お江戸物語 藤恋歌

らんふぁ

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六話

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「いよっ!白雪太夫っ!日本一!」


「ああ。花魁、お前の主さんはこっちだぜ!」


「何、ぬかしやがる!てめぇには、あの、おかちめんこが似合いだぜ!」



姦しいざわめきを余所に、凛とした一輪の花のような白雪太夫が通る。


しずしずと進む花魁道中で、彼女はただ1人の男を捜す。


いつも人混みから少し離れた所に立つ侍の姿を……。




彼女の瞳が輝いた。


……いらっしゃった。


ドキドキと胸が高鳴る……。


そう、どこに居ても私は見つけるわ……。


そして、この微笑みは、あの方に……あの方だけに贈るの……。


花魁の花のような微笑みに、見惚れた男共が騒ぎだした。


「ほら、見ねぇ!白雪太夫はオイラの男っぷりに惚れたのよ!」

「おきやがれ!あれは、このオレ様への微笑みだぁな!」



少し離れた所から、この騒ぎの元になった男は、花魁に微かに頷いて見せた。



彼女のこの微笑みが、己だけに向けられた物だと気づいたのは、何時の事か……。


自分が何処にいようが、必ず探し当て、視線を合わせ微笑みかけて来る……。



……右京様……



それに応え、彼はそっと頷く。


……太夫……


…ほんの僅かなその時だけが、今の二人に許された逢瀬の時……。


太夫の眼差しが彼に語りかけた。


……右京様、今日も息災でありんすか?



右京の頷きがそっと応える。


……そなたこそ、身体をいとえ。



見交わす目と目…


幾千万の言葉より雄弁に思いのたけを語り出す。


右京様、又お会いしとうありんす……。


きっと、会おうぞ……。


右京様……。


太夫……。





最後に頷きあって、花魁は右京の前を通り過ぎて行く。

まるで彼など知らぬが如くに、もう振り返る事は無い。


花魁が去って、沿道から人が散り、ざわめきが消えて行く……。



右京は深いため息をついた……。



太夫はそっと滲んで来る涙を拭う……。




…逢いたい、今すぐにでも又逢いたい…!



右京様……!




太夫……!




……右京様、貴方様が慕わしくて……。




……太夫、そなたが愛おしゅうて……。




……想いは募るばかり……。




……何時まで……何時まで耐えられるのだろう……?



……見つめ合う……ただ、それだけに?

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