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ムー大陸編
48ヒラニプラの王ラ・ムーの憂鬱3
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「黒長は取り敢えずいなくなったけど、きっとまた来るよね」
部屋も戻ってアルハザードに話しかけると、「その時はまた退治するだけだよ」と涼やかに答えられた。
この魔人にとっては腹ごなしの運動にさえならないのだろう。
「そうだね、たまには運動もしないとね」
軽くウォーキングでもした後のような口調だ。
「戦って実感したよ。生まれが同じなだけに、あの鳥も黒色人と同じく邪悪の固まりだね。それを作りだしている原因がここの増幅装置なんだから、何とも救いのない話だね」
そうだった、ラ・ム一たち王族は自らのために作られた増幅機装置のために、邪悪な生き物を生み出し、それに自分たちが悩まされている。しかし、黄金人は増幅装置により恩恵を受けているのだから、自業自得と言えなくもない。
それに対して黄金人以外の人々は、増幅装置に生体エネルギーを吸われ、尚且つそれによって生み出された邪悪な生き物に苛まれているのだ。アルハザードが救いがないと言ったのは、そのことだろう。
「ヒラニプラ以外の国にもあの鳥は飛んでいるんだろうね」
「そうだろうね、この国が特別という訳ではないからね」
「あの鳥に襲われたらすごい被害が出るよね」
「出るだろうね、ネットを張るぐらいじや防げないだろうしね」
「君ほど強い者もいないだろうしね」
「そうだね、誰も黒色人に勝てないと言ってたからね、いないだろうね。邪神もいないしね」
アルハザ一ドの肩に乗っているはずの邪神は、おそらく少し離れた所で戦いを見学していたのだろう。
しばらくすると昼食の時間となり、その後アルハザードは治療のために部屋を出て行った。
すぐにグラムダルクリッチの映像が頭に浮かんだ。またラ・ム一からの呼び出しがあるらしい。
グラムダルクリッチの後について最上階の祭壇の隣の部屋に入ると、ラ・ム一は窓辺に立ち外の様子を窺っていた。
アルハザードによると、ラ・ム一の視力は四、〇だそうなので、神谷には見えない遠くの景色が見えているがだろう。
「そなたは、アルハザードほどには強くないのだろうな」
いきなりラ・ム一が外を眺めながら訪ねてきた。
「僕ですか、僕に戦いなどできませんよ。彼と比べてというよりも、この王宮の中で一番弱いと思いますよ。僕にできることはこの楽器を弾くことだけです」
背負っているギターケースを指差した。
「そうか、やはり彼が特別ということなのだろうね」
「そうです、あの姿を見ても分かる通り、彼は僕たちとは違う壮絶な人生を体験しています。だからこその強さですよ」
「そうか、肉体的にも精神的にもあれだけの強さ持つには、それだけの代償を払っているということなのだな」
ラ・ム一は腕を後ろで組んで、外の様子を眺めたまま動かなかった。神谷には見えない物がラ・ム一には見えているのだろうか。
「あの黒鳥なのだが、この王宮以外の場所でも色々と被害が出ていてな。この国の戦士であの鳥に太刀打ちできる者はいないのだよ。先ほど彼が見せたような圧倒的な強さを持つ者がもう一人いればと思ってな」
「青色人の方でもダメなんですか」
「ああ、あの鳥の速さについていくことができない。どんなに訓練を積んでもダメだろうね」
先日の闘技場での動きを見た限り、ラ・ム一の言うとおり青色人ではあの鳥の速さに追いっくことはできないだろう。
「鳥を駆除するための木の実は枯れ、新たに植えた草は、なぜか芽が出ない。不思議なことだ」
この国の科学知識では酸性雨に依る被害という現実を知ることができないのだろう。
いっそのこと、精神力増幅装置の使用をやめてはどうかと言いかけたが、それを言ってしまうと、あの黒鳥の元が黒玉で、それがあの増幅機で作られていることを知っていることが分かってしまう。
なぜそのことを知っている? と聞かれることは間違いない。まさか邪神の作りだしたスクリーンで黒鳥が生まれる瞬間を見た、とは言えない。
「アルハザードの体が元に戻ったら、逆に彼の強さの秘密を検証させてもらうのもいいかもしれないな」
それは絶対に無理なのだが、それを口にすることはできない。
いつものようにゆっくりとした曲を三十ほど弾いて、ラ・ム一が満足したところで部屋を辞した。
「あの黒鳥に依って色々と被害が起こっているみたいだよ」
今日の治療を終え、アルハザードが部屋に戻って来た。
「そうだろうね、でも、いくら僕でも一人で全部の黒鳥を退治するのは無理だよ。数が多いしね」
「毒草の芽が出ないことを不思議に思っているみたいだね」
「酸性雨なんて知識がないんだろうね」
「一万ニ千年前にしては文明が進んでいると思うけど、科学的にはそうでもない感じだね」
「それはそうだろう、この時代は世界的には旧跡時代だからね。理由は分からないけどこの島は特別だね。クトウルフが僕にこの国に来るように勧めたのは、偏にあの精神力増幅機の存在故だろうねからね」
アルハザードの言うとおり、この時代に車や飛行船があるだけでも充分に驚異に値するのだ。しかし、それがこの鳥の耒来に暗い影を投げかけているかもしれないのも事実だ。
「まあ、王宮に飛来する黒鳥くらいならば、いっでも僕が退治してあげられるのだけどね」
「そう言えば、ラ・ム一が君の異常なほどの強さにっいて検証してみたいとも言っていたよ」
「まあ、検証の仕様がないだろうね。こいつのことが分からないのと同じ様に」
アルハザードがクスリと笑いながら邪神の喉をゴロゴロとなでた。
部屋も戻ってアルハザードに話しかけると、「その時はまた退治するだけだよ」と涼やかに答えられた。
この魔人にとっては腹ごなしの運動にさえならないのだろう。
「そうだね、たまには運動もしないとね」
軽くウォーキングでもした後のような口調だ。
「戦って実感したよ。生まれが同じなだけに、あの鳥も黒色人と同じく邪悪の固まりだね。それを作りだしている原因がここの増幅装置なんだから、何とも救いのない話だね」
そうだった、ラ・ム一たち王族は自らのために作られた増幅機装置のために、邪悪な生き物を生み出し、それに自分たちが悩まされている。しかし、黄金人は増幅装置により恩恵を受けているのだから、自業自得と言えなくもない。
それに対して黄金人以外の人々は、増幅装置に生体エネルギーを吸われ、尚且つそれによって生み出された邪悪な生き物に苛まれているのだ。アルハザードが救いがないと言ったのは、そのことだろう。
「ヒラニプラ以外の国にもあの鳥は飛んでいるんだろうね」
「そうだろうね、この国が特別という訳ではないからね」
「あの鳥に襲われたらすごい被害が出るよね」
「出るだろうね、ネットを張るぐらいじや防げないだろうしね」
「君ほど強い者もいないだろうしね」
「そうだね、誰も黒色人に勝てないと言ってたからね、いないだろうね。邪神もいないしね」
アルハザ一ドの肩に乗っているはずの邪神は、おそらく少し離れた所で戦いを見学していたのだろう。
しばらくすると昼食の時間となり、その後アルハザードは治療のために部屋を出て行った。
すぐにグラムダルクリッチの映像が頭に浮かんだ。またラ・ム一からの呼び出しがあるらしい。
グラムダルクリッチの後について最上階の祭壇の隣の部屋に入ると、ラ・ム一は窓辺に立ち外の様子を窺っていた。
アルハザードによると、ラ・ム一の視力は四、〇だそうなので、神谷には見えない遠くの景色が見えているがだろう。
「そなたは、アルハザードほどには強くないのだろうな」
いきなりラ・ム一が外を眺めながら訪ねてきた。
「僕ですか、僕に戦いなどできませんよ。彼と比べてというよりも、この王宮の中で一番弱いと思いますよ。僕にできることはこの楽器を弾くことだけです」
背負っているギターケースを指差した。
「そうか、やはり彼が特別ということなのだろうね」
「そうです、あの姿を見ても分かる通り、彼は僕たちとは違う壮絶な人生を体験しています。だからこその強さですよ」
「そうか、肉体的にも精神的にもあれだけの強さ持つには、それだけの代償を払っているということなのだな」
ラ・ム一は腕を後ろで組んで、外の様子を眺めたまま動かなかった。神谷には見えない物がラ・ム一には見えているのだろうか。
「あの黒鳥なのだが、この王宮以外の場所でも色々と被害が出ていてな。この国の戦士であの鳥に太刀打ちできる者はいないのだよ。先ほど彼が見せたような圧倒的な強さを持つ者がもう一人いればと思ってな」
「青色人の方でもダメなんですか」
「ああ、あの鳥の速さについていくことができない。どんなに訓練を積んでもダメだろうね」
先日の闘技場での動きを見た限り、ラ・ム一の言うとおり青色人ではあの鳥の速さに追いっくことはできないだろう。
「鳥を駆除するための木の実は枯れ、新たに植えた草は、なぜか芽が出ない。不思議なことだ」
この国の科学知識では酸性雨に依る被害という現実を知ることができないのだろう。
いっそのこと、精神力増幅装置の使用をやめてはどうかと言いかけたが、それを言ってしまうと、あの黒鳥の元が黒玉で、それがあの増幅機で作られていることを知っていることが分かってしまう。
なぜそのことを知っている? と聞かれることは間違いない。まさか邪神の作りだしたスクリーンで黒鳥が生まれる瞬間を見た、とは言えない。
「アルハザードの体が元に戻ったら、逆に彼の強さの秘密を検証させてもらうのもいいかもしれないな」
それは絶対に無理なのだが、それを口にすることはできない。
いつものようにゆっくりとした曲を三十ほど弾いて、ラ・ム一が満足したところで部屋を辞した。
「あの黒鳥に依って色々と被害が起こっているみたいだよ」
今日の治療を終え、アルハザードが部屋に戻って来た。
「そうだろうね、でも、いくら僕でも一人で全部の黒鳥を退治するのは無理だよ。数が多いしね」
「毒草の芽が出ないことを不思議に思っているみたいだね」
「酸性雨なんて知識がないんだろうね」
「一万ニ千年前にしては文明が進んでいると思うけど、科学的にはそうでもない感じだね」
「それはそうだろう、この時代は世界的には旧跡時代だからね。理由は分からないけどこの島は特別だね。クトウルフが僕にこの国に来るように勧めたのは、偏にあの精神力増幅機の存在故だろうねからね」
アルハザードの言うとおり、この時代に車や飛行船があるだけでも充分に驚異に値するのだ。しかし、それがこの鳥の耒来に暗い影を投げかけているかもしれないのも事実だ。
「まあ、王宮に飛来する黒鳥くらいならば、いっでも僕が退治してあげられるのだけどね」
「そう言えば、ラ・ム一が君の異常なほどの強さにっいて検証してみたいとも言っていたよ」
「まあ、検証の仕様がないだろうね。こいつのことが分からないのと同じ様に」
アルハザードがクスリと笑いながら邪神の喉をゴロゴロとなでた。
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