マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第53話

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"コージ"としての関係を隠したいため"モーズ"として孤児院を出ると、人目のない路地でコージに戻る。

そう言えば、部屋探しでモノカさんに不動産屋へ案内してもらったときはコージの姿だったが……まぁ、解体場でフレデリカに魔石の査定をしてもらえているので、アイツに紹介してもらったことにすればいいか。

アイツに紹介されたこと自体は事実だしな。

ただ、それだとフレデリカとの関係が怪しまれそうだが、それはアイツが孤児院の支援を続けるために今後の期待ができそうな俺を利用しているだけだということにしよう。



で、だいぶ暗くなってきた街中を歩き……俺は冒険者ギルドへ到着していた。

イリス達には明日は休みだと言ってあるが、イリスが望む解呪のマジックアイテムを狙うにはダンジョンの奥へ進む必要があり、一旦1日で往復できる分だけ1人で進んでみようと考えたのだ。

簡単に言うと下見だな。

冒険者ギルドにはダンジョンの地図が売ってあり第3区の物までは購入済みなので、草原だと聞く第4区のものを購入するつもりである。

"コージ"へ戻っていたのは自分の部屋へ帰るからというのもあったが、これのためにという部分もあったわけだ。

ギルドの中に入ってみると……浅い地区で稼いでいる若手は報酬の受け取りを大体終えたのか、ガラ空きと言うほどではないが受付は比較的空いていた。

いつものと言うほど常連なわけでは無いが、登録したときの受付嬢さんは空いていたのでそちらへ向かう。


「いらっしゃいませ!今日は遅めのようですが、無理はいけませんよ?」

「はぁ」


山ほどいるであろう冒険者を全て把握しているのだろうか?と気になる言葉で迎えられ、微妙な返事をしてしまう俺。

そんな俺に、受付嬢さんは不思議そうな顔をする。


「どうかされましたか?」

「……いえ、ダンジョンの地図を買いたいんですが」


若そうではあるが、仮にもプロだからかな?とそこまで気にしないことにして用件を伝えると……彼女は少し怒っているような表情を見せた。


「あの、無理はいけないと言ったばかりですよ?」

「いや、無理はしてませんよ。金に余裕があるうちに、取り敢えず第4区までの地図を確保しておこうと思っただけなので」

「……ああ、なるほど。大手への売り込みですね?」


俺の言葉に受付嬢さんは納得したようだが、それは俺が予想していなかった反応だ。

なので、俺は彼女の言葉の意味を確認する。


「売り込みって?」

「え?第4区は広い草原になっているそうで、大手のカンパニーはそれぞれ物資の集積所から広げた大きな拠点を作ってますから、街にある事務所へ行くよりはそちらへ行くほうが採用されやすいんです。だからそちらへ自分を売り込みに行かれるのかと」


あぁ、前線基地みたいなものか。

そこまで売り込みに行ければその時点で一定の実力が保証され、加入を許される可能性が高いってことだな。

もちろん違うので否定しようとするが、彼女は続く言葉で俺を止めようとする。


「ですが、第3区から第4区へ進むには"門番"と呼ばれる魔物を倒す必要がありますし、以前お話ししましたが上位種の魔物が出るようですのでお1人で挑むのはお勧めしませんよ?」

「そんなのが居るんですか。でも誰かが倒した後に通ればいいのでは?」

「それは可能ですが……その場合ついて来られた方は利用されたと不快に思われますし、それで大手への売り込みをすればそれを報告されてしまう可能性もあります」

「あぁ、そうなると当然加入は断られるでしょうね」

「ええ。なんならついて行った相手が加入希望のカンパニーに所属している可能性もありますよ?」


下手すると揉め事になるよな、それ。


「なるほど……まぁ、それで奥へ進めても力不足でやっていけないでしょうしね」

「ええ。結局はご自身の実力に見合った地区で活動されるのが最良だと思います」


大手に所属する気はないが、揉め事になるのは面倒だしな。

結局第3区の門番には挑むことになる予定なので、他人とかち合わないタイミングを調べる意味でも下見しておこうと考えたのは正解か。

というわけで……俺はあくまでも自力で進み、迷い込んだ場合に持っていたほうが良いだろうと言って地図を購入した。




ギルドを出ると、ダンジョン前の広場で開かれていた露店はそのほとんどが引き上げていた。

今日は上手く行かなかったのか粘って残っていたらしい店も閉店作業中であり、身体を売っている女性もかなり少なく見える。

景気の悪そうな顔をしているし、女性経験が少なく値段交渉もしやすい若手冒険者の帰宅ラッシュ時に良い客を捕まえ損ねたのだろう。

そんな女性達の中に、1人キョロキョロして特定の誰かを探しているような女性がいた。

あれは……"牛角亭"で働いているリンナだな。

誰を探しているのかわからないが、手伝えるなら手伝おうかと思い声を掛ける。


「リンナ、誰を……」

「あっ!居たっ!」

ガバッ


彼女に近寄り声を掛けると、俺が言い終わる前に抱き着いてきた。

どうやら俺を探していたらしい。


「え、どうしたんだ?」

「どうしたんだじゃないわよ!帰ってこないからダンジョンで死……行方不明になったのかと心配したのよ!」


確かに、前回牛角亭を利用してから2晩は利用してないな。

だが……


「あぁ、そうなのか。それは申し訳ない。でも宿って一度泊まったらずっとそこにしか泊まらないわけじゃないだろう?」

「それはそうだけど……宿を替えるってことは、元の宿より良い"何か"があったってことになるでしょ?」

「いや、飲み食いした店の近くで空いてる宿があったらそこを使ったりもするだろ」

「ないことはないでしょうけど……でも、夜に空いてる宿なんてあまり良い宿じゃないはずよね?」

「まぁ、それは確かに……」


この街が狭いわけではないが大量の冒険者が存在するため、一定以上の質を保つ宿は早いうちに埋まってしまう。

つまり、遅くまで部屋が空いている宿というのは基本的に部屋の質やサービスの質、もしくは料金に難がある宿だということになるからな。


「だったらうちの方が良いはずだし、今日はうちに泊まる?」

「あー、えーっと……」


そう言って勧誘してくるリンナだったが、俺は部屋を借りたので宿に泊まる必要がなくなったんだよな。

ただ、色々とサービスしてくれていた上、無事を確認しに来てくれるほど心配してもらっているとなると言い出しづらい。

それによって言い淀んだ俺に、彼女は不安そうな顔で身体を擦り付けてくる。


「やっぱりうちより良い宿を見つけたの?宿代や食事はともかく、ならもっと頑張るけど……」

ムニュ、ムニュ、スリスリ……


よほど気に入られているようで、潰れるほどに押し付けられる胸と、それと同じぐらい押し付けられている股間の感触に若干してしまう。

短めの時間とはいえ、先程フレデリカと楽しんできたところなのだが……どちらかと言えば彼女を楽しませるほうを優先したからか、俺の方にはまだ余力が残ってるんだよな。

ギルドで地図を買うついでに金も引き出してあるので、以前のように無料でサービスさせることもない。

というわけで……


「わかった、お世話になろう。でも部屋は空いてるのか?」


そう聞いた俺に、リンナは妖艶な笑みで答えを返す。


「空いてるわ。私の部屋と……もね♡」


グイッ


言いながら強く押し付けられた彼女の股間に、俺の股間は更にしたのだった。








ジュズズ……ペチャペチャ……ジュポジュポ……


そんな水っぽい音と快感で目覚めたのは、昨夜リンナに聞いていた通り彼女の部屋のベッドの上だった。

当然、その音を鳴らしていたのはリンナだったのだが……それは彼女1人ではなかったようだ。


「あ、おはよ♪」

「もご……おふぁよ♡」


リンナに続いて目覚めの挨拶をしてきたのは彼女の同僚であるティリカさんであり、彼女はを胸で挟み込み、その先端を咥えたまま頭を浅く上下させている。

この状況からわかる通り、昨夜は2人を相手することになった。

ティリカさんまでいる理由は、俺が来なくなった理由はその直前にをした自分にあるかもしれず、責任を感じたからだと言っていたが……俺から見るとただ楽しんでいたように見えたな。

まぁ、2人して俺を楽しませてもくれたので不満はないが。


そんな2人にを済まされ、彼女達の間でまったりしていると……2人は俺を窺うように聞いてきた。


「ねぇ、昨夜ゆうべでしょ?新人なら毎日街に戻ってくるでしょうし、何日分か部屋を取っておいたらどう?それなら毎日普通に泊まるより少しは安くなるし……」

「そうそう。それに、良い客を捕まえられなかったけどヤりたい気分って娘にオススメしておくし♪ちゃんとの売り込みはしておくから♡」

きゅっ


お得な宿の利用法を述べるリンナに、を掴んで下方面で俺に宿を売り込んでくるティリカさん。

うーん、どうしたものか。

昨夜、前回の分も含めて料金を多めに前払いしたからというのもあるとは思うが……ここまで良くしてくれているし、初日に世話になったことも考えると無碍には出来ないな。

部屋を借りたと言っても倉庫代わりだと言ってあるので、街に居れば必ずあの部屋を利用しなくてはならないわけでもない。

実際は風呂場代わりだし。

宿を利用しない日もあると思うのでその分は無駄になるが、それぐらいは許容できる程度に稼げているから問題はないか。

なら……


「わかったよ。でも俺はダンジョンの結構奥に行くつもりだから、毎日帰って来るとは限らないぞ?」

「そうなの?この街に来てまだ数日よね、無理はしないほうが良いんじゃない?」


そう心配するリンナに対し、ティリカさんは落ち着いた反応を見せた。


「余分に払ってもらえてるぐらいだし、浅い場所じゃ余裕ってことなんじゃない?」

「そうなの?」


ティリカさんの言葉にそう聞いてきたリンナへ、俺は自身満々で肯定する。


「ああ、逃げ足には自信があるからな。危なくなっても余裕で逃げ帰ってこれる」


そう言って腕に自信があるんじゃないのかというツッコミを誘ったが、返ってきたのは真剣な言葉だった。


「それは良かったわ。一番大事なのは無事に返ってこれることだから」

「そうね。下手に腕が立つと変に頼ってくる人が増えたりするみたいだし」

「あー……」


2人の言葉に俺の現状が思いっきり当てはまるな。

これ以上は増やさないようにしないと。


そう思った俺はその後、身支度と朝食を済ませて宿を10日分確保すると、第3区より先の下見をしにダンジョンへ向かうのだった。
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