《連載版》異世界ネイルサロン

ネイルサロンをやりたいです

order sheet 18

　さて、赤の三時まで後2時間程でしょうか。
　まだ見ていない街中を案内して頂きつつ、時間を潰すことに。

　区画整理がされた街なので、通りはとても歩きやすいのですが、どこも同じような造りの建物が多いのでうっかりすると何処に居るのか分からなくなりそうです。

　私が方向音痴というわけでは、いえ、見栄を張るのは良くありませんね。方向音痴の私には何処が何処なのか覚えるのが大変です。
　リズさんとカーライルさんがいらっしゃらなければ迷子確定ですね。

　ですが、新鮮なお野菜やお魚、お肉を売る威勢の良い掛け声はここが紛れもなく普通の生活空間であることを教えてくれます。
　それらに答える買い物客も、走り回る子供たちも、獣頭で尻尾があったり、耳がちょっと長かったりと、私の知る人とはちょっと違うけど、同じ様な生活を送っている普通の人達です。

　普通、って何なのでしょうね？

　今までの生活の中では有り得ないと思っていた事が此処では普通だったり。

　うん、答えが出たら哲学者になれる気がします。


　異世界フェルミニアの日常生活を眺めていると地球元の世界との相違を一生懸命探している自分に気が付きました。

　同じところを探して、安心したい、って事ですよね。

　此方に来てから約半月、慣れたと思ったんですが、そんなわけありません。
　まだまだ彼方に未練たらたらです。

　帰っても、大切な祖父母はもう居ませんし、両親は何処に居るのかも知りませんし、最近は学生時代の友人とは年賀状位でしか連絡も取っていません。どうしても会いたい人も居ないので、未練らしい未練なんてないと思ってたのですが、やっぱり仕事に未練があったという事でしょうか。

　ネイリストになりたいと思ったのは、学生の時に初めてジェルネイルを知った時。お化粧や洋服だけがお洒落だと思っていて、マニキュアはお化粧の一環位にしか思ってなかったのですが、ジェルネイルの自由さに驚いたのです。
　爪先まで含めてこそコーディネート、といえば良いでしょうか。単色塗りだけでなく、立体も有り、というのに衝撃を受けたのです。

　まぁ、地味子でしたのでド派手な盛り盛りネイルは自分では出来ませんでしたが、付け爪チップでは良く作りました。

　まだまだサロンでも勉強したいことが沢山あったので、それが心残りで感傷的になっているのでしょうか？

　あ、サロンの先輩始め同僚達とは仕事以外の付き合いは無いので、どうしても会いたいとかは特にないです。

　此方に来た当初も思いましたが、私、人間関係希薄過ぎません？

　え？人として問題あり、でしょうか？

　いや、特にその場で不和の原因になったり、一人で居て問題を感じたことは無かったのですが。

　うん、やはりこれは此方での課題にしましょう。

　現状、領主様始めリズさん達が居ないと生活出来ないのも有りますが、何でも自分一人で解決しようとするのはなるべく止めましょう。

　やはり、郷に入りては郷に従え、ですね。

　此方の普通を知るのは大切ですけど、差異を探すのは止めましょう。

　無くしたものは身代わりになってきっと紗菜を助けてくれたんだよ。って、お祖父ちゃんが良く言ってました。あれは物を大事にすれば九十九神が宿っていつかお礼をしてくれる、って話でしたが、無くす時は何かを得る時でもある、とも言ってました。

　地球あちらでの生活を無くす変わりに私が何かから助けられたのなら、私は異世界での生活いまを一生懸命生きなければいけません。

　何が得られるかはまだ分かりませんが、まずは元々の夢でもあった自分のサロンを持つために頑張っていきましょう！