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64.【迷える子羊なお客様】11~ナナを連れての帰宅~
しおりを挟む「あの、ここって、シュワロ・エイデンさんの家です・・・よね?」
明らかに『エイデン宅』と言ったのに、しつこく確認する。庭の植物に水をやっていたのか小さなじょうろを手に持った美人なお兄さんは、長い睫が縁取る目を伏せながら、こくり、と一つ頷いた。かわいいな。
っじゃなくて。ちゃんと合っててよかった。
「それで、今エイデンさんはお留守・・・ですかね?」
恐る恐る聞いてみると、お隣さんは、『ああ』と呟いて眉根を落とした。
「ここはエイデンさん・・・ご主人と、息子さんのお二人が住んでいたんですけどね・・・・・・」
ごくり、と唾を飲み込む。なんだか、お隣さんの話す声と顔が暗い。
「少し前から、ご主人が、お仕事で王都の方に行かれてて、息子さんお一人で生活してらっしゃるんですが――」
ここで、さらに彼の顔が曇った。
「その息子さん、最近ずっと家から出てこないんです。お一人だからすっごく心配で、ベルを鳴らしても声を掛けても顔を見せてくれなくて。でも、夜に時々小さな明かりが窓から見えるので、一応大丈夫だとは思うんですけど・・・・・・」
「そうなんですか・・・・・・」
突然のことに、どう反応していいかわからない。言葉は耳から入ってくるが、頭で理解にまでは繋がらなかった。
えっと、っということは、シュワロくんは・・・・・・ひきこもりってこと・・・?
なんとも言えない重さを心に感じていると、腕の中の籠が勢いよく揺れ出した。
「ぅわっ」
緩んでいた蓋がポンッと開き、中から小さな頭が顔を出す。
「みゃっ!」
「あらっ、ナナちゃんじゃない?お久しぶりぃ!ん?もしかして貴方・・・」
「シュワロくんに、いなくなったナナを送り届けに来たんです。でも、彼のこと全然知らなくて・・・・・・」
そっかぁ、とお隣さんは、指を唇に当てて何やら思案し始めた。指が這うピンク色の唇に、なんとなく視線が行ってしまう。瑞々しいぷにぷにの唇・・・・・・。
「あっ!私が預かっておきましょうか?今夜、息子さんにお返ししますよ」
笑顔のときに、口から見える歯の形がかわいい・・・とか思っていたが、ハッと我に返って彼の顔を見る。親切にもバスケットを受け取りますよと両手を差し出されたが、ナナミは自分を見つめてくるナナの瞳を見返した。
「ありがとうございます――」
***
「ごめんなぁ、また狭いところに入ってもらうことになって」
まるで、いいよ、といっているように、ナナが目を細めて なーん と鳴いた。
親切で美人なお兄さん・・・リリエさんがナナを預かると言ってくれたのだが、ナナミはお礼を言って断ることにした。
やはり、シュワロ本人に会ってナナを返したいと思ったのだ。なので、今は来た道を戻っている最中である。
「ただいまー」
「おかえりっ、飼い主には会えた?」
「いや・・・って、みんな何してるの?」
迎えてくれたシノに会えなかった報告をしようとしていたら、シノの向こう側で皆が集まって何かしているのが目に入った。
「ああ、あれね。みんなで拗ねたモモの機嫌を取ってるんだよ」
ほんと、困ったモンだよねぇ、と呆れて溜息を吐くシノ。玄関を上がってフロアを覗き込むと、なるほど確かに、皆が輪になって真ん中に体操座りをしているモモをなだめすかしていた。中には猫じゃらしのようなものを手にしている者もいて、『おいおい、モモは猫じゃないぞ・・・』と心の中で冷静にツッコミを入れておく。
「だからさぁ、猫なんかそこら中にいっっぱいいるじゃん!?店長に頼んで飼ってもらおうよぉ」
「そうだよ!いつまでもそんな風にいじけてないでさ、せっかくの休日なんだしさぁ~」
「違うもん!ナナミだけがっ、ナナミなんだもん!!」
なんだかモモが哲学みたいなことを言っている・・・と傍観しながらそんなことを考えていると、キャストの一人がナナミの帰宅に気づき、『おかえり』と声をかけてくれた。
「おっ、ナナミ帰ったのか。その、ちゃんと返して来れたか・・・・・・?」
「カシア、それが――
「にゃー!」
「ナナミっ!!?」
困った顔をしたカシアに事の経緯を話そうとした直後、腕の中の籠から勢いよくナナが飛び出した。ナナは一目散にモモの方へ向かっていき、泣きじゃくっているモモの側まで来ると嬉しそうに頭を擦りつけた。
「で、結局返せなかったってわけか」
ナナとモモがじゃれ合う非常に非常に目と心に優しい映像を背景に、ナナミの話を聞いたシノとカシアは難しそうな顔をした。背後では、モモがナナを抱きかかえて、『もう一生お前を離さないからね!!』などと話していた。
「おい、モモ。夜には返すんだからな」
「やだもん!ぜったいに、イヤ!!ナナミは誰にも渡さないんだから!!」
「モモっ、いい加減にしろっ!そんな聞き分けのないことを言うなっ!」
モモのあまりの我儘に珍しくもシノがぶち切れ、モモの柔らかそうなほっぺたをぎゅむっと抓った。まるで子どものけんかのように、わーぎゃーと騒がしい。
「えっ、と・・・・・・なになにどうしたの?」
二人のけんかを止めさせようとキャストたちが加勢し、ちょっとした乱闘騒ぎに発展しそうになったところで、状況の飲み込めていない声が落とされた。
「あ、店長、おかえり・・・・・・」
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