異世界ホストNo.1

狼蝶

文字の大きさ
上 下
63 / 66

63.【迷える子羊なお客様】10~ちゃんと実在する、よね?~

しおりを挟む

「ナナミ・・・・・・」
 モモが悲しそうな顔をしてナナの頭を撫でる。なんだか、自分の名前を呼ばれているようで、恥ずかしい。
「バイバイ・・・・・・」
 名残惜しそうに手を離し、モモはぐっと拳を握った。
「じゃあ、行ってきます」
「「「いってらっしゃい」」」
 店長と皆に見送られ、ナナミは『desire』の扉をくぐった。腕の中にはバスケット。中でゴソゴソと動く気配があり、か細い鳴き声が聞こえてくる。きっと暗闇が怖いのだろう。突然カゴの中に入れられて、こわくないはずがない。
朝食後、早速ナナをシュワロの元へ連れて行こうと、店長が貸してくれたバスケットに入れて、店を出発した。
うろ覚えだが、教えてもらった道を歩く。数時間前に教えてもらったというのに、自分の記憶が頼りなさ過ぎて呆れそうになる。だが、やはり日中と夜では街の様相が全く異なるのだ。日中だと目に見えて全貌が確認できるからか、そんなに長く感じない距離でも暗闇の中だとやけに長く感じる。ナナミは、昨夜の街の不気味さを思い出しながら、ぶるりと震えた。
やっぱり、明るい方が安心だ。少人数だが人が行き交う中を、大事な存在を抱えて歩く。人がいるだけで、声が聞こえるだけで安心できる。
風俗街を抜け、家が建ち並ぶ道に入ると、人通りも自然と減ってきた。
「ここかな・・・・・・」
 ぼんやりとした覚えていなかったものの、昨夜シュワロに教えてもらった場所まで来ることができた。さて、と顔を上げると、やはりそこは、一見廃墟のような不気味な屋敷であった。
「カァア゛ カァア゛」
「ひっ」
 バサバサバサッ!と木からカラスもどきが飛び立ち、派手な羽音を立てる。それに驚き思わず悲鳴を上げ後退ってしまい、それに驚いたのか籠の中のナナもみゃーみゃーと不安そうな鳴き声を上げた。
 ごめんね・・・とナナに謝り、再び建物の門に近づく。鉄の門はナナミの背丈よりは低いが、とてもしっかりとしていて装飾も施されており、優雅な印象を与える。だが、錆び付いていて色は黒く、そこかしこに蔓が伝っていた。
 横にベルが備え付けられているので、これを鳴らせば良いのだろうか。そう思い、ナナミは意を決してベルに手を伸ばした。
 独特なベルの音が鳴り響く。古いからなのか、それとも錆のせいなのか、響きは良くはなかったが、十分中の人に届く音の大きさだろう。
 喜んでくれるかな、安心してくれるかな・・・などとシュワロの反応を楽しみに待っていたが、しばらく経っても誰も扉から出てくる気配がない。というか、建物の中に人の気配を感じない。
 嫌な予感を抱きつつも、聞こえなかったのかな?と思い、もう一度ベルを鳴らす。が、やはり人が出てくるようには思えなかった。
 ・・・・・・え?まさか、無人・・・ってことは、ないよな?
 ふと『幽霊』という言葉が頭を過ぎり、日が出ていて暖かいはずなのに、ぶるりと身震いした。まさかね。・・・・・・マジですか?
 俺は、震える手を自覚しながら、腕の中の蓋の閉まった籠を見つめる。さっきまであんなににゃあにゃあ鳴いていたのに、建物のベルを鳴らしてからすぐに静かになった。
 まさか、蓋を開けたら骨が入ってるとか・・・ないよな?ちゃんと、いるよな?
 あかん。マジでこわい!!
「あのぉ・・・」
「ひゅっ」
 恐怖に支配されて、あと数秒したら全速力で籠を門の前に置いて逃げようとしていたナナミに、突然声がかけられる。心の中で『ぎゃんっ!』と悲鳴を上げた。
 声のかけられた方を向くと、お隣さんらしき人が怪訝な顔をしてナナミのことを見ていた。ナナミが顔を向けた途端、顔を赤くする。
「エイデン宅に、何かご用ですか?」
 目の前にいる自分以外の人間の存在に、ナナミは漏らしそうになるほど安堵した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

私の事は気にしないで下さい

赤嶺
BL
2年生で副会長を勤めている清水咲夜。 いつもは敬語でしっかりものの副会長だが…本当は… ある1人の転校生が来るまでは、あまり問題も起 少なく平和な日々だった 咲夜はその平和な日々が好きだったが 転校生のせいで毎日五月蝿くなり問題の数が増えてしまい… 固定CPを作る予定は考えておりません。 R18になってしまうかはまだ決まっておりません。もし、R18やR15になってしまう場合は※を付けますのでご注意ください。 過激表現はまだありませんが、もしかしたら今後入るかもしれません。 初投稿作品になります。誤字脱字の報告、感想やアドバイスお待ちしております。毎日投稿は難しいかもしれませんがもし良ければ気長にお待ちくださったら幸いです。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

処理中です...