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2.ご飯はみんなで・・・

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 華奢な身体に色白な肌。優しげなヘーゼルの瞳にアーモンド色の髪。そんな美少年であるセシル。少ないながらも確実に存在する男の子たち。これは、もしかしたらBL展開アリかも――!!?
 などと思ってた頃に戻りたい。いや、もう一度絶望するのだから、やっぱりいいや。
 10歳頃まではまだ小さかった。可愛らしくて、自分から見ても美少年と言えるセシルは間違いなくBLの中の受けそのもの。これなら男が少ない世界でもワンチャン――と期待していた自分がおめでたい。
 ここ数年で身長はすくすく育ち、今では父のロアンも越え180㎝の大台も越えてしまった。まだまだ伸びそうだと言われるが、もう勘弁して欲しい。しかも、特に筋トレなどをしていないにも関わらず、セシルの身体は筋肉が程よく付いた細マッチョ・・・。服を捲ればそこには見事にバッキバキに割れた腹筋が・・・・・・って、角からこちらを凝視していたロアンの妻1がその場で鼻から赤い物を吹き出したのだけど・・・おおう。・・・大丈夫だろうか。
 腕にもいたるところに筋肉が付いていて、ぐっと拳を握りしめると筋が立って筋肉が盛り上がる。通りがかった妻2(召使い兼妾)がそれを目撃し、物欲しげに口に指を咥えていた。とても淫らな表情で、口からは涎が垂れ手に持った洗濯済みのタオルを濡らしている。それ、ロアンのにしてね・・・。
 この大きくなった図体。縦にもデカく、ちょいゴツめな身体。自分の受けの理想像からかけ離れている己の姿に、溜息が出る。男に、しかも攻め要員にモテたいのに、モテるのは女性にばかり・・・・・・。
 因みにセシルは今15歳で、童貞はとっくの昔に捨てている。卒業したのは、10歳のときだ。朝起きて、なんか気持ちいいなと思って目を開けたら、美女が自分に跨がって腰を振っていた。
トラウマにでもなりそうなものだが、セシルの頭は異様に冷めていて、『ほぅ・・・こんなもんか。なかなか気持ちいいじゃん、セックスのこっち側』などと思っていた。筆おろしをしてくれたのは、ロアンの店の店員の一人であり、愛人の一人であった人物だ。なかなかに可愛かった。が、セシルは断じて女性に興味はない。

 廊下を歩いていると、厨房から良い匂いのする湯気が漂ってくる。朝食は野菜とベーコンのスープだろうか。そう予想しながら厨房室に近づくと、ちょうどそこから妻3のメアリが出て来た。これから食事をするためにテーブルを整えにいくのだろう。この家には召使いたちを含め、本当に多くの女性がいる。ロアンの妻も多く、終いには召使いも妾だったりする。マジでクソな親父だな。
「メアリさん、俺が用意するから」
 貸して、といってテーブル拭きのようなものをもらう。大商人で裕福といっても、貴族のような品行方正さや由緒正しさはないので、生活の仕方は平民に近い。なので、食堂といってもお貴族様のお屋敷にあるドデカいテーブル・・・みたいなものはない。ただ、普通にでかめのテーブルである。
 食堂にいく途中、大きな窓に向かって置かれているソファにだらしなく寝痩けている中年親父を発見。残念ながら、セシルの父親だ。中年と言いつつも、見た目はほぼセシルで、自分も年をとったらああなるのか・・・としんみりさせる存在だ。
 そいつをソファの背を蹴って起こす。と、寝覚めが悪い父はセシル相手にブチ切れてくる。ま、セシルの方がけんかは強いのだが。
「飯はちゃんと食うって言ってんだろうが!早く顔洗って準備の手伝いしろこのダメ親父!」
 『飯、いらな~い』などと宣う親父に、眉をつり上げ怒鳴る。
 どれだけアルコールを飲んでも膨らまない腹に、むしろ俺と同じく程よく筋肉のついた身体。甘いマスクで、それでもって頭も良く、数々の有名店を経営する男、ロアン。屋敷には数えるのも面倒になるほど妻といえる者がおり、女にはだらしがないが、その分それだけの数女性を養えるほどの甲斐性があると、世間では評価されているそうだ。そんな、疑わしいが世間では高評価の父を怒鳴りつけるセシルの方が、この世界では異端児と呼べる存在であった。
 セシルに一括され、トボトボと顔を洗いに行った親父の後ろ姿を見て、はぁ、と溜息を吐く。これでも、マシになったほうなのだ。以前の、セシルが小さかった頃などはもっともっと酷かった。
 食事など、女が作って当たり前。食える物を出して当たり前。作った物を食べて貰えなくても、当たり前。メアリたち妻が作った物をまるで迷惑な産物とでもいうような態度に、子どもながらにブチ切れ、彼女たちに切ない気持ちになった。
 料理は、喜んで食べてくれる存在がいないと空虚になる作業だ。時には何時間も手の込んだものを作っても、食べる時間はせいぜい数十分。ロアンなど、数口食べて仕事や愛人との営みに出かけていくので、いつも残りはゴミとされた。しかも、いつでも腹が減ったときに温かいものが出てくると信じているらしい。お前は馬鹿なのか?と思ってしまう。しかも、外で働くことが最も大変な労働だと思っていて、家で何かしらをしている女たちを、サボっているかのように言ってくる。自分のしている仕事からすれば、お前らがしているのはその何十分の一だとでも思っているらしい。
 お前も朝昼晩飯作って、相手の汚い下着類なんかも洗濯して、家の雑事を延々とこなして、そんで帰ってきたら『疲れたー』とかこれ見よがしに疲れたアピールしてくる奴に温かい料理出して、そんで相手は当たり前のように食い終わった食器置いていって、後は自分の自由時間を謳歌する・・・この永遠と続く地獄をお前も味わって見ろ!!これが365日続くんだからなっ!?お前は休日っちゅうもんがあるけど、こちとらないんだからな!!?なのにちょっっとだけ手伝ったからってそんな『えっへん褒めて』みたいな態度取られても・・・引くわ。
 ・・・っと、悪い。後半前世の愚痴が・・・。
 前世は結局、自分の『性体(正体)』をはっきりさせようと努力することはなく、時に違和感を抱いてもなんとかやり過ごしていた。そして適当に大学を卒業し、当たり障りのない、皆と同じような会社員になると、しばらくして将来を心配する親から勧められた見合いで旦那と出会い結婚した。これが、地獄の始まりだったのだ。そいつもその親も古くさい価値観の持ち主で、男尊女卑ってこーいうことなんだ・・・と今まで自分が被らなかった被害を被った。
 だから、目の前で男に蔑ろにされている女性たちを見ると、黙っていられなかったのである。

『はぁ・・・・・・』
 物心が付き、前世の記憶の整理が付いたセシルが厨房室を通りがかると、鍋をかき回すメアリの姿が見えた。その背中は、子どもの自分からすると大きな大人のもののはずなのに、なぜだか小さく、寂しそうに見えた。
『メアリさん』
『せっ、セシル様!もう少しお待ちくださいね。今、ご夕飯が出来ますから』
 声を掛けるとギョッとした顔をして、急いで鍋をかき混ぜ始めた。そんなに、慌てなくてもいいのに。そんなに怯えなくてもいいのに。
 セシルはぎゅっと自分の服を握った。
『メアリさん、おれもてつだう』
 そういったときの、メアリさんの、ぽかんとした顔が忘れられない。その後の、うるうる湧き出てきた涙も。それが起点で、そこからセシルはメアリさんと段々と仲良くなっていった。
 そして同時に、女性を下に見ていたクソ親父の矯正にも、着手し始めた。飯を作らせ、けちょんけちょんにそれを貶し、上手い飯を毎食作って貰うことの大切さを説き、作って貰ったものはちゃんといただく、という至極当然のことができるまでになったのである。セシルの努力の賜物だ。
「親父そこ、ナイフとフォークの位置が曲がってる」
「ったく、いちいちうるさいな・・・」
 ブツブツ言いながらも、俺の言うとおりテーブルのセッティングをやってくれるロアン。元々クズ男のくせに、それが俺のお陰でちょぉっっとばかし女性の手伝いができるようになっただけのくせに、奴はさらに女性にモテ始めた。だから、彼女たちの手伝いをするのが満更でもないようだ。
 目の前に並べられた色とりどりの料理たち。それを囲むのはセシルたち親子と、父の側室たち。本当は屋敷のみんなで囲みたいが、そうなると食堂もテーブルももっと広くて大きな物に新調しなければならないだろう。まだ叶わぬ夢だが、いつかみんなと食卓を囲みたい。そう思いながら、セシルは食事を目の前に、
『いただきます』
 と心の中で唱えるのだった。

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