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25話
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2人の男が穏やかに話していたが、内容は実に殺伐としていた。
「さて、何の事を仰っているのやら……」
方やイルマヤ王国宰相ロイド。
「惚けないで頂きたい。聖女様に逃げられたと専らの噂ですぞ。さてはイルマヤ王国の待遇が悪かったのではないのですかな?事実だとすれば教会でお預かりした方が宜しいでしょう」
此方、大司教ラダスール。
「どこで、そのような噂話を耳にされたか存じませんが、根も葉もない話ですよ」
「では何故王都中を騎士達が連日走り回っているのですか?」
ああ、その事ですか、とロイドが事も無げに言った。
「最近、王都が物騒になってきたという話があちこちから聞こえて来まして。実際この間も食堂を営んでいた夫婦が、喧嘩から殺人に発展した事件がありましてね。これが瘴気のせいなのかどうか、今、騎士達が調査しているのですよ」
「では、聖女様とは無関係だと?」
「ええ、聖女様は離宮にいらっしゃいます」
フンとラダスールは鼻を鳴らす。
「離宮?そちらにいらっしゃる聖女とはリサ様でしょう?」
「そのリサ様が今、臥せっていらっしゃるのでお見舞いに行かれているのですよ。同じ異世界人、つまりただ1人の同郷の方ですから」
暫くはあちらに滞在し、色々話し合うのだろうと宰相は言った。
むうっとラダスールは眉を寄せる。
聖女であるリサは教会においては教皇と並ぶ地位にある。
つまり大司教達より上の扱いなのだ。
当然聖女の意向は彼らよりも優先される。
それにラダスールは正直リサを苦手としていた。
昔、教育に力を入れていたリサは、その地位を利用し、全ての子供は国の宝、孤児達にも教育が必要だと訴え改革に乗り出した事がある。
それまで歴代の聖女の啓蒙によって、周辺国より豊かな王国とはいえ、社会的弱者の孤児の扱いは様々で、教会が管理していても貧しくて、食べる事がやっとだったり、悪い領主の管理下では奴隷のように扱われたりしていたのである。
その他にも、放置されていた孤児が飢えから犯罪に走ったり、路上で打ち捨てられるように死んだりと言った事例も多かった。
そこでリサは各地にちゃんとした孤児院を作って、まず衣食住を確保させた。
地方によっては、まだ学校が無い所もある為、15歳の成人まで社会の知識階級でもある教会が養育責任を持ち、必ず読み書き、四則演算は身に付けさせる事を徹底させた。
問題はその維持費である。
国庫から人数に応じての予算、領主や貴族、商人からの寄付、焼菓子、手芸品等の教会独自の物品販売の売上、教会の献金の-部が割当てられるのは良いにしても、司教以上の役職者の報酬から3割という話が出た時には大騒ぎになった。
当時司教だったラダスールも反対した1人だったのだが、リサは反対派を徹底的にやり込めたのだ。
曰くーー
司教ともなれば住む場所は教会とは別に持てる。
経費とは別に、生活費も教会から出ていて、炊事は修道士達が担当している。
衣服は普段日中は法衣がある。
更に雑用や汚れ仕事はせず、何処に行くにも決められた法衣で充分。
夜も夜着があれば事足りる。他に必要なのは式典用の法衣ぐらいだ。
はっきり言えば下手な庶民よりも困らない生活が保証されているのに、何の問題があるのか。
3割削減に反対なのは、更に贅沢な生活をする為なのか。
聖職者が清貧を旨とせずして、貧しい者達に偉そうに説教できるのか。
三食どころか、-日-食も、まともに食べられず、服-着を継ぎを当てて着ている者もいるというのに。
その太った指に何個も填めている、きんきらきんの指輪やら、宝石の付いた指輪で孤児何人を何日養えるか計算してみれば良い。
仮にも聖職者が孤児達の養育より、そっちの方が大事です、とまさか言わないだろう。
常日頃から為に生きろ、隣人には慈悲を、貧しい者には施しを、自己犠牲の尊さを説教しているのだから、率先して見本となるべきである。
こうしてリサは反対意見を正諭で叩き潰した。
この時、ラダスールもリサにこてんぱんにされた1人である。
しまいには、各司教の支出の監査をすると匂わせた。
そこから何故払えないのか調べると言うのである。
教皇に訴えた者もいたが、教皇までも3割削減に応じるとなっては従わざるを得なかった。
この時教皇が反対派に向かって言った。
「これ以上、グダグダ言うな。リサがいなければ喚くその口も瘴気で利けなくなっていたのだぞ。それに民衆の絶対的支持を受け、人道上正しい行いをしている聖女に、聖職者が反対している事が分かったら信者を失う」
リサはやり合ったラダスールを始めとする反対派の事をよく憶えていて、「今日も孤児達はあなた方のおかげで、慈悲や自己犠牲を学んでいる事と思いますわ、オホホホ♪」とか言って来るのだ。
こうした経緯があり、ラダスールは云わば鬼門と言うべきリサのいる離宮を訪れた事はない。と言うか行きたくない。
「……それでは本宮にお戻りになった時にでも又伺うとしましょう。認定の件もありますから」
「ええ、その時はお知らせします」
ラダスールが立ち去ると宰相は大きく息を吐いた。
「……とりあえずは誤魔化せたが……長くは保たんぞ。全く何処にいるのやら……」
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「さて、何の事を仰っているのやら……」
方やイルマヤ王国宰相ロイド。
「惚けないで頂きたい。聖女様に逃げられたと専らの噂ですぞ。さてはイルマヤ王国の待遇が悪かったのではないのですかな?事実だとすれば教会でお預かりした方が宜しいでしょう」
此方、大司教ラダスール。
「どこで、そのような噂話を耳にされたか存じませんが、根も葉もない話ですよ」
「では何故王都中を騎士達が連日走り回っているのですか?」
ああ、その事ですか、とロイドが事も無げに言った。
「最近、王都が物騒になってきたという話があちこちから聞こえて来まして。実際この間も食堂を営んでいた夫婦が、喧嘩から殺人に発展した事件がありましてね。これが瘴気のせいなのかどうか、今、騎士達が調査しているのですよ」
「では、聖女様とは無関係だと?」
「ええ、聖女様は離宮にいらっしゃいます」
フンとラダスールは鼻を鳴らす。
「離宮?そちらにいらっしゃる聖女とはリサ様でしょう?」
「そのリサ様が今、臥せっていらっしゃるのでお見舞いに行かれているのですよ。同じ異世界人、つまりただ1人の同郷の方ですから」
暫くはあちらに滞在し、色々話し合うのだろうと宰相は言った。
むうっとラダスールは眉を寄せる。
聖女であるリサは教会においては教皇と並ぶ地位にある。
つまり大司教達より上の扱いなのだ。
当然聖女の意向は彼らよりも優先される。
それにラダスールは正直リサを苦手としていた。
昔、教育に力を入れていたリサは、その地位を利用し、全ての子供は国の宝、孤児達にも教育が必要だと訴え改革に乗り出した事がある。
それまで歴代の聖女の啓蒙によって、周辺国より豊かな王国とはいえ、社会的弱者の孤児の扱いは様々で、教会が管理していても貧しくて、食べる事がやっとだったり、悪い領主の管理下では奴隷のように扱われたりしていたのである。
その他にも、放置されていた孤児が飢えから犯罪に走ったり、路上で打ち捨てられるように死んだりと言った事例も多かった。
そこでリサは各地にちゃんとした孤児院を作って、まず衣食住を確保させた。
地方によっては、まだ学校が無い所もある為、15歳の成人まで社会の知識階級でもある教会が養育責任を持ち、必ず読み書き、四則演算は身に付けさせる事を徹底させた。
問題はその維持費である。
国庫から人数に応じての予算、領主や貴族、商人からの寄付、焼菓子、手芸品等の教会独自の物品販売の売上、教会の献金の-部が割当てられるのは良いにしても、司教以上の役職者の報酬から3割という話が出た時には大騒ぎになった。
当時司教だったラダスールも反対した1人だったのだが、リサは反対派を徹底的にやり込めたのだ。
曰くーー
司教ともなれば住む場所は教会とは別に持てる。
経費とは別に、生活費も教会から出ていて、炊事は修道士達が担当している。
衣服は普段日中は法衣がある。
更に雑用や汚れ仕事はせず、何処に行くにも決められた法衣で充分。
夜も夜着があれば事足りる。他に必要なのは式典用の法衣ぐらいだ。
はっきり言えば下手な庶民よりも困らない生活が保証されているのに、何の問題があるのか。
3割削減に反対なのは、更に贅沢な生活をする為なのか。
聖職者が清貧を旨とせずして、貧しい者達に偉そうに説教できるのか。
三食どころか、-日-食も、まともに食べられず、服-着を継ぎを当てて着ている者もいるというのに。
その太った指に何個も填めている、きんきらきんの指輪やら、宝石の付いた指輪で孤児何人を何日養えるか計算してみれば良い。
仮にも聖職者が孤児達の養育より、そっちの方が大事です、とまさか言わないだろう。
常日頃から為に生きろ、隣人には慈悲を、貧しい者には施しを、自己犠牲の尊さを説教しているのだから、率先して見本となるべきである。
こうしてリサは反対意見を正諭で叩き潰した。
この時、ラダスールもリサにこてんぱんにされた1人である。
しまいには、各司教の支出の監査をすると匂わせた。
そこから何故払えないのか調べると言うのである。
教皇に訴えた者もいたが、教皇までも3割削減に応じるとなっては従わざるを得なかった。
この時教皇が反対派に向かって言った。
「これ以上、グダグダ言うな。リサがいなければ喚くその口も瘴気で利けなくなっていたのだぞ。それに民衆の絶対的支持を受け、人道上正しい行いをしている聖女に、聖職者が反対している事が分かったら信者を失う」
リサはやり合ったラダスールを始めとする反対派の事をよく憶えていて、「今日も孤児達はあなた方のおかげで、慈悲や自己犠牲を学んでいる事と思いますわ、オホホホ♪」とか言って来るのだ。
こうした経緯があり、ラダスールは云わば鬼門と言うべきリサのいる離宮を訪れた事はない。と言うか行きたくない。
「……それでは本宮にお戻りになった時にでも又伺うとしましょう。認定の件もありますから」
「ええ、その時はお知らせします」
ラダスールが立ち去ると宰相は大きく息を吐いた。
「……とりあえずは誤魔化せたが……長くは保たんぞ。全く何処にいるのやら……」
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