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しおりを挟む「っ!!リリーじゃないか!一体どうしたんだ!?」
木の陰になっていて見えていなかったようで、足音が近づいたと思ったら直後声を荒げて駆け寄ってきてくれた。制服まで濡れている俺の様子を見て、いつも冷静で冷え切っているその瞳の中に炎が灯るのを見た。
「フラウ、貴様っ!!それにお前もっ!!」
ギムリィが地の底から聞こえてくるような怖い声で空のカップを持っているフラウに怒り、その隣にいるセイにも厳しい目を向けて怒声を上げる。
だがセイはリリーにかかった紅茶を拭ってくれていただけで悪くないことはわかっているので、二人から自分を護るように抱きしめてくれている兄の袖を引っ張ると、彼らに向けられていた目を自分に向けてくれる。向けられる目はいつもの優しい兄のもので、リリーは心で安心しセイを指差してから首を小さく横に振った。
「何?こいつもお前のことを虐めたのだろう?違うのか?」
コクンと頷く。
ギムリィははぁーっと溜息をついてから再び彼らに視線を向け、セイに向かって口を開いた。
「お前はいい。リリーが違うと言うのでな。だがフラウ、お前は許さない」
「ハッ!どうすってんだよ」
バチバチと二人の間に火花が散り、一触即発という状況。もういいよと立ち上がって兄を止めようとした時、二人の間に人が飛び込んできた。
「やめてっ!ギムリィ様、私の兄が悪いのです。リリー様に紅茶を・・・・・・でも、でもどうかお許し下さい!!」
「リーゼ!!」
割って入ってきたのはフラウリーゼだった。後からアランも走ってきてこちらの様子を窺う。
「リリー・・・・・・」
リリーも兄の腕を掴んで首を振る。言葉には出せないが、目でもうやめてと訴える。
それに対し諦めるように息を吐くと、ギムリィは『わかったよ』と優しく耳元で囁き、愛する弟の手を取ってあちらに向き直った。
「貴様の妹に免じて今日は見逃してやる。だが次はないと思え、フラウ=ブロッサム」
『さぁ早く制服を乾かして身体を温めよう』と言って、兄が自分のジャケットを掛けてくれる。兄の制服も濡れてしまうと目で訴え脱ごうとするがそれを目で制され、さらに温めるように背中に手を回して摩られた。その手が優しくて、あったかくて、思わず涙をこぼしてしまった。
実はずっと怖かったのだ。悲しかったのだ。お気に入りの本を濡らされて、身体も心も寒くて、誰も味方はいなくて・・・・・・本当に、兄が来てくれて良かった。
「ありあと・・・・・・」
リリーは素直になるのが恥ずかしいながらも、優しく包んでくれる兄の胸元に顔を預け、そう言った。ふふっと微笑んだ兄だったが、次の瞬間真顔になり『アランめ、あの役立たずが・・・・・・。マジで消すぞ』と言ったその声が冷たすぎてぴぇっとなった。
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