10 / 23
10 レース生地 ☆
しおりを挟むその晩、二人は夫婦の寝室の同じベッドに横になった。
「私は自分の部屋に行きましょうか」というシロールの申し出をラクロは一蹴した。
「いてくれ」
「ですが、私がいて障りはありませんか?」
「――確かに夫として辛い状況ではあるが、病でもないのに夫婦が寝室を別にするというのは違うと思う」
シロールは頬を緩めた。大きなベッドの上をころーりと横転して、大人一人分の距離を隔てて肩を並べていたラクロの元に辿り着く。
ラクロの肩に緩めた頬を摺り寄せた。
「そうですね。寂しいですよね、そんなの」
躊躇うような間を置いて、ラクロはそろりとシロールの薄い背中に片腕を回した。
太い腕にぐっと体を引き寄せられてシロールはラクロを見上げる。
鼻先でラクロの両眼とかち合い、心音が鳴った。
あ、と言う間に唇を塞がれた。
角度を変えながら彼の口付けは深くなっていく。唇を合わせたままラクロはシロールの体の上にゆっくりと載り上げてきた。
大きな掌がシロールの体中を這い回り、片方の手がネグリジェの薄い生地の上から胸の膨らみを掴む。
シロールの口から、はあっと溜息が漏れ出た。短い息継ぎを与えてラクロは再びシロールの呼吸を奪う。
腔内で小さな舌を追い回されてはシロールはくぐもった声を漏らした。
生地ごと胸を包み込む掌が、親指を折り曲げて探る動きをする。胸の先端を突き止めると爪を立てた。
執拗に掻く。
唇の隙間でシロールは「んん」と籠った悲鳴を発した。胸への刺激で腰は跳ね、両の膝がもじもじと擦れ合う。腹部の下の辺りがずっと落ち着かない。
悩ましいシロールの様子を見て取り、ラクロは一度片手を胸から離した。少し荒っぽい手つきでネグリジェの裾を引っ張り上げる。
昨日は無かった上下の下着を認めて、彼は昨日と同じように動きを止めた。
灯りの無い薄闇の中、白いレースが仄かに光って見える。肌が透ける程薄手の生地を纏った体は全裸以上になまめかしいものがある。
俄かに動き出したラクロはシロールの首元までネグリジェを引き上げると、ブラレットのストラップを掴んで細い肩から外した。力任せに引き下げて隠されていた柔肌を暴く。
彼の眼前で二つの房がぷるりと弾み出て、シロールは思わず「あ」と羞恥の声を漏らした。
ラクロはやはり胸の先端に注目した。
散々掻かれた一方の果実が、薄桃色を濃くして膨らんでいる。可憐な首をぴいんと伸ばす果実を凝視したまま、彼は浅い呼吸を荒げた。
今日も無表情の下で大興奮している。
昨日と言い、ラクロの熱心な注目はシロールを落ち着かなくさせた。
彼は一々見過ぎだと思う。慣れない性癖だ。
「ラクロ様」
窘める声で呼び、シロールは暗に告げた。どう盛り上がっても進めませんよ……。
我に返ったように「ああ」と頷いたラクロは、下から持ち上げるようにしてシロールの胸に掌を這わせた。
「こうだったな」
言うや胸の先端に吸い付いた。
伝わっていない。察しながらもシロールは再開した愛撫に指摘どころではなくなっていった。
胸元に顔を埋めている彼の分厚い肩に縋り、齎される甘い痺れに耐える。
思いがけず強い刺激が来てうっかりシャツ越しに彼の皮膚に爪を入れてしまった。
すると彼は仕置きとばかりに口に入れていない方の胸の頂きに親指を当て、肉に押し込む。左右を同時に攻め立てられて、シロールは短い悲鳴を断続的に上げて余計彼に爪を立てた。
仕置きはエスカレートし、遂に彼の手は下にも及んだ。下腹部を彷徨う長い指先がレース生地の上から恥部に触れる。
腰をくねらせてシロールは「ダメです」と震える声で乞い、ラクロの肩を強く掴んだ。
ラクロは制止を聞き流し、探り当てたシロールの弱みを中指の腹で軽く擦った。
シロールは甲高い声を上げ、びくりと腰を揺らす。
味を占めたラクロの指は同じ場所を行き来した。擦る度に生地の滑りが良くなる。
それほど長くシロールは持たなかった。
「んん、もうっ」
終焉を嗅ぎ取ったラクロは白い胸元から顔を上げると、シロールを間近にして獰猛な眼差しを注いだ。
「いけ」
命じて深く口付け、容赦のない指で滑りの源を引っ掻く。
シロールの全身が激しく戦慄き、甘い嬌声がラクロの口腔内に吸い込まれた。
嵐が去り、シロールはまだ若干呆けたまま想念する。
昨晩は煌々としたシャンデリアの所為で気付き難かったけれど、今日は薄暗かったから彼の項が放つ光がよく見えた。
扉の開閉音がしてそろりと目を向ける。
浴室での発散を終えてきたラクロは少々バツが悪そうな顔をして、ベッドの上でくたりとしているシロールの方に歩みを向けた。
「平気か」
「病気ではないので、はい、平気です。ただ下着は廃棄処分と致しました」
「何故だ」
「男性はご存じ無いと思いますがレースというのはとても繊細でして、特にチュール部分は非常に細い糸が使われていて脆いのです」
「……掻いた所為か」
「上も下も糸が切れてダメになっていました。どの道セットアップなので片方がダメなら一蓮托生でした」
ベッドサイドに近付くとラクロは項垂れ、精悍な顔に影を落とした。
「悪かった」
「残念な事も起こるのが人生というものです」
「代わりの物を好きなだけ買うといい。いくらかかっても構わん」
「ランジェリーショップさんが大繁盛ですね。ですが、不足してる訳ではありませんので買い足しはまだ結構です」
因みに、第三皇子直轄地の主都となった旧ルクニェ王国王都はランジェリー作りが盛んで世界一の店舗数を誇る。セクシーを追及する王妃の命令でやたらと下着文化が発展した。
その内買いに行く機会もあるだろうと脳内に括り、シロールは瞑目した。
やがて瞼の裏が暗くなり照明が落とされたのを知覚する。
シーツを捲る音の後、ラクロの体温が隣に滑り込んで来た。
目を閉じたままシロールは告げた。
「おやすみなさい」
すぐ耳元で低い声が「ああ」と答え、目尻に彼の唇が掠める様に触れた。
シロールは頬を緩めた。
170
お気に入りに追加
479
あなたにおすすめの小説
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません
Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。
家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに
“お飾りの妻が必要だ”
という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。
ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。
そんなミルフィの嫁ぎ先は、
社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。
……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。
更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない!
そんな覚悟で嫁いだのに、
旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───……
一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……
初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。
石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。
色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。
*この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる