上 下
11 / 28

11話

しおりを挟む
『団長!』

聖女の捜索を続けるヒューバートに部下の1人、魔道具を持たせておいた部隊長から連絡が入った。

『たった今、新しい情報が入りました。入口に待機させておいたウォレス達が来まして聖女様の荷物らしき物が見つかったと……』

「何だと!?直ぐそっちに行く。何処にいる?」

『ソネ橋の側です』

ヒューバートが駆けつけると既に何人かが川沿いをウロウロしていた。ウォレスは主都へ向う異国風の少年がそぐわないバックを持っていた為、中身ごと買い取った事を報告した。

「異国風?」

「ええ、言葉も片言で、あまりまだ良く話せないようでした」

栄えている王都には実際異国人も多いので、そこを目指す事は不思議でも何でもないのだが……。 

今のタイミングで異国人?怪しくないか?

団長の疑念にウォレスが答える。「確かに髪は短かかったですが、団長が言った短いスカートじゃありませんでしたよ。厚地の上下に胴を布で縛って……何処を取っても庶民!って感じでしたけどね。薬草採りも慣れてるようで、オキシ草を4束持ってました。あれの薬効は蕾のうちでないとありませんが、見事に全て蕾でしたし。なぁ、そうだよな?」

ハルも同意した。「ええ、それにバッグと本を売って貰うのに、中程度の宿代10日分寄越せと銀貸28枚と小金貸4枚取られました。ちゃっかりしてるって言おうか何て言おうか……」

「しかも足りない分は俺の革袋でって、しっかり要求して行きましたからね。これです」

「分かった、分かった。後でお前達にその金は返すから」

優しい、従順、穏やか……歴代聖女達から培われたイメージからは程遠い逞しい様子に、ヒューバートは少しばかり引っ掛かる事を覚えながらも、カーズからバックを受け取った。

「それに我々が人攫いだと思い込んで逃げたんでしょう?それなのにわざわざ目立つバックなんか持って近づいて来ますかね?」

ハルの疑問ももっともなので、ヒューバートは一旦小さな引っ掛かりを棚上げにし、バックを改めて見た。

聖女達は身1つ、持ち物も小さなバックぐらいが精々で、着替えもない状態で召還されるのが普通だ。

その思い込みのまま、スポーツバックに道着という着替えを持ち、スカートを脱いだ葵をそうとは気づかず、みすみす見逃した事を騎士達はまだ知らない。


「……確かに聖女様のバックだ。これで-」
ランフェルドをブン殴ったとはさすがに口に出来ない。

本2冊も異世界の物なのは確実だ。
読めない文字も勿論そうだが、装丁、紙質、綺麗に揃った印字まで、こちらの世界の物とはかけ離れている。

「団長、こんな物が川の中に」

「こっちにもありました」

川と川辺の薮の中からそれぞれ持って来たのは水にぐっしょり濡れ、紙が破れそうな記録帳と本。

ヒューバートは険しい顔になった。

あの時聖女は、もう1つの荷物は背負っていて、このバッグは手に持っていた。

運動神経は良さそうだったが、夜で足を踏み外して転落したとしたら、これを手放したとしても不思議ではない。

「……人手をもっと増やして川の捜索もしなければ」

直ちに魔道具で城に連絡が行った。

聖女が召還後行方不明になった事に加え、川に転落した可能性も示唆され、城の中は騒然となる。

他の本や記録帳が川の中やその辺りで発見された為、川の捜索は最優先事項と騎士達が大勢駆り出され異国の薬草採りの少年の事は、極めて多忙になったヒューバートの頭からすっかり抜け落ちていた。





「何?聖女が行方不明だと?それは本当か?」
信者から聞いたと、付人が思いがけない報告をして来たのでラダスール大司教は思わず問い返した。

「はい。今イルマヤ王国の上層部は大変な騒ぎだそうで」


今まで聖女召還から、教育と称する刷り込み、果ては婚姻までガッチリ彼女達を囲い込んでいたイルマヤ王国のまさかの大失態。

王国としては当然箝口令を敷いていた事だが、大勢の騎士が動いているのだ。
壁に耳あり、何処からかは漏れる。

「ー-ほほう。奴らを人攫いとな。それは面白い事になったものよ」
ラダスールはにんまりとした。

聖女がイルマヤを敵認定しているのなら、益々都合が良い。

「良いか?聖女を騎士達より早く見つけるのだ。上手く行けばライカ帝国がイルマヤ王国に成り代わる千載一遇の機会となるやも知れぬ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...