とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶

文字の大きさ
上 下
3 / 6

3

しおりを挟む


「んん・・・・・・っあ、」

 優しく包み込むような日差しと共に穏やかな木々の香りを運ぶ風が窓から入り、薄いレースのカーテンを揺らす。
 そんな心地よい午後の生徒会室で、しばらく気を失っていた副生徒会長のレイン=ブロックは目を覚ました。

 突っ伏していた自身の状況を短時間で把握し、机の上に積んであった書類の山が消えていることに気づく。
 生徒会長――ラッシュの机に目を走らせると、そこには自分が目を通すはずだった書類が処理済みを表す場所に置かれていた。


 下敷きにしていた書類に涎を零していなかったことに一瞬ほっとし、今日が普通の生徒会の日でなかったことにも安堵する。
 今日は生徒会長と副会長がいれば片付く仕事のみだったため、他の生徒会委員は来ていないのだ。

 それにしても、自分は一体何故寝てしまっていたのだろうか・・・・・・。と疑問に思いながらも優雅に見えるが次々と作業を終えるラッシュの様子を盗み見る。

 ふと自分の肩を見ると、彼のジャケットが掛けられていた。



 こういうことをするから、ムカつくんだ。
 俺に気がないくせに、俺なんか好きになるはずがないくせに、こんなに優しくしてくれる。
 望みなんかないのに・・・・・・。


 あれ、というか、何か忘れていることがあるような・・・・・・



「お、起きたか。おはよ」


 皺にならないよう留意して制服を持ち、丁寧に畳んでいるとラッシュに温かな声をかけられる。




 いつか、ベッドの上でも『おはよ』って聞けないかな・・・・・・





 と、叶うことのない想いがふと頭を横切った。






 ********



 「ふぅ~・・・・・・今日はこの辺にしとくか~・・・・・・」

 「明日中には終わりそうだな」


 眩しかった太陽も傾き、生徒会室の中を夕日色に染めている。レインとラッシュは部屋のカーレンを閉めて鞄を持ち、生徒会室を後にしようとしていた。




 「兄上っ!」


 『それにしても疲れたな』と言いながら扉を開けると、突然ガタイの良い男が身を乗り出してきた。

 「兄上、一緒に帰りましょう?」


 首をちょこんと傾ける仕草をしているが、高身長でしかもガタイの良い男がしても可愛くはない・・・・・・と思う。

 が、


 「お~スロウ~~!!まさか待っていてくれてたのか?寒くなかったか?大丈夫か?」

 「大丈夫です。俺も今学校終わってここに来ましたから。でも、扉を開けようとした瞬間に兄上が開けてくれるなんて・・・・・・やはり運命みたいですね!!」

 「そうだな~~あ゛ー・・・・・・かわい゛ぃ゛ー・・・・・・」


 と、ラッシュはこのデカい男――彼の弟、スロウ=キャオディージュ――に心底でろでろなのだ。


 
 スロウは顔も悪く身体も大きいことから皆から恐れられる。だがこうやって、大好きな兄に頭を撫でられて顔を綻ばせている様子を見ると、なんだか可愛いとも思えてきてしまうのだから、不思議なものだ。

 もしかしたらラッシュは、こういう風に世界を見ているのかもしれない。





 と、少しだけ思ったレインなのであった。

 


 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄だ!〜キレた婚約者が、王子を蹴り潰したら王子がドM化した〜

ミクリ21
BL
タイトルのままです。

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

天使と悪魔と保護者のお兄さん

ミクリ21
BL
天使と悪魔の双子を拾ったお兄さんは、保護者として大事に育てることに致しました!

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

そういった理由で彼は問題児になりました

まめ
BL
非王道生徒会をリコールされた元生徒会長が、それでも楽しく学校生活を過ごす話。

推しを擁護したくて何が悪い!

人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。 その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。 理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。 そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。 「凛に危害を加えるやつは許さない。」 ※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。 ※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

処理中です...