異世界ホストNo.1

狼蝶

文字の大きさ
上 下
54 / 66

54.迷える子羊なお客様

しおりを挟む

 さて、ここまで長い長―い回想のように俺の可愛いすぎる客たち(一部変態を含む)について語ってきました。思い返すと、本当に長かったな・・・・・・。しかも、客が全員癖が強い!ちょいMな兄弟ネコに元スパイちびっ子(この子もちょいM)、おっとり系隠れSにドM二人・・・って、M率高いな。それに加えてド変態と。正直最後に挙げた一人との思い出はできれば思い出したくないが、平時は比較的ちゃんとしてるんだよなー。みんなも、それぞれ癖は強いけど、一人一人いい人だし、接していてすごく楽しい。それに、可愛い。
 そんなこんなでみんなに支えられながらこの一年を過ごしてきたわけですが、この先も癖の強い客が来店してくるのでしょうか。
「ナナミくーん、今空いてる~?」
 などと、心の中で誰に言うでもなく宣っていると、カーテンを隔てたフロアから名前が呼ばれた。俺は『はーい!』と元気よく返事をしながら、カーテンを潜り呼ばれた方へ歩いて行く。
「座って座って。ちょっとナナミくんも聞いてよ!」
 閉店時、今日は『上がり』はなく後は店内の片付けを終わらせるだけだったのでキャストルームに待機していたところ、最後のお客様を接客していたキャストたちに呼ばれたのだった。
 そこにはほろ酔い気分のお客様がいて、その周りを数人のキャストが囲んでいる。引いて見るとまるで女子会のようにきゃっきゃとした雰囲気だ。
 何だろう・・・?と思いながら俺も端っこの方に座らせてもらう。
「最近聞く噂なんだけど・・・・・・夜中過ぎになるとね、ここら風俗街で子どもの声が聞こえてくるらしいんだ」
 やや雰囲気を作り顔に影を設けて話し出す常連客に、聞いているキャストたちが『きゃぁあ!』と悲鳴を上げる。その中でもモモとコンはシケた顔をしており、そのような話に興味はないらしい。
「でね、誰かの名前を呼んでいるらしいんだけど、その声が悲しそうで悲しそうで・・・・・・。その声の持ち主とばったり会ったりなんかしちゃったら――
「「っいやーー!!」」
「っもー!止めてくださいよそんな下らない話」
「そうそう。そんな話、僕全然怖くないもん。ねっ、ナナミくん?」
「ぅえっ!?あ、ああ」
 呆れかえるモモに突然振られ、声が裏返ってしまったが慌てて返事をする。どうやら、コンもモモもこういう系の話に全くビビらないタチなのらしい。正直言うと、俺はすごく苦手である。ほんと、すごく怖がり。
「そっかぁー、コンくんとモモくんはつよいねぇ。よちよち」
「やめろっ!」
「あはははは」
 コンを撫でては思いきり手を振り落とされる常連。だが全く気にした風もなく陽気に笑う彼のメンタルが俺はこわい。アンタも強すぎる、と言いたい。
「まっ、会っちゃったらどうなるかはわからないけど、最近夜にここら辺で子どもの声がするっていうのはホントらしいからさ。なんかあったらみんなナナミくんに助けてもらいなよ」
「「「はーい」」」
 じゃあね、と言って料金を支払い店から出ていく彼の背に、ありがとうございましたと頭を下げる。みんな元気よく返事をしたけど、俺なんか全っ然頼りないからね!?と叫びたい。多分こわい目に遭ったら一目散に逃げるか即気絶しそう。そんなこと、目をキラキラさせて『守ってぇー』と言ってくるキャストのみんなの前で言えやしないけど。うん、可愛い。俺が守る(キリッ)・・・。
 夜も更け、賑やかで明るい店の外は真逆のように真っ暗で静寂に満ちていた。そんな中、キャストたちの賑やかな声が漏れ出てきそうな『desire』の窓の外を、黒い影が横切っていったのだった。
 ナナミは知らない。これから彼がどれだけ困難な客を相手にすることになるのか。そして、自分が想像もできないほど大きな渦の中に巻き込まれてしまうことも。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

私の事は気にしないで下さい

赤嶺
BL
2年生で副会長を勤めている清水咲夜。 いつもは敬語でしっかりものの副会長だが…本当は… ある1人の転校生が来るまでは、あまり問題も起 少なく平和な日々だった 咲夜はその平和な日々が好きだったが 転校生のせいで毎日五月蝿くなり問題の数が増えてしまい… 固定CPを作る予定は考えておりません。 R18になってしまうかはまだ決まっておりません。もし、R18やR15になってしまう場合は※を付けますのでご注意ください。 過激表現はまだありませんが、もしかしたら今後入るかもしれません。 初投稿作品になります。誤字脱字の報告、感想やアドバイスお待ちしております。毎日投稿は難しいかもしれませんがもし良ければ気長にお待ちくださったら幸いです。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

処理中です...