上 下
7 / 28

7話

しおりを挟む
葵は水と食べ物を取り、携帯トイレを使用して多少なりとも人心地がついた。

屋根の上の為、吹き曝しで体感温度がかなり低くなり、レインコートをごそごそと取り出して着込む。
風を通さないのでそこそこ暖かい。

かなり珍妙なスタイルになったが、誰かが見てる訳でもなし、まあいいやと思っていた。

夜、知らない場所で更に森の中、では遭難して下さいと言っているようなもの。
とりあえず、葵はここで夜明けを待つつもりだった。
明るくなれば少しは様子も分かるだろう。


「ーーでは、やってみるか」

ラノべには付きもののアレ。召還されたと言うからには自分にも出来るかもしれない。

「ステータスオープン」


ーーやっぱり出たよ。

パソコンの画面のような物が目の前に現れた。


アオイ ミネギシ (聖女、異世界人)
年齢1 4

属性 聖、光、風、土、水、火、闇(全属性)
魔力∞

スキル 結界(レベル10/10)
    鑑定(レベル10/10)
    幻覚(レベル10/10)

他もズラズラと表示されていたが、画面が涙で滲み、葵はウィンドウを一旦消した。

こんなもの、ちっとも嬉しくない。それより家に帰りたい。

葵は膝を抱えて顔を埋める。
「ーー聖女に全属性に魔力が∞?スキルがレベル10って……ホント、チートじゃん」

チートなんて欲しいと言った?
ここに来たいって望んだ?

要らないよ!こんなの。

私の夢はこの世界にはない。
検事になって、犯罪者達に罰を下したい、それが将来の希望なのに。

勝手に人の事を聖女だなんて決めて、何の権利があってそれを奪うの?

自分の未来をねじ曲げられた葵は、悔しくて悲しくて堪らない。

葵に影響を与えた父親の樹は、求刑が厳し目の鬼検事として知られていた。
父子家庭でありながら、弁護士に転身して娘の側にいる事を選ばないのは、検事だけが被害者の声を代弁し、求刑ができる立場だから。

“依頼人の利益を守る”事が大前提の弁護士とはそこが違う。例え依頼人が悪くても弁護しなければならない。

大手弁護事務所からの引き抜きもあった様だが、正義感の強い樹の性格では無理だった。

『--葵、側にいてやれなくてゴメンな』
『大丈夫だよ。お父さんは鬼検事の方が似合ってるよ。ガンガン悪人共を責めて責めてやっつけるのがさ』

多忙な上に単身赴任のせいで、なかなかー緒にいられなくても葵はそんな父が好きだし、尊敬している。


「お父さん、心配してるよね……」

久しぶりに帰ってみれば娘が学校帰りに行方不明。

普通の中学生なら家出や夜遊びを疑う所だが、普段から葵は予定外に行動を変える時には、必ず連絡する習慣が身に付いているので、連絡なしの寄道も考えにくい。

特に今日は半年ぶりの父親の帰宅の日。その日にわざわざ夜遊びの可能性もなし。

葵は検事を目指し、勉強しているだけあって、成績優秀、品行方正。親友の椎名綾香を初め友人も多く、部活は部長をし、後輩からも慕われている。
つまり家庭や、学校での問題はなく家出する理由が見あたらない。

残るは事件性。
特に父親が検事と来ては、おそらく直ぐにそちらを疑う筈だ。
樹が取り扱った刑事事件の中には暴力団絡みもあり、脅迫を受けたのも一度や二度では収まらない。

日本のマスゴミ共の格好の餌食になるだろう。

「大騒ぎになりそう……」

ため息をついた所へ、ドドドドッと地響きが遠くから聞こえて来て葵は顔を上げた。

身を低くしながら、そーっと屋根の端まで行って身を伏せ下を覗くと、3 0人程の騎士達が馬でやって来るのが見えた。

出迎えているのが例の2m。

「団長!」
下馬した騎士達が一斉に礼を取る。

(あの2mは団長なのか)

「来たな。コリンズ、早速だがここから半径5km以内を徹底的に捜せ」

「そんなに遠くまで行けますかね?」

(行ってないよ-、ここだよ)

「俺もそう思うが念のためだ。今度の聖女サマは、身体能力はかなりのモノだと思うぞ。さっきも言ったが、そこら辺の貴族の令嬢とは違うんだと頭に入れとけ。いいか?抵抗されても、くれぐれも傷つけるなよ」

「了解しました」

あの一撃はかなり効いたらしく、用心しろの訓示を受けて騎士達は捜索に散って行った。

そのまま様子を見ていると、中から見かけ王子が出て来て2mに声をかけた。

「ヒューバート、“塔”の者達を運ぶのにも人手がいるぞ」

「ええ、魔力切れで全員ブッ倒れてますからね。もうすぐ他のも来るでしょうし、あいつらに運ばせますよ」

「ああ」

“塔”の者とは魔法陣の回りでバタバタ倒れていたフードの連中の事だろう。
そうすると、まだ大勢ここにやって来るらしい。

「ランフェルド殿下はどうなさいます?」

(げっ!アイツ見かけだけじゃなく本当に王子だったんかい)

葵はそのランフェルドの返事を聞いて、顔を強ばらせる事になる。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...