異世界ホストNo.1

狼蝶

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60.【迷える子羊なお客様】7~幽霊の正体2~

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「ちょっと座ろうか」
「・・・・・・(こくり)」
 いつもの生活圏から少しだけ離れた場所にある小さな噴水を取り囲む石段に腰掛け、二人の間にランプを置いた。こんな訳のわからない変態とは隣同士で座りたくないだろうと思ったからだ。
噴水まで来る少しの間、ふと自分はヤバい行動をしていることに気づいた。少年を突然変なところに連れて行き、しかも帰ろうとしている彼を引き留めてさらに遠くへと連れて来たのだ。何コレヤベェ奴じゃん・・・と内心ガクガク震えていた。しかも、その一方で違うヤバさも頭を過ぎった。もしかしたら噂の幽霊の可能性のある彼。話をして『じゃあ帰ろう』と振り返った時にその場所に誰もいなかったら・・・・・・俺は多分しばらく夜に出歩けなくなるだろう。その場で気絶してしまうかもしれない。
「その・・・・・・落ち着いた?」
 二つの意味でタラタラと汗を流しつつ尋ねると、少年はまた無言でこくり、と頷いた。先ほどのような、パニックに陥った状態は脱したようだ。少しだけ様子を見て、俺は聞きたかったことを確かめてみることにした。
「あのさ、最近ここら辺で話題に上がってる“彷徨う幽霊”って、もしかして君のこと?」
 そう聞くと、彼は一瞬身体を揺らし、指をいじる手に力が入ったようだった。返答を待っていると、こちらを見ずにおずおずと首を縦に振った。
「そっ、か・・・・・・。教えてくれて、ありがとう。えっと、何か、理由があったのかな?」
 ほら、夜は出歩くと危ないし・・・と、今絶賛変なヤツ(俺)に捕まっている少年に、理由を尋ねる。いや尋ねるの下手かよ。
 結局それ以上上手く言葉が紡げず、諦めて黙ることにする。アカン・・・。寒いし、この子を早く家に帰さなきゃ・・・。
 そう思って立ち上がりかけたとき、隣で小さな声で話し始めた。
「つい最近・・・ぼくの飼ってるネコが・・・・・・いなくなっちゃって・・・・・・。ここらへん、ネコ多いから・・・・・・もしかしたら“ナナ”もここにいるんじゃないかって思って、ナナの好きなおもちゃも持って、探してたんです・・・・・・」
 ・・・ん、・・・・・・んん!な、なぁ~んだ、『ナナ』ってこの子のネコちゃんの名前だったのかぁー!しかも、あの鈴の音はネコちゃん用のおもちゃの音だったのねー!はー納得納得。
「だ、けど・・・・・・ナナは見つかんないし、へ、変な怖い人たちに追いかけられそうになって・・・・・・こわくなって・・・・・・!!」
 グスンと啜る鼻のてっぺんが、寒さに真っ赤になっていた。コートを着ていたらその肩に掛けてあげられたのに・・・と、俺は心底後悔する。しかしモモとシノが変な怖い人扱いとは・・・・・・本人達これを聞いたらさらにキレそう。
「俺も手伝うよ、君のネコを探すの。だから、その“ナナ”くん?の特徴教えてくれる?」
 事情を知り、よし!俺もできる限りのことをしよう!と思い、ナナという猫の特徴を尋ねると、飼い主くんは思ってもみないことを言われたような、驚いた顔をした。そのびっくりした顔が、猫そっくりでとっても可愛い。このまま『かわいぃ~!』とキモい声を上げてもっふもふの髪の毛をわしゃわしゃと撫で回したい欲がじわじわと沸いてきたが、それをやったら今度はココ近辺に“変質者”の噂が立ちそうだから、ぐぐっと堪える。偉いぞ俺。
「時間が空いたときに探してみるから。だから、そんな一人で心配しないで!・・・まぁ、心配しないでってのは無理だな、ごめん・・・・・・。希望を持って探そう!きっと見つかる!」
 不安そうに揺れる瞳をじっと見つめ、俺は歯を見せて笑った。おそらく見えてはいないだろうが、声で明るさが伝わればいい。
愛猫がいなくなるなんて、きっとすごくすごく不安な気持ちだろう。俺は前の世界でも動物を飼ったことはない。だが中学生の頃、同級生が友達に『飼い猫がいなくなってしまった』と話しているのを聞いたことがある。それを聞いていた彼の友人たちは、笑い話かと思ったのか笑っていたが、俺は彼の表情を見て笑い話ではないと思った。彼も、笑われるなどと思ってもみなかっただろう。きっとそんな感じだ。他人から見れば全くどうってことのない事柄なのだろうが、自分にとっては大事。
 目の前のこの子も、本当に悲しくて、心配で、だからこんなに必死に寒い中探しているのだ。
 俺は、絶対にこの子の猫を見つけてあげよう。寒空の下、そう思った。

 この子の猫は、体長15センチとまだ小さく、紺色の毛に尻尾は短いらしい。そして両目の色が違っていて、金色と灰色なのだとか。特徴的なその姿に、これなら見つけられるだろうかと自信がもてた。
 猫の情報も聞けたし、あとはどうしようか・・・・・・。本当は、彼に夜の猫探しを止めてもらいたいのだけれど、どうやって言えばよいかわからない。昼間は用事があって時間が取れないのかもしれないし、そもそも夜の方が猫探しをしやすいのかもしれない。そうぐるぐると考えていると、あの・・・と小さく声をかけられた。
「ぼく、めいわく、ですよね・・・・・・。すいません。お店の人たちに迷惑を掛けていることは、知って、います。でもぼく・・・夜じゃないと、だめなんです・・・・・・。ううん、夜じゃなくても大丈夫だけど、でも、でもやっぱり夜じゃなきゃ外に出れなくて・・・!」
 すごく途切れ途切れだが、話し終わるまでじっと待つ。言いたいことがあるのに、言葉が一杯一杯になっているように見える。
「どうやって伝えたらいいのか、わ、わからないけど・・・・・・ぼく、ぼく――!」
 一生懸命になり、目にはまた涙の粒が光っている。
「ううん。迷惑、とかいう話よりも、俺は夜に君が出歩くのが危ないと思う」
 上手く伝えることができずに泣きそうになる少年の手を包み込み、俺は正直に自分が思ったことを口に出した。だって、本当にそう思うんだもん。確かにこの子の猫探しがあらぬ噂を呼んで、店にまで影響を及ぼしている訳だが・・・・・・それよりも、こんな可愛い子が一人で夜に出歩くなど、危険にもほどがある!俺みたいな変態に襲われでもしたら一体どうするんだ!!ゆ、誘拐だってされかねないし。
「そうだ名前っ!君の名前と住んでいるところを教えてよ。やっぱ夜出歩くのは色々な意味で危ないし、俺が“ナナくん”を見つけて君の家に連れてくよ!絶対に!!」
 絶対という言葉を安易に使ってはいけないとは思いつつも、俺は敢えて使ってしまった。彼を安心させたいという気持ちもあったし、俺自身もナナを絶対に見つけたいと思ったからだ。
 グイグイと顔を近づけると、それまで固まっていた彼はひゃぁ!と悲鳴を上げて仰け反った。瞬間、ヤッベ!と思い、俺も彼の手を離し距離を取る。血の気がサァッと引いていき、手の先が冷たくなっていった。
 ヤバい。やる気で熱が入ってしまって、完全に怯えさせてしまった。
「っごめn――
「シュワロ・・・・・・」
店に迷惑は掛けられない。せめて変態の噂を流すなら『desire』とは無関係の一個人として扱ってくれ・・・と心から願いながら、思いっきり土下座をして謝ろうとしゃがみかけたその瞬間、またしても鈴の音のような小さな声が零された。
「え・・・・・・?」
「ぼくの名前は、シュワロ・エイデン・・・・・・です」
マシュマロみたいな可愛らしい幽霊の正体は、イメージ通り、マシュマロのように柔らかそうな名前の少年だった。

 ***

 シュワロくんの家は、風俗街から少し離れた商店街とは反対方向にあるようだ。俺も自分は『desire』という店のキャストであることを話した上で『わかった、ありがとう。“ナナ”くんを見つけて、君の家に送り届けるね』と約束し、危ないから家まで送ることになった。
 ご両親は心配していないのかとさりげなく聞いてみると、なんと驚くことに、今彼は一人暮らしなのらしい。俺でもしたことがない。すごすぎる・・・・・・!!じゃなくて、すごく心配だ。こんな年端もいかない子ども(何歳か知らん)が一人で暮らしているなんて・・・。
「ぁの・・・・・・ここ、デス・・・・・・」
 色々と考えていると、隣を歩くシュワロくんの足が止まった。ふと彼の顔の向いている方に目をやると、そこにはご立派な鉄の門。
 え、この子、お金持ち?と思わずアホ面を晒してしまいそうになるほど、中に見える屋敷も立派だった。だがしかし、雰囲気がめっさこわい。真っ暗だし、なんか植物生い茂ってて枯れた木の枝に止まっているカラスみたいな鳥の鳴き声不気味だし、なんかコウモリみたいなのも飛んでるし・・・・・・。
「わざわざ送ってくださって、ありがとうございました」
 俺が絶句していると、シュワロくんが深々と頭を下げて門の中へと入っていき、そしてすぐに暗闇の中に消えていったのだった。
 ・・・・・・え、待って。今までちゃんと側にシュワロくんいたよね?俺、彼と話してたよね!?シュワロくん、ちゃんと実在してたよね!!?
 と不安になるほど、先ほどまでのやり取りが幻に思えてくる。カラス(だと思うことにしよう)の禍々しい鳴き声に再び建物を見上げると、薄く霧がかっていてやはり不気味さを感じた。
 ・・・あれ、てかここ、どこだ?

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