亡国公女の初夜が進まない話

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10 レース生地 ☆

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その晩、二人は夫婦の寝室の同じベッドに横になった。
「私は自分の部屋に行きましょうか」というシロールの申し出をラクロは一蹴した。

「いてくれ」
「ですが、私がいて障りはありませんか?」
「――確かに夫として辛い状況ではあるが、病でもないのに夫婦が寝室を別にするというのは違うと思う」

シロールは頬を緩めた。大きなベッドの上をころーりと横転して、大人一人分の距離を隔てて肩を並べていたラクロの元に辿り着く。
ラクロの肩に緩めた頬を摺り寄せた。

「そうですね。寂しいですよね、そんなの」

躊躇うような間を置いて、ラクロはそろりとシロールの薄い背中に片腕を回した。
太い腕にぐっと体を引き寄せられてシロールはラクロを見上げる。
鼻先でラクロの両眼とかち合い、心音が鳴った。
あ、と言う間に唇を塞がれた。

角度を変えながら彼の口付けは深くなっていく。唇を合わせたままラクロはシロールの体の上にゆっくりと載り上げてきた。
大きな掌がシロールの体中を這い回り、片方の手がネグリジェの薄い生地の上から胸の膨らみを掴む。
シロールの口から、はあっと溜息が漏れ出た。短い息継ぎを与えてラクロは再びシロールの呼吸を奪う。
腔内で小さな舌を追い回されてはシロールはくぐもった声を漏らした。

生地ごと胸を包み込む掌が、親指を折り曲げて探る動きをする。胸の先端を突き止めると爪を立てた。
執拗に掻く。
唇の隙間でシロールは「んん」と籠った悲鳴を発した。胸への刺激で腰は跳ね、両の膝がもじもじと擦れ合う。腹部の下の辺りがずっと落ち着かない。

悩ましいシロールの様子を見て取り、ラクロは一度片手を胸から離した。少し荒っぽい手つきでネグリジェの裾を引っ張り上げる。
昨日は無かった上下の下着を認めて、彼は昨日と同じように動きを止めた。

灯りの無い薄闇の中、白いレースが仄かに光って見える。肌が透ける程薄手の生地を纏った体は全裸以上になまめかしいものがある。

俄かに動き出したラクロはシロールの首元までネグリジェを引き上げると、ブラレットのストラップを掴んで細い肩から外した。力任せに引き下げて隠されていた柔肌を暴く。
彼の眼前で二つの房がぷるりと弾み出て、シロールは思わず「あ」と羞恥の声を漏らした。

ラクロはやはり胸の先端に注目した。
散々掻かれた一方の果実が、薄桃色を濃くして膨らんでいる。可憐な首をぴいんと伸ばす果実を凝視したまま、彼は浅い呼吸を荒げた。

今日も無表情の下で大興奮している。
昨日と言い、ラクロの熱心な注目はシロールを落ち着かなくさせた。
彼は一々見過ぎだと思う。慣れない性癖だ。

「ラクロ様」

窘める声で呼び、シロールは暗に告げた。どう盛り上がっても進めませんよ……。
我に返ったように「ああ」と頷いたラクロは、下から持ち上げるようにしてシロールの胸に掌を這わせた。

「こうだったな」

言うや胸の先端に吸い付いた。
伝わっていない。察しながらもシロールは再開した愛撫に指摘どころではなくなっていった。
胸元に顔を埋めている彼の分厚い肩に縋り、齎される甘い痺れに耐える。
思いがけず強い刺激が来てうっかりシャツ越しに彼の皮膚に爪を入れてしまった。
すると彼は仕置きとばかりに口に入れていない方の胸の頂きに親指を当て、肉に押し込む。左右を同時に攻め立てられて、シロールは短い悲鳴を断続的に上げて余計彼に爪を立てた。
仕置きはエスカレートし、遂に彼の手は下にも及んだ。下腹部を彷徨う長い指先がレース生地の上から恥部に触れる。
腰をくねらせてシロールは「ダメです」と震える声で乞い、ラクロの肩を強く掴んだ。
ラクロは制止を聞き流し、探り当てたシロールの弱みを中指の腹で軽く擦った。
シロールは甲高い声を上げ、びくりと腰を揺らす。
味を占めたラクロの指は同じ場所を行き来した。擦る度に生地の滑りが良くなる。
それほど長くシロールは持たなかった。

「んん、もうっ」

終焉を嗅ぎ取ったラクロは白い胸元から顔を上げると、シロールを間近にして獰猛な眼差しを注いだ。

「いけ」

命じて深く口付け、容赦のない指で滑りの源を引っ掻く。
シロールの全身が激しく戦慄き、甘い嬌声がラクロの口腔内に吸い込まれた。



嵐が去り、シロールはまだ若干呆けたまま想念する。
昨晩は煌々としたシャンデリアの所為で気付き難かったけれど、今日は薄暗かったから彼の項が放つ光がよく見えた。

扉の開閉音がしてそろりと目を向ける。
浴室での発散を終えてきたラクロは少々バツが悪そうな顔をして、ベッドの上でくたりとしているシロールの方に歩みを向けた。

「平気か」
「病気ではないので、はい、平気です。ただ下着は廃棄処分と致しました」
「何故だ」
「男性はご存じ無いと思いますがレースというのはとても繊細でして、特にチュール部分は非常に細い糸が使われていて脆いのです」
「……掻いた所為か」
「上も下も糸が切れてダメになっていました。どの道セットアップなので片方がダメなら一蓮托生でした」

ベッドサイドに近付くとラクロは項垂れ、精悍な顔に影を落とした。

「悪かった」
「残念な事も起こるのが人生というものです」
「代わりの物を好きなだけ買うといい。いくらかかっても構わん」
「ランジェリーショップさんが大繁盛ですね。ですが、不足してる訳ではありませんので買い足しはまだ結構です」

因みに、第三皇子直轄地の主都となった旧ルクニェ王国王都はランジェリー作りが盛んで世界一の店舗数を誇る。セクシーを追及する王妃の命令でやたらと下着文化が発展した。
その内買いに行く機会もあるだろうと脳内に括り、シロールは瞑目した。
やがて瞼の裏が暗くなり照明が落とされたのを知覚する。
シーツを捲る音の後、ラクロの体温が隣に滑り込んで来た。
目を閉じたままシロールは告げた。

「おやすみなさい」

すぐ耳元で低い声が「ああ」と答え、目尻に彼の唇が掠める様に触れた。
シロールは頬を緩めた。





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