7 / 84
第7話
しおりを挟む
こちらへ飛んでくるドラゴンらしき存在を双眼鏡で視認すると、俺はすぐに山頂に置いてある物を魔力に戻して回収する。
そして魔鎧で全身を覆い、向かってくるドラゴンとは反対側の山頂の陰に隠れたのだが……動けたのはそこまでだった。
ビュォオオオオ……ブワサァッ、ズウゥンッ!!!
先程まで俺が滞在していた山頂に着地したらしい、ドラゴンと思われる存在。
その強大な魔力に下手な動きはできないと考え、山頂の陰に浮いたまま、隠れて魔力の消費に耐えていた。
そこで1つの異変が起きる。
ん?魔鎧で覆った体が消えている?
体中を触って確認すると触感はちゃんとあり、透けて見えるだけなようだ。
こんなことは初めてだな。
ここまで本気で隠れたいと思ったのは初めてなのだが、その意志が反映されたのだろうか。
同時に魔力の消費ペースが跳ね上がったが……リアルタイムで体の向こう側の光景を表面に反映させているからかな。
まぁ、アレに見つかるよりはいい。
とりあえず地上に降りて森に紛れるか……ん?
………………
やけに静かだ。
遠くから飛んできたようだし、ゆっくり休んでいるのかもしれないが……というか、小さい魔力の反応しかないな。
ドラゴンは何処に行った?
自分が透けていることに気を取られていたら、いつの間にか奴の魔力が消えているみたいなんだが……
「おい」
まぁいい、俺にとっては好都合だ。
「おい、そこのお前だ」
今のうちに、静かに降下すれば……と行動を開始しようとすると、頭上から怒鳴られる。
「お前だ!そこの小さいの!」
「え?……え?」
その大声に上を見上げると……そこには、20歳ぐらいの美女が俺を見下ろしていた。
裸で。
腰に手を当て堂々と立つ姿勢によって、その豊かな胸部と更地の股間が俺の目にハッキリと映っている。
「え、俺が見えるんですか?」
「いや。居るのがわかるぐらいだな」
「でも小さいのって言いませんでした?」
「魔力で体を覆っているだろう。それで大きさというか、形がわかる。声を掛けたのも人の形をしていたからだ」
そうか。
そもそも人だとわかっていなければ、話しかけたりはしないはずだよな。
「ああ、そうなんですか……って、それどころじゃない!ちょっと!そこ危ないですよ!」
彼女の返答に納得したところでドラゴンの事を思い出し、俺は慌てて彼女に警告した。
だがその女性は全く動じず、落ち着いたまま尋ねてくる。
「はぁ?何がだ?」
「いや、後ろ後ろ!」
「んー?」
その女性は特に体勢を変えず体を捻って背後を見ると、すぐにこちらへ向き直る。
「何もないが?」
「え?そんなはずは……」
「ならば自分の目で確認するがいい」
「はあ……」
言われて少し上昇し、女性の足の間から山頂を覗く形になったのだが……そこにドラゴンの姿は影すらも存在していなかった。
「あれ?」
どういうことだ?と思っていると、スッと眼の前に何かが降りてくる。
白っぽい肌で柔らかそうな、閉じた二枚貝を縦にしたようなそれは……
「何か見えたか?」
「えっと、貴女の股間が」
そう、彼女がしゃがんで話しかけてきたことにより、俺の目の前に女性の股間がどアップで晒されているのだ。
俺としては指摘したつもりなのだが、彼女は大して気にせず話を進める。
「そこではなく私の背後だ。何も居なかっただろう?」
「はあ、それはそうなんですが……確かにそこへ降りてきたはずなんですよ」
「何がだ?」
「初めて見たので合ってるのかわからないんですが……ドラゴンだと思います」
「ああ……なんだ、それか。見ていろ」
俺が答えると合点がいった顔をして立ち上がり、広い場所へ向かう謎の美女。
彼女は足を止めるとこちらへ向き直り、強大な魔力を発すると共に姿を変えた。
「グルルルル……」
山頂の広場ほとんどを占める巨体。
それはまさしく、先ほど俺が認識していたドラゴンだった。
どうやら彼女はドラゴンで人の姿になれるらしく、そのときは自然に溢れる魔力をかなり抑え込んでいるらしい。
それで俺はドラゴンの魔力を見失い、目の前に居た女性がドラゴンだと気づけなかったようだ。
強大な魔力を保つ存在を知って動揺していたのもあるだろうか。
そもそも、彼女に小さいながらも魔石の反応があったのだが……まぁ、ドラゴンの状態とは差が大きく、同じ個体だとは思えなかったんだろうな。
「で、何故裸でいらっしゃるのでしょうか?」
「人間の服を持っていないわけではないが、いつも持ち運んでいるわけでもないからな」
ドラゴンが人になるところも見せてもらった俺は、使っていたテントを再び作成してその中でドラゴン氏と話していた。
「それだと、こうして人と話すときに困りませんか?」
「人と会う予定であったなら服は用意している。まぁ、頻繁に会うことなどないし……不躾な目で見てくる者は処分すれば良い」
「……スイマセン」
彼女の返答に具合が悪くなる俺。
思いっきり見ていたので、どう扱われるのか不安になったのだが……謝罪しつつ差し出したバスローブを気に入ったのか、それ着たドラゴン氏は許してくれるようだった。
まぁ……俺が使っていたさほど大きくないテントな上、彼女は胡座をかいて座っているので股間は見えそうだが。
小さなテーブルを挟んでいるので、実際には見えていない。
「ふむ、まぁいいだろう。だが子供にしては下に興味を持つのが少々早いな。上ならわからんでもないが……年相応とは言い難い」
言いながら大きな胸を揺すって見せる彼女に、俺は目を引かれつつも紅茶を用意しながら曖昧に答える。
「あー……なんと言いますか、色々と事情がありまして」
「その物言いもだな。事実を話したほうが身のためだぞ?」
魔石の魔力を感じられることで、明らかに強者だとわかっている相手に嘘を言う気にはならず……俺は淹れた紅茶をケーキと一緒に出し、ドラゴン氏に事情を説明することにした。
「ふむ……前世の記憶を持ったまま、別の世界から転生か。その上で追放されるような称号を持っているとはな」
ふむふむ。
先程の話から、多くはないが人付き合いもあるそうだし、称号のことを知っていてもおかしくはないのか。
一通り俺の事情を聞いた彼女はそう言うとケーキを食べ終え、少なくなっていた紅茶を飲み干した。
「コクッ……ふぅ。これもお前の力で作った物か。美味い上に魔石が少しあればいいのだから、お前を追放した親は馬鹿な真似をしたのではないか?」
「必要な魔力は物によりますから、魔石が少量で済むとは限りませんが……まぁ、金銭や貴重品の偽造を疑われるのは避けたかったんでしょう。家だけの問題では済まないかもしれませんでしたし」
「基本的にはどの土地でも重罪らしいしな。だが……追放されたことを恨んではいないのか?」
「精神的には大人なんで事情は理解できますし、こうして生き抜ける力もありますから」
「では、これからどうするつもりだ?」
「数年経ってから、西の方へ行こうかと」
「西?何故だ?」
「恐らく東から運ばれてきたので」
「なるほど。数年待つのは……その見た目で一人旅はまだ早いからか」
「ええ」
流石に10歳ぐらいで一人旅は怪しまれるだろうしな。
そう答えると、彼女はこんなことを言い出した。
「ふむ……ならば、暫く此処に居るとしよう」
「え」
「ん?不服なのか?」
俺の反応に気を悪くしたのか、やや怒っているような顔のドラゴン氏。
気分1つで自分を消し飛ばすような存在が傍にいるのはストレスになりそうなので、美女の姿になれるとはいえお断りしたいのだが……現在進行形で消し飛ばされる可能性が増大しているので全力で誤魔化してみる。
「いやあの、貴女はここで暮らしておられるわけではないんですよね?」
「ああ、冬に備えて食い溜めをしに来ただけだ。別の餌場が物足りなくなる度にそうしている」
oh...
つまり俺は、ドラゴン氏に処理させようとこの森に捨てられたのか。
で、この岩山に魔物や動物が近づかないのは、偶にやって来る彼女の別荘のような場所だから、と。
……はい此処、めちゃくちゃヤバい物件でした。
聞けば、前回ドラゴン氏がここに来たのは俺が来る3年前で、次は何時来てもおかしくなかったようだ。
俺を運んできた村の人達も十分危なかったんだな。
何かをやらかした罰として選ばれてたりして。
それはさておき、ドラゴン氏だ。
今のところは大丈夫だが、何とかこのまま穏便にやり過ごしたい。
「でしたら、餌に豊富な場所で過ごされたほうが……」
そう言った俺に、彼女はニヤリとして聞いてくる。
「そうしようと此処へきたのだがな。誰かが5年も荒らしているおかげで獲物が少ないようなのだ。勿論これでは足りないのだから、その誰かに責任を取らせなくてはならないはずだな?」
当然その誰かが俺であるのは明らかなのだが……ドラゴンの胃を満たせる量の食料など、魔力がいくらあっても足りないだろう。
なので何とか譲歩してもらえないかと嘆願してみる。
「ぐ……しかしですね、食料を作るには魔力が必要で、その魔力を確保するのに魔石が必要です。獲物が減っているということは俺の魔力も増やせないことになり、今まで貯めた魔力では貴女を満足させられる量はとても用意しきれないと思うのですが」
「いいや?お前と居る間は人の姿のほうが都合はいいだろうからこの姿で過ごすつもりだし、その場合は腹に入る量が少なくなるぞ」
「えっ?でも体調に影響が出たりしませんか?」
「人の姿で居続けるなら問題ない。元の姿に戻るときは空腹になっているだろうが……冬を越して獲物が増え、すぐに喰らえる状況であればいい。量が足りなければ、元の姿で別の土地へ狩りに出る」
「あー、そうですか……」
相手が原因で断る、という手が使えなくなってしまった。
そして勿論、俺の都合で断る度胸はない。
まぁ……そもそもの力関係で、彼女が決めたことを俺が覆すというのが無理なことだったのかもしれないが。
「とりあえず飯を出せ。流石にさっきのでは足りん」
「アッ、ハイ」
そんな感じで彼女との同居が決まると、俺はドラゴン氏にあることを確認した。
「そう言えば、お名前は何とお呼びすれば良いんでしょうか?」
「ああ、教えてなかったな。ルナミリアだ」
「わかりました、ルナミリアさん」
そう返した俺に彼女が聞いてくる。
「で、お前の呼び方はノルンのままでいいのか?此処に人は来ないから大丈夫だとは思うが……人に聞かれても構わん呼び方のほうがいいのではないか?」
彼女によると、ここが自分の餌場だということはそれなりに知られており、基本的に人がこの森に近づくことはないとのこと。
だが、俺のような例外的にやって来る人間がいないとも限らないし、いずれ森を出て別の名前を名乗るのだから今決めておいてもいいだろう。
名前か……
「じゃあ、コージと呼んでください」
「コージ?」
「ええ、前世での名前です」
「そうか。よろしくな、コージ」
「はい。えっと……お手柔らかに」
「それはお前次第だな」
「アッ、ハイ」
こうして、俺は再びコージとしての人生を歩むことになった。
そして魔鎧で全身を覆い、向かってくるドラゴンとは反対側の山頂の陰に隠れたのだが……動けたのはそこまでだった。
ビュォオオオオ……ブワサァッ、ズウゥンッ!!!
先程まで俺が滞在していた山頂に着地したらしい、ドラゴンと思われる存在。
その強大な魔力に下手な動きはできないと考え、山頂の陰に浮いたまま、隠れて魔力の消費に耐えていた。
そこで1つの異変が起きる。
ん?魔鎧で覆った体が消えている?
体中を触って確認すると触感はちゃんとあり、透けて見えるだけなようだ。
こんなことは初めてだな。
ここまで本気で隠れたいと思ったのは初めてなのだが、その意志が反映されたのだろうか。
同時に魔力の消費ペースが跳ね上がったが……リアルタイムで体の向こう側の光景を表面に反映させているからかな。
まぁ、アレに見つかるよりはいい。
とりあえず地上に降りて森に紛れるか……ん?
………………
やけに静かだ。
遠くから飛んできたようだし、ゆっくり休んでいるのかもしれないが……というか、小さい魔力の反応しかないな。
ドラゴンは何処に行った?
自分が透けていることに気を取られていたら、いつの間にか奴の魔力が消えているみたいなんだが……
「おい」
まぁいい、俺にとっては好都合だ。
「おい、そこのお前だ」
今のうちに、静かに降下すれば……と行動を開始しようとすると、頭上から怒鳴られる。
「お前だ!そこの小さいの!」
「え?……え?」
その大声に上を見上げると……そこには、20歳ぐらいの美女が俺を見下ろしていた。
裸で。
腰に手を当て堂々と立つ姿勢によって、その豊かな胸部と更地の股間が俺の目にハッキリと映っている。
「え、俺が見えるんですか?」
「いや。居るのがわかるぐらいだな」
「でも小さいのって言いませんでした?」
「魔力で体を覆っているだろう。それで大きさというか、形がわかる。声を掛けたのも人の形をしていたからだ」
そうか。
そもそも人だとわかっていなければ、話しかけたりはしないはずだよな。
「ああ、そうなんですか……って、それどころじゃない!ちょっと!そこ危ないですよ!」
彼女の返答に納得したところでドラゴンの事を思い出し、俺は慌てて彼女に警告した。
だがその女性は全く動じず、落ち着いたまま尋ねてくる。
「はぁ?何がだ?」
「いや、後ろ後ろ!」
「んー?」
その女性は特に体勢を変えず体を捻って背後を見ると、すぐにこちらへ向き直る。
「何もないが?」
「え?そんなはずは……」
「ならば自分の目で確認するがいい」
「はあ……」
言われて少し上昇し、女性の足の間から山頂を覗く形になったのだが……そこにドラゴンの姿は影すらも存在していなかった。
「あれ?」
どういうことだ?と思っていると、スッと眼の前に何かが降りてくる。
白っぽい肌で柔らかそうな、閉じた二枚貝を縦にしたようなそれは……
「何か見えたか?」
「えっと、貴女の股間が」
そう、彼女がしゃがんで話しかけてきたことにより、俺の目の前に女性の股間がどアップで晒されているのだ。
俺としては指摘したつもりなのだが、彼女は大して気にせず話を進める。
「そこではなく私の背後だ。何も居なかっただろう?」
「はあ、それはそうなんですが……確かにそこへ降りてきたはずなんですよ」
「何がだ?」
「初めて見たので合ってるのかわからないんですが……ドラゴンだと思います」
「ああ……なんだ、それか。見ていろ」
俺が答えると合点がいった顔をして立ち上がり、広い場所へ向かう謎の美女。
彼女は足を止めるとこちらへ向き直り、強大な魔力を発すると共に姿を変えた。
「グルルルル……」
山頂の広場ほとんどを占める巨体。
それはまさしく、先ほど俺が認識していたドラゴンだった。
どうやら彼女はドラゴンで人の姿になれるらしく、そのときは自然に溢れる魔力をかなり抑え込んでいるらしい。
それで俺はドラゴンの魔力を見失い、目の前に居た女性がドラゴンだと気づけなかったようだ。
強大な魔力を保つ存在を知って動揺していたのもあるだろうか。
そもそも、彼女に小さいながらも魔石の反応があったのだが……まぁ、ドラゴンの状態とは差が大きく、同じ個体だとは思えなかったんだろうな。
「で、何故裸でいらっしゃるのでしょうか?」
「人間の服を持っていないわけではないが、いつも持ち運んでいるわけでもないからな」
ドラゴンが人になるところも見せてもらった俺は、使っていたテントを再び作成してその中でドラゴン氏と話していた。
「それだと、こうして人と話すときに困りませんか?」
「人と会う予定であったなら服は用意している。まぁ、頻繁に会うことなどないし……不躾な目で見てくる者は処分すれば良い」
「……スイマセン」
彼女の返答に具合が悪くなる俺。
思いっきり見ていたので、どう扱われるのか不安になったのだが……謝罪しつつ差し出したバスローブを気に入ったのか、それ着たドラゴン氏は許してくれるようだった。
まぁ……俺が使っていたさほど大きくないテントな上、彼女は胡座をかいて座っているので股間は見えそうだが。
小さなテーブルを挟んでいるので、実際には見えていない。
「ふむ、まぁいいだろう。だが子供にしては下に興味を持つのが少々早いな。上ならわからんでもないが……年相応とは言い難い」
言いながら大きな胸を揺すって見せる彼女に、俺は目を引かれつつも紅茶を用意しながら曖昧に答える。
「あー……なんと言いますか、色々と事情がありまして」
「その物言いもだな。事実を話したほうが身のためだぞ?」
魔石の魔力を感じられることで、明らかに強者だとわかっている相手に嘘を言う気にはならず……俺は淹れた紅茶をケーキと一緒に出し、ドラゴン氏に事情を説明することにした。
「ふむ……前世の記憶を持ったまま、別の世界から転生か。その上で追放されるような称号を持っているとはな」
ふむふむ。
先程の話から、多くはないが人付き合いもあるそうだし、称号のことを知っていてもおかしくはないのか。
一通り俺の事情を聞いた彼女はそう言うとケーキを食べ終え、少なくなっていた紅茶を飲み干した。
「コクッ……ふぅ。これもお前の力で作った物か。美味い上に魔石が少しあればいいのだから、お前を追放した親は馬鹿な真似をしたのではないか?」
「必要な魔力は物によりますから、魔石が少量で済むとは限りませんが……まぁ、金銭や貴重品の偽造を疑われるのは避けたかったんでしょう。家だけの問題では済まないかもしれませんでしたし」
「基本的にはどの土地でも重罪らしいしな。だが……追放されたことを恨んではいないのか?」
「精神的には大人なんで事情は理解できますし、こうして生き抜ける力もありますから」
「では、これからどうするつもりだ?」
「数年経ってから、西の方へ行こうかと」
「西?何故だ?」
「恐らく東から運ばれてきたので」
「なるほど。数年待つのは……その見た目で一人旅はまだ早いからか」
「ええ」
流石に10歳ぐらいで一人旅は怪しまれるだろうしな。
そう答えると、彼女はこんなことを言い出した。
「ふむ……ならば、暫く此処に居るとしよう」
「え」
「ん?不服なのか?」
俺の反応に気を悪くしたのか、やや怒っているような顔のドラゴン氏。
気分1つで自分を消し飛ばすような存在が傍にいるのはストレスになりそうなので、美女の姿になれるとはいえお断りしたいのだが……現在進行形で消し飛ばされる可能性が増大しているので全力で誤魔化してみる。
「いやあの、貴女はここで暮らしておられるわけではないんですよね?」
「ああ、冬に備えて食い溜めをしに来ただけだ。別の餌場が物足りなくなる度にそうしている」
oh...
つまり俺は、ドラゴン氏に処理させようとこの森に捨てられたのか。
で、この岩山に魔物や動物が近づかないのは、偶にやって来る彼女の別荘のような場所だから、と。
……はい此処、めちゃくちゃヤバい物件でした。
聞けば、前回ドラゴン氏がここに来たのは俺が来る3年前で、次は何時来てもおかしくなかったようだ。
俺を運んできた村の人達も十分危なかったんだな。
何かをやらかした罰として選ばれてたりして。
それはさておき、ドラゴン氏だ。
今のところは大丈夫だが、何とかこのまま穏便にやり過ごしたい。
「でしたら、餌に豊富な場所で過ごされたほうが……」
そう言った俺に、彼女はニヤリとして聞いてくる。
「そうしようと此処へきたのだがな。誰かが5年も荒らしているおかげで獲物が少ないようなのだ。勿論これでは足りないのだから、その誰かに責任を取らせなくてはならないはずだな?」
当然その誰かが俺であるのは明らかなのだが……ドラゴンの胃を満たせる量の食料など、魔力がいくらあっても足りないだろう。
なので何とか譲歩してもらえないかと嘆願してみる。
「ぐ……しかしですね、食料を作るには魔力が必要で、その魔力を確保するのに魔石が必要です。獲物が減っているということは俺の魔力も増やせないことになり、今まで貯めた魔力では貴女を満足させられる量はとても用意しきれないと思うのですが」
「いいや?お前と居る間は人の姿のほうが都合はいいだろうからこの姿で過ごすつもりだし、その場合は腹に入る量が少なくなるぞ」
「えっ?でも体調に影響が出たりしませんか?」
「人の姿で居続けるなら問題ない。元の姿に戻るときは空腹になっているだろうが……冬を越して獲物が増え、すぐに喰らえる状況であればいい。量が足りなければ、元の姿で別の土地へ狩りに出る」
「あー、そうですか……」
相手が原因で断る、という手が使えなくなってしまった。
そして勿論、俺の都合で断る度胸はない。
まぁ……そもそもの力関係で、彼女が決めたことを俺が覆すというのが無理なことだったのかもしれないが。
「とりあえず飯を出せ。流石にさっきのでは足りん」
「アッ、ハイ」
そんな感じで彼女との同居が決まると、俺はドラゴン氏にあることを確認した。
「そう言えば、お名前は何とお呼びすれば良いんでしょうか?」
「ああ、教えてなかったな。ルナミリアだ」
「わかりました、ルナミリアさん」
そう返した俺に彼女が聞いてくる。
「で、お前の呼び方はノルンのままでいいのか?此処に人は来ないから大丈夫だとは思うが……人に聞かれても構わん呼び方のほうがいいのではないか?」
彼女によると、ここが自分の餌場だということはそれなりに知られており、基本的に人がこの森に近づくことはないとのこと。
だが、俺のような例外的にやって来る人間がいないとも限らないし、いずれ森を出て別の名前を名乗るのだから今決めておいてもいいだろう。
名前か……
「じゃあ、コージと呼んでください」
「コージ?」
「ええ、前世での名前です」
「そうか。よろしくな、コージ」
「はい。えっと……お手柔らかに」
「それはお前次第だな」
「アッ、ハイ」
こうして、俺は再びコージとしての人生を歩むことになった。
228
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。
アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。
だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。
それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。
しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
スキル【疲れ知らず】を会得した俺は、人々を救う。
あおいろ
ファンタジー
主人公ーヒルフェは、唯一の家族である祖母を失くした。
彼女の葬式の真っ只中で、蒸発した両親の借金を取り立てに来た男に連れ去られてしまい、齢五歳で奴隷と成り果てる。
それから彼は、十年も劣悪な環境で働かされた。
だが、ある日に突然、そんな地獄から解放され、一度も会った事もなかった祖父のもとに引き取られていく。
その身には、奇妙なスキル【疲れ知らず】を宿して。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる