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29話
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この洞窟と地上の集落が元々逃げられるような体制ではなかったからか、使用中だった女性達は拘束されておらず、周囲のゴブリン達を片付けるだけで自由の身にすることができた。
中にはナイフや剣で武装していた個体もいたので、女性達にはそれらを使っての魔石の回収を頼むと俺達は残敵の排除を急ぐことにする。
「ギッ!?」
ドサッ
「これで全部片付いた?」
「わかる範囲では」
戦力として残っていた魔物は地上の集落部分に集中していたようで、地下洞窟に居た連中はほとんどあの女性達の所に居たようだ。
今いる場所は物資の保管室らしき空間となっており、人目がないので俺のやり方で魔石の回収を終えると貯め込まれていたらしい物資を漁ることにする。
それはその中にまとまった数の魔石が含まれているからだったのだが……いくつもの魔石が1箇所に集まっていることから、そこに強奪品が保管されているのだろうと予想していたのだ。
その予想は当たっており、魔石だけでなく金銭を始めとした様々な物が保管されていた。
「一般的には大金ね。宝石なんかもあるし……食料はさっきの女性達に与えていたらしいからあまり残っていないわね」
あの女性達は繁殖が主目的だったらしいことから、そのため孕んだ女性には優先してまともな食事を食べさせていたのだそうだ。
まぁ、魔物にもよるが犯されると身体が妊娠する態勢を取るようで、囚われれば数日で孕むことから全員まともな食事を与えられていたらしいが。
つまり……全員魔物の出産経験を経ているということだな。
それを聞いてアニスエラは良い気がしないからかやる気を出し、特殊な能力……聞いた限りでは時間を止めそうな力を持つらしい魔物についての情報をなんとか思い出そうとしていた。
ここがゲームの世界であり、その作品のプレイ経験から何らかの情報があるのではと思っていたが……
「ハァ、ダメね」
一緒に物資の確認をし、その中から魔石だけを回収して箱型ゴーレムの中に戻ると……彼女は小さくため息を付いてそう零す。
「思い出せませんか?」
「ええ。思い出せないってことは、ゲーム中でその魔物に関わる事が出てきていないんでしょうけど……」
「ってことは、ゲームが始まる時点では倒されていたってことですかね?」
「どうかしら?アンタの例もあるし、そのゴブリンが自分の能力に気づかないまま生きていたのかも……んん?」
何かに気づいたらしいアニスエラは、目を閉じながら何度か首を左右に傾けると……自信なさげにその情報を口にした。
「もしかすると、ソイツと戦っていたかもしれないってキャラはいたわ」
「おお、そうなんですか?」
「ただ、そのキャラはソイツの能力を話してたわけじゃなくて、過去に厄介な魔物がいたって言ってただけなのよね」
「あら、じゃあ別の魔物の事かもしれませんね」
「ええ。ただ……それが5年前って言うのが気になるんだけど」
「5年前だと何かあるんですか?」
そう聞いた俺にアニスエラはコクリと頷いて言う。
「そのキャラが登場するのが5年後だから、厄介な魔物がいたのは今年ってことになるのよ」
暫くして。
とある場所から魔物の集落を見ていると、その入口に魔物の集団がやって来ていた。
それなりの数だが北の街道に居た連中よりは少なく、囚われていた女性達の話からするとだいぶ少ない。
南に向かったのはもっと大勢だったらしいからな。
どの魔物も無傷ではないようで、南の街道では人間が勝利したのかと思ったが……比較的傷が少なく、周囲の魔物達の態度からボスであろうと思われるゴブリンが抱えるモノで楽観することはできなくなった。
それは……人間の頭部だ。
距離があってハッキリとは見えないが、短い頭髪から男性である可能性が高いと思われる。
わざわざ持ち帰ったということは、人間側の重要人物だったのだろうか?
他に何かを回収してきた様子は見えないので……そこまでの余裕がなかったのか。
そこから推察すると、人間側が全滅したわけではないようだ。
アニスエラの家からも兵を出しているわけだし、どういう結果になったのか気になるところではあるが……こちらとしては捕虜が居ないことに安堵した。
「人質にされそうな人はいないみたいね。いける?」
「ええ。ただ、もっと引き付けてからですね。やはり警戒しているようですし」
ボスやその近くに居たこの集落の上位者達は異変に気づき、入口の前で足を止めて下位の魔物を集落に入らせていた。
門番もおらず、地上で警備を担当していた連中も出てこないのでは警戒して当然だな。
"格納庫"から直接頭部にゴーレムを送り込むには……遠すぎるんだよな。
俺達はこの集落の奥まった場所にある建物におり、入口の方へ向けてのぞき穴を開け、内側に壁を作って二重底の中のような空間に隠れて連中を監視しているからだ。
女の臭いであれば気づかれても捕らえていた女性のものだと誤解するのかもしれないが、この現状では人間の男……つまり、俺の臭いのほうが目立つのではないかと思ったからである。
そんな場所から帰還した魔物達を監視する中、先行したゴブリンが集落の建物を確認してすぐにボス達の下へ走った。
警備についていた魔物の死体を発見したからだろう。
報告を受けたらしいボスは中に敵性存在が居ると判断したのか、そのゴブリンを再び集落に入らせ、他のゴブリンにも同様の対応をして集落内を調べさせ続けた。
しばらくして、地下洞窟を調べに行ったゴブリンが慌てて地上へ出てくる。
おそらく、地下の魔物も全滅していたのを確認したのだろう。
怪我をしているようには見えないので、囚われていた女性達は武器を得ても襲いかかったりはしていないようだ。
下手に攻撃してこの場に連れてこられでもするとこちらが用意した仕掛けが使いづらくなるので、大人しくしておくようにと言っておいたしな。
そのゴブリンがそのままボスの近くまで駆け寄ると、報告を受けたボスは部下を引き連れて集落の中へ踏み入った。
そのゴブリンが無事に出てきたことから、中にそこまでの脅威はないと判断したようだ。
「く、来るわ」
「わかってます」
隣りにいるアニスエラにそう返し、ボスゴブリンが進むのを注視する。
そうして奴が集落の中ほどまで進んだところで……今だ!
俺がそう意識したとき、魔物達の周囲一帯から地面が消えた。
ヒュンッ……サクッ
「……確かに動かないな」
囚われていた女性達の中にいた軍人らしき女性がナイフを投げ、ここのボスの死を確認する。
その言葉で、久しぶりに外へ出た女性達は喜びの声を上げる。
「やった!これで帰れるのね!」
「ああ、やっと……」
そんな声の中、怒りの声を上げる女性もいた。
「何度も何度も犯しやがって……死ね!」
シュッ、ガッ!
怒りのせいか元からなのか、声を荒げながら石を投げている。
それに呼応したのか、他の女性も魔物の死体に石を投げ始めた。
「3匹も産ませて……えいっ!」
「私なんか5匹もよ!このっ!」
「私の初めてを……このクズ!」
ガッ、ガッ、ガツッ!
言いながら投げられた石は巨大な穴の底で串刺しになっている魔物達に当たるが、当然のように反応は一切ない。
そう、連中は全滅しているのだ。
俺は地上の集落に向け地下から大穴を開けて底に石で剣山のように杭を設置すると、地表部分を土のゴーレムとして支配下に置き、形をそのまま維持させておいたのだ。
上から穴を開けると蓋が必要になり、その蓋が一部分だけでは穴の外の地面と色が違って気づかれると考えたからである。
そうして、魔物達がある程度進むまでは蓋としてのゴーレムを維持し続け、タイミングを見計らって"格納庫"にしまって穴に落としたのだ。
これは、アニスエラの情報からボスの能力が時間そのものを止めるのではなく、対象の意識だけを止めるものだと予想したからである。
ゲームでそれについて語ったキャラは、強い人間から動きを止められて殺されていったと話していたそうだ。
そのキャラは意識だけを止められているとは思わず、集団戦だったためにその点を気にする余裕はなかったらしい。
だが、弓矢や投石は普通に効いていたのに気づき、その魔物に対しては遠距離武器での攻撃に集中するよう指示を出したそうだ。
それに軍人らしき女性の情報も加えると……その対象は複数にもできるようなので、おそらくだが対象を複数とする場合は周囲の存在全ての意識を止めてしまうことで味方まで止めてしまうので、混戦状態では単体へしか使えないのではないかと予想した。
逆に撤退が必要な場合は敵味方関係なく意識を止め、主要な魔物だけを能力の範囲外に連れ出して逃がしたりもできそうだ。
帰ってきた魔物が少ないのは、そうやって主力だけを確保して撤退してきたからなのかもしれない。
ならばとこちらの意識を止めてきても無駄な状況を作ることにし、落とし穴に石の杭を逆さまにして仕掛けるという方法を使うことにしたのだ。
連中が穴に落ちた後は、念の為にボスを始めとした上位の魔物と思われる者から順に頭部へゴーレムを送り込んでとどめを刺した。
鎧で武装していたゴブリンもいたし、落としただけで油断しなくて良かったな。
その結果がこの光景なのだが……それを眺めている俺に、軍人らしき女性が声を掛けてくる。
「あの連中をまとめて倒すとはな。これが君の力というわけか」
「まぁ、そうですね。あんまり知られたくはないんですが……」
「だろうな。知られればいくつものお誘いが来るはずだ」
その言葉に、隣からアニスエラが俺の腕を掴んで引き寄せた。
ぐぃっ
「わっ」
「……うちの領民ですから」
その態度に女性は苦笑すると、ごもっともな懸念点を挙げてくる。
「わかっております。ですが、ここから我々が帰るとなると……どうやって帰ってこれたのかという話になります」
「それは……誰か、連中と南で戦った人がやったことには出来ないでしょうか?」
「それは難しいのではないかと。連中に追われている様子はなかったのでしょう?」
「……そうですね。警備の魔物が見当たらないのを気にして、なかなか中に入って来ませんでした」
「となると、おそらく南では人間側が撃退されたのでしょう。しかし、魔物側も追うほどの余力はなかった、と」
そうなるか。
撃退されたのが魔物の方なら、人間側はねぐらを突き止めるために間違いなく追跡者を出すはずだからな。
それを聞いたアニスエラは俺が思っていたのと同じような反応をし、この集落から女性達を救った人物について別の案を提示した。
「そうなるでしょうね……では、正体不明のどなたか、というのはどうでしょうか?」
「確認のしようがないので通らなくはないと思いますが……全員言い含めておけば漏らしはしないでしょうし」
その言葉に、若干落ち着いてきた女性達は頷いて同意を示す。
松明を投げ込もうとしていた人もいたが、まだこれからも使うことに気づいて踏みとどまった。
「なら、それでいきますか」
と、軍人らしい女性がその案を受け入れたことでこの場の空気が緩む。
そんな中……1人の女性がある質問をしてきた。
「あの、地下で私達を運んでいただけると言っておられましたが……?」
「ええ。南の街道までですが、こういうもので」
フッ
「「わぁ……」」
答えながら出した、屋根がない大きめの箱型ゴーレムに感嘆の声を上げる女性達。
これで木々の林立する森の中を進むのは大変なので、ササッと空を飛んで街道へ出るつもりである。
そろそろ明け方が近いが、急げば誰かに見られる可能性は低いはずだ。
囚われていた女性はいずれも南側から連れてこられているようだし、その南側では人間側が撃退されているようなので……引き上げたのなら街道を見張る人員は減っているか居ないだろうからな。
そう考えていた俺に、その女性は予想外の提案をしてくる。
「あの、良ければ貴方の村に連れて行ってもらえませんか?」
「えっ」
俺がそう聞き返すと、彼女は悲しそうな顔で事情を話し始めた。
中にはナイフや剣で武装していた個体もいたので、女性達にはそれらを使っての魔石の回収を頼むと俺達は残敵の排除を急ぐことにする。
「ギッ!?」
ドサッ
「これで全部片付いた?」
「わかる範囲では」
戦力として残っていた魔物は地上の集落部分に集中していたようで、地下洞窟に居た連中はほとんどあの女性達の所に居たようだ。
今いる場所は物資の保管室らしき空間となっており、人目がないので俺のやり方で魔石の回収を終えると貯め込まれていたらしい物資を漁ることにする。
それはその中にまとまった数の魔石が含まれているからだったのだが……いくつもの魔石が1箇所に集まっていることから、そこに強奪品が保管されているのだろうと予想していたのだ。
その予想は当たっており、魔石だけでなく金銭を始めとした様々な物が保管されていた。
「一般的には大金ね。宝石なんかもあるし……食料はさっきの女性達に与えていたらしいからあまり残っていないわね」
あの女性達は繁殖が主目的だったらしいことから、そのため孕んだ女性には優先してまともな食事を食べさせていたのだそうだ。
まぁ、魔物にもよるが犯されると身体が妊娠する態勢を取るようで、囚われれば数日で孕むことから全員まともな食事を与えられていたらしいが。
つまり……全員魔物の出産経験を経ているということだな。
それを聞いてアニスエラは良い気がしないからかやる気を出し、特殊な能力……聞いた限りでは時間を止めそうな力を持つらしい魔物についての情報をなんとか思い出そうとしていた。
ここがゲームの世界であり、その作品のプレイ経験から何らかの情報があるのではと思っていたが……
「ハァ、ダメね」
一緒に物資の確認をし、その中から魔石だけを回収して箱型ゴーレムの中に戻ると……彼女は小さくため息を付いてそう零す。
「思い出せませんか?」
「ええ。思い出せないってことは、ゲーム中でその魔物に関わる事が出てきていないんでしょうけど……」
「ってことは、ゲームが始まる時点では倒されていたってことですかね?」
「どうかしら?アンタの例もあるし、そのゴブリンが自分の能力に気づかないまま生きていたのかも……んん?」
何かに気づいたらしいアニスエラは、目を閉じながら何度か首を左右に傾けると……自信なさげにその情報を口にした。
「もしかすると、ソイツと戦っていたかもしれないってキャラはいたわ」
「おお、そうなんですか?」
「ただ、そのキャラはソイツの能力を話してたわけじゃなくて、過去に厄介な魔物がいたって言ってただけなのよね」
「あら、じゃあ別の魔物の事かもしれませんね」
「ええ。ただ……それが5年前って言うのが気になるんだけど」
「5年前だと何かあるんですか?」
そう聞いた俺にアニスエラはコクリと頷いて言う。
「そのキャラが登場するのが5年後だから、厄介な魔物がいたのは今年ってことになるのよ」
暫くして。
とある場所から魔物の集落を見ていると、その入口に魔物の集団がやって来ていた。
それなりの数だが北の街道に居た連中よりは少なく、囚われていた女性達の話からするとだいぶ少ない。
南に向かったのはもっと大勢だったらしいからな。
どの魔物も無傷ではないようで、南の街道では人間が勝利したのかと思ったが……比較的傷が少なく、周囲の魔物達の態度からボスであろうと思われるゴブリンが抱えるモノで楽観することはできなくなった。
それは……人間の頭部だ。
距離があってハッキリとは見えないが、短い頭髪から男性である可能性が高いと思われる。
わざわざ持ち帰ったということは、人間側の重要人物だったのだろうか?
他に何かを回収してきた様子は見えないので……そこまでの余裕がなかったのか。
そこから推察すると、人間側が全滅したわけではないようだ。
アニスエラの家からも兵を出しているわけだし、どういう結果になったのか気になるところではあるが……こちらとしては捕虜が居ないことに安堵した。
「人質にされそうな人はいないみたいね。いける?」
「ええ。ただ、もっと引き付けてからですね。やはり警戒しているようですし」
ボスやその近くに居たこの集落の上位者達は異変に気づき、入口の前で足を止めて下位の魔物を集落に入らせていた。
門番もおらず、地上で警備を担当していた連中も出てこないのでは警戒して当然だな。
"格納庫"から直接頭部にゴーレムを送り込むには……遠すぎるんだよな。
俺達はこの集落の奥まった場所にある建物におり、入口の方へ向けてのぞき穴を開け、内側に壁を作って二重底の中のような空間に隠れて連中を監視しているからだ。
女の臭いであれば気づかれても捕らえていた女性のものだと誤解するのかもしれないが、この現状では人間の男……つまり、俺の臭いのほうが目立つのではないかと思ったからである。
そんな場所から帰還した魔物達を監視する中、先行したゴブリンが集落の建物を確認してすぐにボス達の下へ走った。
警備についていた魔物の死体を発見したからだろう。
報告を受けたらしいボスは中に敵性存在が居ると判断したのか、そのゴブリンを再び集落に入らせ、他のゴブリンにも同様の対応をして集落内を調べさせ続けた。
しばらくして、地下洞窟を調べに行ったゴブリンが慌てて地上へ出てくる。
おそらく、地下の魔物も全滅していたのを確認したのだろう。
怪我をしているようには見えないので、囚われていた女性達は武器を得ても襲いかかったりはしていないようだ。
下手に攻撃してこの場に連れてこられでもするとこちらが用意した仕掛けが使いづらくなるので、大人しくしておくようにと言っておいたしな。
そのゴブリンがそのままボスの近くまで駆け寄ると、報告を受けたボスは部下を引き連れて集落の中へ踏み入った。
そのゴブリンが無事に出てきたことから、中にそこまでの脅威はないと判断したようだ。
「く、来るわ」
「わかってます」
隣りにいるアニスエラにそう返し、ボスゴブリンが進むのを注視する。
そうして奴が集落の中ほどまで進んだところで……今だ!
俺がそう意識したとき、魔物達の周囲一帯から地面が消えた。
ヒュンッ……サクッ
「……確かに動かないな」
囚われていた女性達の中にいた軍人らしき女性がナイフを投げ、ここのボスの死を確認する。
その言葉で、久しぶりに外へ出た女性達は喜びの声を上げる。
「やった!これで帰れるのね!」
「ああ、やっと……」
そんな声の中、怒りの声を上げる女性もいた。
「何度も何度も犯しやがって……死ね!」
シュッ、ガッ!
怒りのせいか元からなのか、声を荒げながら石を投げている。
それに呼応したのか、他の女性も魔物の死体に石を投げ始めた。
「3匹も産ませて……えいっ!」
「私なんか5匹もよ!このっ!」
「私の初めてを……このクズ!」
ガッ、ガッ、ガツッ!
言いながら投げられた石は巨大な穴の底で串刺しになっている魔物達に当たるが、当然のように反応は一切ない。
そう、連中は全滅しているのだ。
俺は地上の集落に向け地下から大穴を開けて底に石で剣山のように杭を設置すると、地表部分を土のゴーレムとして支配下に置き、形をそのまま維持させておいたのだ。
上から穴を開けると蓋が必要になり、その蓋が一部分だけでは穴の外の地面と色が違って気づかれると考えたからである。
そうして、魔物達がある程度進むまでは蓋としてのゴーレムを維持し続け、タイミングを見計らって"格納庫"にしまって穴に落としたのだ。
これは、アニスエラの情報からボスの能力が時間そのものを止めるのではなく、対象の意識だけを止めるものだと予想したからである。
ゲームでそれについて語ったキャラは、強い人間から動きを止められて殺されていったと話していたそうだ。
そのキャラは意識だけを止められているとは思わず、集団戦だったためにその点を気にする余裕はなかったらしい。
だが、弓矢や投石は普通に効いていたのに気づき、その魔物に対しては遠距離武器での攻撃に集中するよう指示を出したそうだ。
それに軍人らしき女性の情報も加えると……その対象は複数にもできるようなので、おそらくだが対象を複数とする場合は周囲の存在全ての意識を止めてしまうことで味方まで止めてしまうので、混戦状態では単体へしか使えないのではないかと予想した。
逆に撤退が必要な場合は敵味方関係なく意識を止め、主要な魔物だけを能力の範囲外に連れ出して逃がしたりもできそうだ。
帰ってきた魔物が少ないのは、そうやって主力だけを確保して撤退してきたからなのかもしれない。
ならばとこちらの意識を止めてきても無駄な状況を作ることにし、落とし穴に石の杭を逆さまにして仕掛けるという方法を使うことにしたのだ。
連中が穴に落ちた後は、念の為にボスを始めとした上位の魔物と思われる者から順に頭部へゴーレムを送り込んでとどめを刺した。
鎧で武装していたゴブリンもいたし、落としただけで油断しなくて良かったな。
その結果がこの光景なのだが……それを眺めている俺に、軍人らしき女性が声を掛けてくる。
「あの連中をまとめて倒すとはな。これが君の力というわけか」
「まぁ、そうですね。あんまり知られたくはないんですが……」
「だろうな。知られればいくつものお誘いが来るはずだ」
その言葉に、隣からアニスエラが俺の腕を掴んで引き寄せた。
ぐぃっ
「わっ」
「……うちの領民ですから」
その態度に女性は苦笑すると、ごもっともな懸念点を挙げてくる。
「わかっております。ですが、ここから我々が帰るとなると……どうやって帰ってこれたのかという話になります」
「それは……誰か、連中と南で戦った人がやったことには出来ないでしょうか?」
「それは難しいのではないかと。連中に追われている様子はなかったのでしょう?」
「……そうですね。警備の魔物が見当たらないのを気にして、なかなか中に入って来ませんでした」
「となると、おそらく南では人間側が撃退されたのでしょう。しかし、魔物側も追うほどの余力はなかった、と」
そうなるか。
撃退されたのが魔物の方なら、人間側はねぐらを突き止めるために間違いなく追跡者を出すはずだからな。
それを聞いたアニスエラは俺が思っていたのと同じような反応をし、この集落から女性達を救った人物について別の案を提示した。
「そうなるでしょうね……では、正体不明のどなたか、というのはどうでしょうか?」
「確認のしようがないので通らなくはないと思いますが……全員言い含めておけば漏らしはしないでしょうし」
その言葉に、若干落ち着いてきた女性達は頷いて同意を示す。
松明を投げ込もうとしていた人もいたが、まだこれからも使うことに気づいて踏みとどまった。
「なら、それでいきますか」
と、軍人らしい女性がその案を受け入れたことでこの場の空気が緩む。
そんな中……1人の女性がある質問をしてきた。
「あの、地下で私達を運んでいただけると言っておられましたが……?」
「ええ。南の街道までですが、こういうもので」
フッ
「「わぁ……」」
答えながら出した、屋根がない大きめの箱型ゴーレムに感嘆の声を上げる女性達。
これで木々の林立する森の中を進むのは大変なので、ササッと空を飛んで街道へ出るつもりである。
そろそろ明け方が近いが、急げば誰かに見られる可能性は低いはずだ。
囚われていた女性はいずれも南側から連れてこられているようだし、その南側では人間側が撃退されているようなので……引き上げたのなら街道を見張る人員は減っているか居ないだろうからな。
そう考えていた俺に、その女性は予想外の提案をしてくる。
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