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21.拾い子2~初めての街での“買い物”?~
しおりを挟む「いい加減にしろっ!大人しくしねぇとまた痛い目に遭わすぞ」
でっぷりと太った男は怒りに顔を赤くさせ、鞭を見せつけるようにして足下の子どもに声をかける。バシンッ、という鞭の音に、子どもはびくりと身体を震わせた。
俺の背後に回り込んでしまい、そこから動こうとしない。見たところ、八歳くらいだろうか、子どもは必死に俺にしがみついている。
「ホラッ、来いっ!!」
「っ、はなせっ!!」
大人は俺や周りを気にした様子もなく子どもの肩を思いきり掴むと、服が千切れるのではないかというくらいに引っ張った。まだ高い声が必死に拒絶を示すが、大人の力に逆らえずにずりずりと引きずられていく。
俺は咄嗟の出来事に、ただ固まって見ていることしかできなかった。二人がどんな関係なのかは、なんとなく理解できる。
男の態度と持ち物、そして少年の様子を見るにおそらく二人は奴隷商人と商品の奴隷、といったところだろう。男の子の足首には鉄の輪っかと、細い鎖が付けられているからだ。それに、破れた服の間から見える素肌には、無数の傷跡が刻まれていた。
「黙れっ!この、不細工がっっ!!」
男が少年の細い腕を掴んで、鞭を持った手を振り上げる。少年は目を瞑り、自分を庇うように掴まれていない方の手を前に出した。
鞭が撓り、少年の方に向かって飛んでいく。切っ先が少年に当たるという瞬間、俺の身体が自然と前に出た。
「い゛っ゛っ゛!!」
翳した手の平に、鞭が何重にもなって巻き付く。衝撃の後に、信じられないほどの痛みが襲ってきた。だが格好をつけて叫び声を上げないように唇を強く噛む。フェリスさんで鞭に慣れといてよかったー・・・じゃないわっ!
後から襲ってきた衝撃がクッソ痛い!!何これ、手が再起不能になってそうだ。
「アンタっ、どういうつもりだ!?」
奴隷商のおっさんがいきなり前に立ち塞がった俺に驚きながらも、怒鳴ってきた。おいおい、まずは謝るか大丈夫か心配するだろ!?と思ったが、彼の表情にその色は皆無だ。
「邪魔すんじゃねぇっ!さっさと離しやがれっ」
「痛って!」
そういって鞭を引っ張られ、巻き付いていた鞭が手に食い込んだ。ムカつく。いってぇんだよ!と苛立ちの気持ちを込めて、俺は手を締め付けるものを乱暴に解くとぺいっと投げ捨てる。解放された手の平を見ると、何本もの真っ赤な線が横に走っていた。血は出ていないものの、内出血が酷い。
この子はこの痛みを何度も味わってきたのか・・・・・・。燃えるように手の平が熱い。しかしこの痛みも少年にとっては序の口なのかと思うと、目の前にいる男への怒りが沸いてきた。
こんな年端もいかない少年に対して腹の肉を揺らしながら怒鳴り散らし、自分の気分によってゴツい鞭を振りかざす。少年の顔は泥で塗れており、傷もあるが、整っていることがわかる。だから標的にされるのだろう。
俺はおっさんの手から少年を引き剥がすと、彼を背に隠した。おっさんが魚介類みたいなぎょろっとした目で俺のことを睨んでくる。
「折角買い手が付いたんだ、早くそいつを渡しやがれっ。それとも何だ、お前がそいつを買うっていうのか?」
大声に身体が弾みそうになるが、少年を不安にさせないよう我慢する。人と普通にコミュニケーションを取ることすら苦手なのに、人前でこれだけ怒鳴られるとか地獄じゃ・・・・・・。
にやりと嫌な笑みを向けてくるおっさんにそろそろキレそうである。
「買う。俺がこの子を買う」
睨みながらはっきりと述べると、ローブを掴む手の力が一瞬抜ける。正直『買う』などという言葉を使いたくはない。言葉を発した後、罪悪感が襲ってきた。男がまたしてもにやりと意味ありげに笑い、口臭がすごそうな口を開いた。中から見えるのは真っ黄色な歯で、近くにいたら鼻を摘まみたくなるような匂いがしそうである。
「金貨一枚。そいつの値段だ。どうだ?それでも――
「ほい」
「っ!?」
男が値段を告げた直後、巾着から取り出した金貨を指で弾く。ピンッと音を立てて俺の手から飛んでいった金貨を、男は反射でキャッチし、自分の手の中にあるものを確認すると驚愕の表情になった。
それまでざわざわと騒がしかった周りも、その瞬間水を打ったように静まり返った。
まだいるかこんにゃろ。人一人が、しかもこんな超絶美少年が金貨一枚とかふざけんな!と思いながらもう一枚掴もうと手を巾着の中に入れながら男を見下ろす。
俺よりも背の低い男は(この世界の人は大抵俺よりも背が低い)、唖然とした顔で俺のことを見上げたかと思うと、ごくり、とすごい音を立てて唾を飲み込んだ。
そして俺が巾着から手を抜こうとした瞬間、おっさんがずぼぉっ!と俺の両手を掴んできて、無理やりぎゅっと握られる。
うおっ!?とびっくりしておっさんを見ると、さっき怒鳴ってた人と同一人物には見えないほど、ふにゃりと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「いやぁ~旦那ぁ、買われるならそうと仰ってくださいよぉ。失礼な態度をとってしまい、申し訳ありません~」
さっきの格下を見るような態度を知っているだけに、彼の猫撫で声は鳥肌モノであった。ヤッバイ、正直気持ち悪いっっ!差がっ、エグいよぉ!!
「ではでは旦那様、ここにサインを・・・・・・」
「は、はぁ・・・」
渡された羊皮紙の下の方に名前を書くと、それを確認もせずにくるくると巻いてしまい、男はにこにことしながらも猛スピードで来た方向へと姿を消していったのだった。
あまりの速さに今度はこちらが唖然としてしまう。サイン、普通に平仮名だったけど大丈夫かな?と心配になったが、確認しなかったのはあちらなので気にしないことにした。手元に残された控えのような薄い紙一枚を小さく折りたたんで巾着へとしまう。
うん。嵐のようなおっさんだったな。
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