は良き男ぶりでありんすわいな」
白雪は、そんな妹花魁達に軽い嫉妬を覚えた。
私が言いたい……!
だが、一度口にすれば、想いが溢れて、抑えきれぬやも知れぬ。
春奈が更に彼に尋ねた。「ならば、好いたお方はありんすか?」
さすがに慌てた藤兵衛がたしなめる。「これ、そんな明け透けにご無礼な。松永様申し訳ございません」
「……いや、良い。好きな女は……おる」
……そのどこか儚い笑み。
白雪の胸がドキリとし、思わず高鳴った。
右京はあえて目を背けるように、開け放った障子から見える丸い月を振り仰いだ。「……某に取っては、あの月のような……美しい……だが、決して手の届かぬ高嶺の花。一時は添えぬ苦しさに、想いを断ち切ろうともしたが……できなんだわ」
貴方様も苦しまれたのですね……
「風の頼りに、その女が具合を悪くしたと聞いた時……例え届かぬ月であっても、失えば己に取ってこの世は闇になると遅まきながら気が付いた……」
右京が吐露したその想い……堪えきれず、白雪太夫の瞳から涙が溢れ出す。
「……太夫?どうかしましたかな?」白雪の涙に驚いたのは、主の藤兵衛で、おそるおそる聞いて来た。
彼女は安心させるように首を振った。「いえ……お話を伺って、この胸が熱くなりんした。……そこまで想われて、その女性は……ほんに……幸せ者でありんすわいなあ……」
……私は幸せ者です。右京様……
本当に……嬉しい……!
その時、くらっと目眩が彼女を襲った。
……部屋の中がぐるぐる回る……
叫び声が遠くに聞こえ……
太夫は、彼女の夢見た逞しい腕に抱えられていたが、意識を失って、それに気づく事はなかった……。
右京は頬をかきながら苦笑した。「……某のような野暮天に来てくれる、酔狂な女はおらぬ」
松尾が首を振った。「あれ、松永様は良き男ぶりでありんすわいな」
白雪は、そんな妹花魁達に軽い嫉妬を覚えた。
私が言いたい……!
だが、一度口にすれば、想いが溢れて、抑えきれぬやも知れぬ。
春奈が更に彼に尋ねた。「ならば、好いたお方はありんすか?」
さすがに慌てた藤兵衛がたしなめる。「これ、そんな明け透けにご無礼な。松永様申し訳ございません」
「……いや、良い。好きな女は……おる」
……そのどこか儚い笑み。
白雪の胸がドキリとし、思わず高鳴った。
右京はあえて目を背けるように、開け放った障子から見える丸い月を振り仰いだ。「……某に取っては、あの月のような……美しい……だが、決して手の届かぬ高嶺の花。一時は添えぬ苦しさに、想いを断ち切ろうともしたが……できなんだわ」
貴方様も苦しまれたのですね……
「風の頼りに、その女が具合を悪くしたと聞いた時……例え届かぬ月であっても、失えば己に取ってこの世は闇になると遅まきながら気が付いた……」
右京が吐露したその想い……堪えきれず、白雪太夫の瞳から涙が溢れ出す。
「……太夫?どうかしましたかな?」白雪の涙に驚いたのは、主の藤兵衛で、おそるおそる聞いて来た。
彼女は安心させるように首を振った。「いえ……お話を伺って、この胸が熱くなりんした。……そこまで想われて、その女性は……ほんに……幸せ者でありんすわいなあ……」
……私は幸せ者です。右京様……
本当に……嬉しい……!
その時、くらっと目眩が彼女を襲った。
……部屋の中がぐるぐる回る……
叫び声が遠くに聞こえ……
太夫は、彼女の夢見た逞しい腕に抱えられていたが、意識を失って、それに気づく事はなかった……。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて捨てられたけど感謝でいっぱい
青空一夏
恋愛
私、アグネスは次期皇后として皇太子と婚約していた。辛い勉強に日々、明け暮れるも、妹は遊びほうけているばかり。そんな妹を羨ましかった私に皇太子から婚約破棄の宣言がされた。理由は妹が妊娠したから!おまけに私にその妹を支えるために側妃になれと言う。いや、それってそちらに都合良すぎだから!逃れるために私がとった策とは‥‥
天に掲げよ!懸かり乱れの龍旗を!〜もし上杉謙信が天才軍師を得ていたら〜
友理潤
歴史・時代
軍神、上杉謙信。
戦国最強と謳われた彼の軍は、足利将軍家復権の為に、京を目指したがついにその夢は叶わなかった。
そんな彼に足りなかったものの一つに『軍師の存在』があったと言われております。
この物語は、上杉謙信がもし神算鬼謀の天才軍師と運命的な出会いを果たして、天下を目指していたら……
そんなもう一つの上杉謙信の物語です。
宿敵、武田信玄との決戦。
北条氏康との壮絶な関東覇権争い。
そして織田信長との天下を巡る激闘…
といった強敵たちと激戦を繰り広げて天下を目指していく、そんなお話になります。
※この物語はフィクションです。
※街角クリエイティブが選ぶ
『無料で読める携帯小説ランキングトップ30』 第4位
※小説家になろうでも公開中です
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
【完結】電を逐う如し(いなづまをおうごとし)――磯野丹波守員昌伝
糸冬
歴史・時代
浅井賢政(のちの長政)の初陣となった野良田の合戦で先陣をつとめた磯野員昌。
その後の働きで浅井家きっての猛将としての地位を確固としていく員昌であるが、浅井家が一度は手を携えた織田信長と手切れとなり、前途には様々な困難が立ちはだかることとなる……。
姉川の合戦において、織田軍十三段構えの陣のうち実に十一段までを突破する「十一段崩し」で勇名を馳せた武将の一代記。
日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編
西八萩 鐸磨
歴史・時代
アテルイ、安倍貞任、奥州藤原三代、伊達政宗、各時代を駆け抜けた英雄たち。彼らは古代まで遡る、この国の成り立ちに関わる何かを知り、守り、抗おうとしていた。
神話の時代から幾度となく繰り返される侵略と支配、そして同化。
攻める側にはこの地を畏れる理由があり、攻められる側には立ち向かうだけの理由があった。
この地で畏れ、敬われ、そして祀られるものは一体何なのか。
この国の二千年にわたる歴史に秘された因果が織りなす相克の物語りが始まる。
(いにしえの陸奥国において最大の大社は鹽竈神社である。しかし当事の国家の正式なリストである延喜式にはその名前すら記載されていない。にもかかわらず国家の税収から他を圧倒する五倍もの祭祀料を下されていた。これは何を意味するのか?神武東征との関わりとは?アマテルは二人いる?歴史の裏側に隠された真実とは?)
伊藤とサトウ
海野 次朗
歴史・時代
幕末に来日したイギリス人外交官アーネスト・サトウと、後に初代総理大臣となる伊藤博文こと伊藤俊輔の活動を描いた物語です。終盤には坂本龍馬も登場します。概ね史実をもとに描いておりますが、小説ですからもちろんフィクションも含まれます。モットーは「目指せ、司馬遼太郎」です(笑)。
基本参考文献は萩原延壽先生の『遠い崖』(朝日新聞社)です。
もちろんサトウが書いた『A Diplomat in Japan』を坂田精一氏が日本語訳した『一外交官の見た明治維新』(岩波書店)も参考にしてますが、こちらは戦前に翻訳された『維新日本外交秘録』も同時に参考にしてます。さらに『図説アーネスト・サトウ』(有隣堂、横浜開港資料館編)も参考にしています。
他にもいくつかの史料をもとにしておりますが、明記するのは難しいので必要に応じて明記するようにします。そのまま引用する場合はもちろん本文の中に出典を書いておきます。最終回の巻末にまとめて百冊ほど参考資料を載せておきました。
(※この作品は「NOVEL DAYS」「小説家になろう」「カクヨム」にも転載してます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる