異世界ホストNo.1

狼蝶

文字の大きさ
上 下
43 / 66

43.二回目の襲撃!嗅がれるナナミの㊙臭!?

しおりを挟む


 クソ猫かぶり匂いフェチさん――しかも汗の匂いに興奮するらしい――こと、セイレクさんはあの後、『興がそがれた』と言って俺にドぎつい悪態をついた後まさかの何もせず帰ってしまった。元のモサいカツラと眼鏡を付けて、何事もなかったかのように。
 部屋に一人取り残された俺は唖然として、しばらくその場から動くことができなかった。
 ・・・・・・え?俺、何に怒られたん?彼が怒って帰ってしまった理由がわからない。サファイアのような澄み切った瞳を、歪ませてしまった原因が、俺にあったのだろうか?――あったんですね、これが。
 先ほどの俺の自問自答の答えはズバリ、『俺が朝シャンをして汗の匂いを消してしまったから』である。いや、だって汗でベトベトして気持ち悪かったんだもん・・・・・・。仕方ないよね?
 仕事の失敗に項垂れていたら、店長が『気にしなくていいから。本当に』といつも以上に優しい笑みで慰めてくれたので、なんとか俺のメンタルは保たれた。そうじゃなかったらなんか上客らしいし、自分の失態に申し訳なさ半端なかったと思う。店のみんなにも。
 だって、あのお客さんが『desire』の悪い評判をバラまいてしまったら、俺一人のせいで多大なる迷惑をかけてしまうだろ。『あの店のキャストは客に会う前にシャワーを浴びて、汗の匂い一つしないんだぜ?』的な?
 ってあれ、キャストとしては当然の対応じゃね?・・・え、俺って悪くない?
 と、自問自答して自分を励ますのに必死になっている俺。
 くそ・・・・・・。めちゃくちゃ綺麗な人形顔のイケメンにゲス顔されて心底見下されるなんて経験、したくなかったぜ。もうあんな客金輪際来ませんように。
 もうっ、あんな人、ムサい男ばっかが密集してるサウナみたいなとこに行けば良いんだっ!ムッチムチの男たちの身体から出るムンムンの汗みたいな蒸気みたいなので興奮すれば良いんだっ!・・・って、サウナって臭いのか?なんか臭くなさそう・・・・・・って俺マジで何考えてんだろう。
 あの衝撃的な客のせいで、かなりの時間を消費してしまった罪悪感を胸に、俺は使うことのなかったベッドのシーツを整えていた。
 あれだけ俺に失望した彼だ。もう本当にここに来ることはないだろう。そう思っていた頃の俺は、幸せだったのかもしれない。まさかあれだけの羞恥を味わう羽目になるとは、微塵も思わなかったのだから。



 それは何気なく店の前で看板の点検をしていたときのことであった・・・。開店前、暇だったのでユキちゃんたちから仕事を貰って看板の拭き掃除と店前の掃き掃除に精を出していた。掃除など、一度手をつけると熱中してしまう俺は、汗が頬を流れ落ちていくのにも構わずに懸命に掃除に勤めていたのである。
「ふぃー・・・・・・こんなもんか――っ、うわっ!」
 自分の仕事に満足げに息を吐いて額の汗を袖で拭い、ユキちゃんに確認してから風呂入ろ~などと呑気に思っていた時、突然背後から腕を掴まれ連れ込まれたのだ。俺の働く店、『desire』の中に!!
 もう俺はいきなりのことでパニック状態。視界にちらりと入ったのはいつかのすげぇ態度の悪いぼさぼさの茶髪。俺よりも華奢な見た目のくせに、腕の力は意外にも強い。
「ちょ、ちょ、ちょ、待ってくださ――」
「店長、こいつ今日俺が買うからー」
 カウンターでいつも通りグラスを拭いていた店長は、もさもさ茶髪に引っ張られてきた俺の姿を見てブッと吹き、素通りしていく俺らに『ちょっ!』などとは言いつつも、特別俺を助けようとはしなかった。ってオーイ店長!!!!助けてよ!!?
 店内の掃除をしているキャストのみんなが丸い目で俺たちを見ていた。モモなんかは嬉しいことに助けようとしてくれたみたいだが、呆れた様子のシノに簡単に止められていた。モモ、非力・・・・・・。そこも可愛いのだが。つか強くならなくてもいい。俺が守るから(キリッ)←絶賛引きずられ中の俺が言うとか笑。
 ってな感じで早々にベッドの上にバサリッ!ですわ。これがBL作品の受けの子だったら『い゛っ!いきなり何すっ――っ!?』みたいな感じで恐怖を目に宿して言ったりするんだろうけど俺は――
「びっくりした――!いきなり何するんですかっ!・・・っヒッ!!」
 うん、大体同じ流れだったわ。恥ずかしい・・・。しかも有無を言わさないという目つきで睨まれ、両腕を掴まれて変な声上げちゃったし。
「しばらく大人しくしとけ」
 ひゃ、ひゃーーん!!!俺、もしかして、食べられちゃうのーーー!!!?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お助けキャラに転生したのに主人公に嫌われているのはなんで!?

菟圃(うさぎはたけ)
BL
事故で死んで気がつけば俺はよく遊んでいた18禁BLゲームのお助けキャラに転生していた! 主人公の幼馴染で主人公に必要なものがあればお助けアイテムをくれたり、テストの範囲を教えてくれたりする何でも屋みたいなお助けキャラだ。 お助けキャラだから最後までストーリーを楽しめると思っていたのに…。 優しい主人公が悪役みたいになっていたり!? なんでみんなストーリー通りに動いてくれないの!? 残酷な描写や、無理矢理の表現があります。 苦手な方はご注意ください。 偶に寝ぼけて2話同じ時間帯に投稿してる時があります。 その時は寝惚けてるんだと思って生暖かく見守ってください…

婚約者から婚約破棄のお話がありました。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「……私との婚約を破棄されたいと? 急なお話ですわね」女主人公視点の語り口で話は進みます。*世界観や設定はふわっとしてます。*何番煎じ、よくあるざまぁ話で、書きたいとこだけ書きました。*カクヨム様にも投稿しています。*前編と後編で完結。

竜王妃は家出中につき

ゴルゴンゾーラ安井
BL
竜人の国、アルディオンの王ジークハルトの后リディエールは、か弱い人族として生まれながら王の唯一の番として150年竜王妃としての努めを果たしてきた。 2人の息子も王子として立派に育てたし、娘も3人嫁がせた。 これからは夫婦水入らずの生活も視野に隠居を考えていたリディエールだったが、ジークハルトに浮気疑惑が持ち上がる。 帰れる実家は既にない。 ならば、選択肢は一つ。 家出させていただきます! 元冒険者のリディが王宮を飛び出して好き勝手大暴れします。 本編完結しました。

私を捨ててまで王子が妃にしたかった平民女は…彼の理想とは、全然違っていたようです。

coco
恋愛
私が居ながら、平民の女と恋に落ちた王子。 王子は私に一方的に婚約破棄を告げ、彼女を城に迎え入れてしまい…?

さようなら、私の王子様

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
「ビアンカ・アデライド、お前との婚約を破棄する!」 王太子リチャードの言葉に対し、侯爵令嬢ビアンカが抱いたのは怒りでも哀しみでもなく、「ついにこの時が来たか」という感慨だった。ビアンカにしてみれば、いずれこうなることは避けられない運命だったから。 これは二度の婚約破棄を経験した令嬢が、真実の愛を見つけるまでのお話。

婚約破棄をしたいので悪役令息になります

久乃り
BL
ほげほげと明るいところに出てきたら、なんと前世の記憶を持ったまま生まれ変わっていた。超絶美人のママのおっぱいを飲めるなんて幸せでしかありません。なんて思っていたら、なんとママは男! なんとこの世界、男女比が恐ろしく歪、圧倒的女性不足だった。貴族は魔道具を使って男同士で結婚して子を成すのが当たり前と聞かされて絶望。更に入学前のママ友会で友だちを作ろうとしたら何故だか年上の男の婚約者が出来ました。 そしてなんと、中等部に上がるとここが乙女ゲームの世界だと知ってしまう。それならこの歪な男女比も納得。主人公ちゃんに攻略されて?婚約破棄されてみせる!と頑張るセレスティンは主人公ちゃんより美人なのであった。 注意:作者的にR15と思う箇所には※をつけています。

(完結)姉と浮気する王太子様ー1回、私が死んでみせましょう

青空一夏
恋愛
姉と浮気する旦那様、私、ちょっと死んでみます。 これブラックコメディです。 ゆるふわ設定。 最初だけ悲しい→結末はほんわか 画像はPixabayからの フリー画像を使用させていただいています。

処理中です...