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17.アリス編:アリス視点
しおりを挟む私はインザムーン領の領主で、侯爵家の端くれに名を刻む者である。この容姿のせいか昔から冷遇され、適齢期を濾しても相手はおらず、厄介払いと称してこの痩せた土地を相続した。ここは昔から育つものは決まっていて、細々と経営できている状態であった。
貧しい領民は私が領主に決まった時から私のことを嫌っており、領の様子を見に行く時は遠巻きに罵倒を浴びせられた。街へ行っても厄介者扱いで、皆自分の悪口で一致団結をしている。
領民の心が一つであれば、それほど良いことはない。それが自分を嫌うという共通の絆であったとしても。
私は昔から浴びせられる冷遇に、『これは快感、これは快感』と思うようにした。幸いにも今では人々の冷たい視線を浴びるとぞくぞくと快感を感じ、達してしまうまでに性癖がこじれていたが、それも思い込みの成果と言えよう。こんな性癖になってから、毎日人から罵られたり邪険にされることが快感になって仕方なかった。
唾を飛ばされるのも最高。不細工という言葉はご褒美。暴力はご馳走。最高の日々だった。ただ、領主になってからはあからさまな暴言や暴力はなくなったが。
噂を聞くようになったのは、つい最近のことだった。隣のリリアム領にあるという、『desire』という名の風俗店。そこに王都の男娼も真っ青な美しい男がキャストとして入ったらしい。入ったのはかなり前で、すでに何人もの客が彼の虜になっているのだとか。
それは醜い上位貴族内で月に一度行われる、所謂“醜会”と呼ばれた茶会(情報交換会)で話題に上がったのだった。その店の名は、年若き国王の口から発せられた。彼の顔は正真正銘、醜い。だが世間では、元は整っており、幼少期に王弟派の者たちによる放火で顔に大火傷を負い、そのため仮面を付けているということになっている。仮面は重く、王はいつ何時もそれを外さず生活をなされている。そんな彼が職務に疲れ、変装して風俗街へ赴いたところ、偶然入ったのが『desire』だったという。そこには信じられないくらい美形なホストがいたのだという。都市リリアムの一部には醜い者だけが生活する場所があり、その様な者だけのための風俗店が建ち並ぶ。だからこそ、醜い者にとってそこは楽園のような場所であった。勿論迎え入れるホスト側も醜い容姿の者であるが、彼らは自分を温かく受け入れて貰える場所を求めているのだ。
そんなところにいるはずもない美丈夫が、その店にいたのだという。しかも自分を醜い者だと知りつつ、その様なことを思わせないほどの接待をしてくれるのだとか。どこから正体がバレるともわからない身分であるため、当然王は己の身分を明かさなかった。しかし偽りなく話をしてくれるそのホストに対し嘘をついていることに後ろめたさを感じていた王が、どうしようかと乙女が悩んでいるかのようにふと零してきたのだ。
それを聞いた時、そんなホストがいるのかと単純に驚いた。貴族といっても末端なため、私は隅の方で静かに紅茶を飲みながら、耳だけをそちらへ向けていた。
すると王の溜息を聞いた双子の侯爵令息――サーヴァル様とマーヴル様――がその話に意外な返しをしたのだ。どうやらお二人はその店の常連で、さらに王が恋煩いをされているキャストの客だという。危うくキャットファイトが勃発する直前に会が解散になったのだが、彼らの話を聞いて自分もそのホストに興味を持ったのだった。
実際に彼に会ってみると、なるほど王やあれほど心根の曲がっていた兄弟の心を奪っただけのことがある、と関心した。その美貌も夢のようであるし、そんな彼が自分を見下した目で見ることなく、きちんと目を合わせて話そうとしてくれることもまた信じられることではなかった。要するに、何もかもが規格外だったのだ。
そんな彼の前で、私は失態を犯してしまった。そして失態を犯したという状況に興奮し達してしまい、さらなる失態を重ねてしまったのである。
こうなればいくら容姿を許容したとて、この性癖で嫌われてしまう、と思った。そして思った通り冷たい目で見下ろされ、その綺麗な顔も相まってイケナイのに快感を感じてしまう。だが彼を見上げると、彼の瞳にも自分と同じ、欲望の色が見えた。
彼とのセックスは最高だった。まず最初のフェラでは容赦なく頭を押しつけられ、喉奥をたくさん犯してもらった。それから、準備していったアヌスも。
私の性癖に合わせてくれたのか、彼の言動や動作は荒々しかった。でも、その中でも優しさがあった。行為に愛があった。だから、嬉しかった。
行為が終わった後、彼は汚いであろう私の身体を抱いてベッドの上へと上げてくれた。情事が終わり、私は何故か独りでに自分のことを話し始めた。どうしてこんなことを言いだしたのか、自分でも理解ができない。でも、聞いて欲しかったのだ。
私の話を聞いた彼は、私の自虐的な言葉に同調することなく、ただぎゅうとキツく抱きしめてくれた。それは快感を得るものでなく、ただただ心がほぅっとするものだった。
どうしてだろう。キツい言葉で興奮するはずなのに。向けられる非難や罵倒で感じるはずなのに。彼からの優しい抱擁が、心の奥まで染みたのだ。どうしてだろう。Mである私が。どうしてこんなことで、安らぎを感じるのだろうか。なんとなくわかりながらも、私は静かに彼の腕の中で涙を流し、気づかないうちに寝入ってしまった。
朝、目覚めると目の前にはナナミさんがいて、なんと私は彼の腕枕で寝ていたと言うことがわかった。慌てて謝る私を猫かわいがりし、癖の付いた汚い髪質の髪を優しく優しく撫でてくれる。
もうMの私に戻れなさそうで、私は彼の顔を見ることができなかった。
照れていた私に、彼が言った。
「ふふっ、アリスさんって、うさぎみたい」
「へっ!?うさぎ、ですか・・・・・・?」
うさぎとは、小さくて白い、貴族の中でも人気な愛玩動物のことである。可愛らしいとされるその動物と私に、一体どのような共通点があるというのだろうか。気になって聞いてみると、彼は幸せそうに私の頬を撫でて言った。
「俺の故郷では、月の中にうさぎが住んでいるって言うんです。アリスさんの名前、“インザムーン”でしょう?だから、アリスさんはうさぎです」
「え、そ、そうかなぁ・・・・・・?」
嬉しいような、うずうずとした気持ちになる。
「それに、」
ナナミさんが、じぃっと見つめてきて思わず目を逸らしてしまう。
「うさぎって、年中発情期なんですよ?アリスさんみたいでしょ?」
『アリスさん、年中発情してる変態さんですもんね』。突然向けられた冷たい笑顔に、背筋がぞくりと快感を伝える。
「あっ・・・・・・♡」
朝一番、シーツの中で達してしまった悪い子に、またお仕置きをしてもらいたいと思ってしまったのだった。
――世の中には二種類のMがいる:アリス編
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