異世界ホストNo.1

狼蝶

文字の大きさ
上 下
56 / 66

56.【迷える子羊なお客様】3~ナナミは実はこわがりなのだっ☆~

しおりを挟む

「スルギとフェリスは、一体何をしていたんだ?」
 相手の正体がわかり、ほっとしながら尋ねる。驚きに心臓が跳ね上がったが、今は普段通りに脈を刻んでいた。
「あ~・・・多分、ナナミたちと同じだと思う」
 スルギはポリポリと頭を掻きながら口を尖らせた。隣に立つフェリスも目線を外しながら悪戯に頬を膨らませている。
 もしかして・・・・・・
「「“彷徨う子どもの幽霊”の噂?」」
 ナナミとスルギの声が重なった。どうやら『carrot&stick』でも噂の影響が懸念され、スルギやフェリスなどのキャストたちが夜の見回りをすることになったという。
「ったく、めんどくせーよ。そんなの、誰かがでっち上げた話じゃねーの?まさかっ、俺たちの店の人気を恨む西の奴らが客を減らそうと・・・・・・」
「スルギ、過大妄想だって。落ち着きなよ」
 ランプに照らされたスルギは小悪魔のような恐ろしい(可愛い)表情を作り、ナナミの知らない西の方の人たち?に対して宣戦布告しようと拳を握りしめていた。が、そんなスルギをフェリスが苦笑いしながら宥める。やれやれといった風だ。まるで二人の姿が親子のようで、微笑ましい気持ちになる。それにしても、全く怖がっている風ではない二人の様子に、先ほどのモモとコンが思い出される。当人たちは本当に、全く怖くないのだろう。非常に羨ましい。
「じゃ、まぁ・・・、俺ら行くわ。さっさと終わらせたいし」
「そうだね。じゃあまたね、ナナさん」
 離れがたそうに、そして面倒くさそうに先を行こうとするスルギの袖を、ナナミは思わず掴んでしまった。
「?ナナミ、どした・・・・・・?」
「あのさっ、そっち方向俺たちが今見てきたからさ、その・・・一緒に回らない?」
「「え・・・・・・!?」」
 今ナナミたちが歩いてきたところヘ向かって歩いて行こうとする彼らを引き留め、懇願に似た提案をする。予想しない行動だったのか、隣にいる見習いの子も『えっ!』と小さく呟いた。だって、だってだって、こわいんだもん!!そんな意外そうな顔をしないで!と、心の中でぶりっ子をする。
「もしかしてさ、ナナミ、こわいのか?」
 袖を掴むナナミの手首に触れ、スルギが口元に笑みを浮かべながら見上げてきた。眉が意地悪く曲げられていて、ナナミがこの類いに耐性がないことを確信しているようである。
「さっきも俺たちと会った時、地味にビックリしてたしな」
「き、気づいてたのか?」
 カァッと顔に熱が上る。そして思わず自ら怖がりをバラすかのような言葉を発してしまった自分の口を、今更ながら手で塞ぐ。が、もう遅く、三人にナナミがビビっていることを知られてしまった。見習いの子なんか、ナナミのように口元を手で覆っている。『信じられない!こんな奴に頼ってたの!?』と言いたげだ。
「へぇ~、ふぅ~ん・・・ナナミがこわがり、ねぇ・・・・・・」
 スルギは今絶対良からぬ事を考えているだろう!なんか、弱点見つけたみたいなすっごく悪い笑顔をしている。
「ヒッ!」
 スルギにムッとしていると、突然袖が引かれた。当然ながら、びくりと身体を跳ねさせながら驚くと、やったのはフェリスだった。
「ナナミ、かーわいぃ・・・・・・♡」
 『ヒェッ』。違う意味での悲鳴を上げてしまいそうになる。フェリスがいつものおっとりとした顔ではなく、S顔になっていたからだ。その顔に、ナナミは弱い。いつものプレイを思い出させられ、身体が自然と服従仕様になってしまうのだ。
「よーしよしよし、しょうがない。俺がこわがりのナナミといっしょに見回りしてやるよ」
「ふふっ、仕方がないなー。僕も一緒に回ってあげる」
「オネガイシマス・・・・・・」
 小さいながらも胸を張り、大変頼りがいのあるスルギと、ギラギラとした目を隠そうともしないフェリス。おろおろと様子を窺う見習いの子を傍らに、ナナミは彼らに向かって静かに頭を下げた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

私の事は気にしないで下さい

赤嶺
BL
2年生で副会長を勤めている清水咲夜。 いつもは敬語でしっかりものの副会長だが…本当は… ある1人の転校生が来るまでは、あまり問題も起 少なく平和な日々だった 咲夜はその平和な日々が好きだったが 転校生のせいで毎日五月蝿くなり問題の数が増えてしまい… 固定CPを作る予定は考えておりません。 R18になってしまうかはまだ決まっておりません。もし、R18やR15になってしまう場合は※を付けますのでご注意ください。 過激表現はまだありませんが、もしかしたら今後入るかもしれません。 初投稿作品になります。誤字脱字の報告、感想やアドバイスお待ちしております。毎日投稿は難しいかもしれませんがもし良ければ気長にお待ちくださったら幸いです。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

処理中です...