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20話

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無事王都に入った葵は、漂う良い匂いに釣られて歩き出した。

匂いは串焼きの屋台からで、主がせっせと焼いていたので思わず鑑定。

“ヤミンの屋台 秘伝のタレで焼く大きな串焼きが評判。薄利多売で値段は1本銅貨2枚とリーズナブル。最近王都ガイドブックにも乗って絶賛商売繁盛中”

「へ~」

さすが鑑定レベル10。詳しい説明ありがとう。

早速葵は金を用意し、屋台の前に立った。
確かに1本銅貨2枚と書いた紙が貼り付けてある。銅貨2枚は約200円。
ジュウジュウ香ばしい匂いをさせて焼かれている串焼きは、日本の焼鳥の3倍はあり、確かにリーズナブル。

今日は商売を始めたばかりと見え、「お、やってる、やってる」「良かった、まだ空いてるな」の声がして次々に葵の後ろに人が並んで行った。

「おじさん、串焼き1本下さい」

「あいよ、ちょっと待ってな。あと少しだ」

こんがり焼き上った串焼き。
金を払い、お釣をもらったら後続の邪魔にならない様、脇にずれ早速噛りつく。

「ーー美味しっ!」

その声が聞こえたらしくヤミンはニヤッと笑った。
「どうだ旨いだろう。又来てくれよ」

「うん!」

それから葵は、いくつかの屋台を鑑定しつつ、買い食いをして回った。
鑑定のおかげで安くて美味しい屋台が分かるのでハズレがない。
有難い事に、これなら食生活は大丈夫そうだ。


それから葵は大事な道着に代わる服を購入する事に決めた。
スポーツバックと教科書は諦めたが、道着は祖父との絆であり、このまま着続けてボロボロにしたくはない。

予算の事もあるので、古着屋でありふれた男物を求めた。
チラッと見た女物は、全てスカート丈が長すぎ動きずらい。何かあったら逃げられなくなる。

選んだのは元の世界のGパンのようなパンツ、黒のシャツ、カーキ色のフード付上着。
鑑定でクリーン魔法で綺麗になっている事を確認済みなので試着室で着替え、そのまま会計。道着の方はインベントリに収納する。

着替えて店を出た葵は、人がいないと発揮出来ないスキルを1つ試してみた。

幻覚スキル。
他人に本人とは全く違う姿を見せ、誤認させる事ができる。更に闇属性を持つ者は合わせ技でもっとエグイ事も可能らしいが、とりあえずは姿変えで用は足りる。

今、目立ちたくない葵には最適のスキルと言えた。

最初髪の長い、王都にいる普通の女の子のイメージを思い浮かべると、その通りの姿と声で他人には認識され、姿を変える前の事は記憶が擦り変わって覚えていない。

早速葵は、男の姿では入れない場所、下着の店に向かう。
水魔法のクリーンで浄化し、清潔ではいられるが、生地が古くなるのは避けられない。
やはり着替えは欲しいところだ。

面食らったのは、丈が長いドロワーズという
かぼちゃのような形の下着だ。
ごてごてしたフリルやレースのない、なるべくシンプルな物を選ぶ。
それとシミーズを3枚ずつ。

ブラがあるようなのは、鎧か!というようなコルセットだったのでパス。
にある胸に無理な締め付けは良くないのだ、うん。

……布を巻いておけば何とかなるのがカナシイ。


再び幻覚で平凡な短い茶髪に、少し彫りの深い顔に変えた葵は、王都に大勢いる少年の1人にしか見えない。

お腹は一杯だし、とりあえず必要な事をした葵は眠くなって来た。
夕べは緊張して徹夜だったから無理もない。

通行人を鑑定して、親切なおばさんを見つけ、中ランクの宿屋がどこにあるか聞いて見る。

「そういう宿屋ならあっちだよ。この通りを真っ直ぐ行って、3つ目の角を曲がったら幾つもあるよ」

「ありがとう」

行って見ると言われた通り、中ランクの宿屋が何軒もあった。

鑑定しながら一旦通りすぎ、再び戻る。

そしてー軒の宿屋を選んだ。

【林檎亭】
“主人ヴィオークが林檎好きでこの名が付いた。
時期になるとアップルパイが名物。トーストに塗るアップルバターが絶品。
ヴィオークは熊のように身体が大きく、顔が凶悪犯のように強面、無愛想な為、客がビビるので値段設定がやや低め。
料理の腕は-流なので、実はかなりお得な宿である”

などとガイドブック顔負け。いや、ハズレ無し。

チリリン……!
ドアべルが可愛い音を立て来客を告げる。

「ごめんくださーい!泊まりたいんですけど部屋ありますか?」

葵の呼び掛けに、奥からのっそり出て来たのは
まさに熊。

ギロッとこちらを見る目の鋭さと言ったら……気の弱い者なら、それだけでチビリそうである。

「泊まる?ウチにか?」

「そうです。部屋ありますか?」

「ここは宿屋だ、あるさ」
鑑定通り無愛想極まりない。

だが葵はこういうタイプに免疫がある。
祖父の道場には警察関係者が来ていた。
特にヤが付く職業を相手にする部所の人は、どっちかヤか警察か区別がつかないような凶悪な顔をしていたりする。

そんなオジサン達に、小さい頃から遊んで貰っていたので、人は見かけによらない事を良く知っていた。

今は鑑定スキルもあり、人物判定が100%正解な葵にビビる理由はない。

“ヴィオーク(30) 
【林檎亭】の主人兼料理人。
腕は一流だが、無愛想、強面で客がビビるのを内心とても気にしている。
愛妻ジェネ(24)と愛娘リラ(4)がいる。年頃になって「パパ臭い」と言われたら、ショックで死ぬ、と本気で思っている……

ーーあらやだ、可愛い。

「ーー風呂付きは銀貨6枚銅貨5枚、シャワーだけは銀貨4枚だ」

「風呂付きで!」

とりあえず1日分を前払で払うと、2階の205に案内された。


セミダブルのベッド、小さなテーブルと椅子、洋服掛け、荷物入れ用の棚と引き出し、トイレ、浴室はシャワー付でちゃんと浴槽もある。

うん。部屋も清潔そうだし、これなら充分じゃない?

「食堂の時間とかの細かい決まりは、そこの紙に書いてある。これが鍵だ。部屋を出る時 、閉め忘れるな」

「は一い」
にっこり笑って返事した葵に目をパチクリするとヴィオークはそそくさと出て行った。

「お風呂だ、お風呂♪」

浴室の説明によると使い方はホテルと変わりない。
浴槽とシャワーに仕込まれた火の魔石と水の魔石の働きで適温の湯が出て来るらしい。
そして火の印が付いたボタンを押せば熱くなり、水の印が付いたボタンを押せばぬるくなるので分かりやすい。

湯を張り、浴槽で手足を伸ばし、満足そうにため息を付いた。

「フー……やっぱりお風呂は良いよねー。これは聖女様に感謝かも」













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