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8.光樹の実

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 ローシュ様には、セイラ様の婚約者・・・としてではなくても僕の存在を認めてもらった気がする。
 その自信を持ち、僕は今日も喉かな午後を過ごしていた。

 ローシュ様が池から取り返し綺麗にしてくれたペンダントを胸に取り戻し、ご機嫌な僕は食後にミミさんやメメさんと話す時もふにゃふにゃと笑ってしまったのだが、気持ち悪いなと思われたかもしれない。僕は周りに花を飛ばすほど、こないだの出来事が嬉しかったのだ。
 胸に手を当てるとそこがぽかぽかと温かい。
 ふふ、と独り言のように笑い、僕はまた食後の散歩に出かけたのだった。


「うわぁ~~!」

 今日は、いつも行っている庭園とは別の場所にある庭園に来た。ここに来た最初の日にメイドルさんに連れられて色々なところを紹介されたが、その時には気づかなかった多様な花々に目を輝かせる。
 なんだか、前世でいうたんぽぽの綿毛・・・みたいな、黄緑色の茎の上にぽわんっとした綿の塊が乗った植物がたくさん生えていた!それが本当に見事で、時折強い風が吹くとほわほわと綿毛が中に飛んでいく。まるで雲の絨毯に乗っているみたいな、そんなわくわくした気持ちになった。
 セイラ様はこの景色を見たことがあるのかな、見せたいな・・・と思ったが、外出をしなくなる前までは屋敷内も自由に歩いていたらしいから、きっと見たことがあるだろうと思う。

 そうだ!今日はこの綿みたいな植物をお土産にしよう!そう思い、メイドルさんが見守る中、僕は広い雲の上を走り回って綿とそれ以外にも薄紫の綺麗で小さな花を摘んだ。


 うわぁ・・・いい感じ!
 手元には、採取した綿毛と色とりどりの花。ちょっとした花束だ。
 庭園は、庭師の人が管理をしている部分と自然のままにしている部分とがあり、僕はちゃんと自然のところから取っているから大丈夫。
 手の中にできた小さな花束を眺め、よし今日も行こう!とセイラ様の部屋に向かった。


「あれ・・・・・・?ローシュ、さま・・・・・・?」

「ん、コレ」

 もう慣れた道を歩きセイラ様の部屋までもう少し・・・というところで、向こう側からローシュ様が歩いてきた。どうしたのだろうと声をかけると、こないだペンダントを渡してくれたときのように、僕の方に手を差し出して催促してくる。
 なんだろうと思ってローシュ様の差し出す手のしたに手を伸ばすと、手の平にころんと綺麗な玉・・・のようなものが数個落ちてきた。それは黄色や緑など色鮮やかで、透き通っていてすごく綺麗。

「なんですか、これは!?すっごくきれいです!!」

「これはお前にじゃねぇからな!これは姉上に、だ。俺はこれから授業があるから、お前が渡しとけ!!次からはじっ、自分で行くけど・・・・・・」

 興奮してローシュ様に詰め寄ると彼は顔を赤くさせ思いきり仰け反り、怒鳴るように大声でそう言って、赤い顔をしたまま急いでその場から行ってしまった。ローシュ様の付き人――確かスイさん――が苦笑いを向けてきた後、慌てて後を追って行った。
 キツく言われたことと、少し期待したのに僕へのものじゃなかったことに、少ししょぼんと落ち込む。でも、彼がセイラ様に対して“お土産”を届けようと思ってくれたのが嬉しくて、心が温かくなった。
 セイラ様に歩み寄ろうと思ってくれたという変化が、それにセイラ様に渡したいものを僕に託してくれたのが、僕がローシュ様に認めてもらえたんだと思えたから。

「これ、なんだろう・・・きれいだな・・・」

  改めて、手のひらにころんと転がる透き通った色の玉を眺める。色々な色をしている玉は、太陽の光を通して手のひらをカラフルにしていた。本当に、綺麗だ。

「それは、南の庭園に生えている光樹の実でございます」

  なんだろう、なんだろう、と考えていると、後ろに控えていたメイドルさんがさりげなく教えてくれた。
 へぇ~、南の庭園か。行ったことないな・・・・・・よし、明日行ってみよう!

 新たなわくわくをゲットし、僕は自分で取ってきた綿毛と花の花束と、ローシュ様に渡された綺麗な光樹の実をセイラ様の部屋に持って行くことにした。
 『これ、ローシュ様からです』と言ってハナさんに手渡すと、すごく意外な顔をしてマジマジと手の中を眺めていた。でもその後に口の端を少しだけ上げたので、きっとセイラ様にローシュ様のことを報告するはずだ。セイラ様も喜ぶだろうな~。

 さて、あと数十分で歴史の先生が来る。今日も勉強を頑張って、ミミさんとメメさんたちの作る、美味しい晩ご飯を食べようっと。

 ********

 う、うわぁああ~~・・・・・・!!
 すごく、綺麗・・・・・・。

 今、目の前には僕の身長の何倍もある高くて大っきな木。上から降ってくる日光を全身で浴びて、葉っぱが伸び伸びと元気に手を伸ばしているのがわかる。透き通るような黄緑色は爽やかで、風に揺られてちらちらと踊る度にそこから漏れてくる日光が地面をキラキラと光らせる。まるで天界に生えている木みたいだ。その大量な葉っぱの中には所々に金柑くらいの小ぶりな実がなっていて、それぞれが金や黄緑、青、水色、ピンクなど様々な色彩を持っている。それら一つ一つ光を浴びていて、宝物が鏤められているようで幻想的だし、実が光を通すことで地面がステンドグラスみたいになっている。下にも落ちた実がいっぱいあり、南の庭園はとてもファンタジックなところだと思った。

 すごいすごいすごーい!そこら中に宝物が落ちている。そのどれもが微妙に色が違っていて、一つとして同じ色のものはない。どうしてこんなにカラフルな実なんだろうと疑問に思ってメイドルさんに訪ねると、どうやらこの光樹という木はとても特殊で、他の木に比べて日光を吸収する力が特に強いのだという。そしてそれぞれの色を運ぶ葉脈が内部にあり、吸収した光を色分けして体内に取り込むのだとか。温かい陽気に実を付けるが、その実は色んな偶然でできる色というのが特徴で、非常に貴重な木なのらしい。この世界に数本という・・・・・・恐るべしメイゼン家。


 あっ、あそこにあるの、薄いピンク色でかわいい・・・セイラ様、喜ぶかな?あ、あれは海の色みたいできれいだ。これも持っていこう!
 僕も欲しいな・・・。このオレンジ色とか赤とか青が複雑に混ざり合っている色・・・夕焼けみたいですっごく良い感じ。これも、一面に黄緑色だけど所々にピンクがあって、まるで葉桜になりかけている桜みたいだ。あ~・・・、僕のを探してたけど全部セイラ様に持っていきたくなっちゃった。すごいなぁ、光樹の木。神秘的な木。

 夢中になって転げ回っていると、近くにさわりと草を踏む音が聞こえ、そこには僕ぐらいの小さな足が見える。バッと顔を上げて僕は笑顔を作った。

「ローシュ様!ローシュ様も来られたんですね!!昨日はこんな素敵な場所を教えてくれて、ありがとうございました」

「お、おぉ。別に俺が教えたわけじゃないけどな・・・・・・。てかお前、まさかそれ全部姉上のとこに持っていくつもりじゃねぇだろうな?」

「えっ、全部持っていくつもりですけど・・・・・・」

「馬鹿、多すぎだ」

 ローシュ様が指を指したのは、僕の腰にあるポシェット。いつも散歩の時に気に入ったものを入れるために持っていくものだ。
 そこいっぱいに入っている光樹の実。外からでもわかるポシェットの膨らみに僕が頷くと、ローシュ様ははぁーと大きな溜息をついて呆れたような視線を向けてきた。
 ローシュ様の顔を見ていたら僕はあることを思い出し、ポシェットの中を探り始める。そして目的のものを見つけると、ズボリッと中から手を出しローシュ様に向かって突き出した。

「ローシュ様、ハイ!これ、ローシュ様に」

「おれ、に・・・・・・?」

 俺がいきなり手を着きだしたものだから驚いた様に身体を引いていたローシュ様だが、僕の手の中のものを見るとおずおずとそれを受け取ってくれた。それは先ほど自分用に見つけた実で、全体的にエメラルドグリーンが広がっていて、その中に星空のようにキラキラと銀色が光っているように見えるものである。

「それ、ローシュ様の目の色みたいですっごくきれいだなって思って!!だからローシュ様に」

「は・・・、え、と・・・・・・・・・・・・ありがと・・・・・・」

 ポカンとした顔で僕の顔を見つめていたけど、しばらく後に耳を真っ赤にさせた後、小さく小さくお礼を言われた。真っ白な肌が真っ赤に染まり、それが美しい銀の髪とエメラルドグリーンの瞳に生えて、見ている僕も顔が熱くなってくる。

 光樹の実も綺麗だけど、ローシュ様自身もきれいだな・・・・・・。そう思ったことを思わず口に出してしまっていたようで、いよいよ顔まで赤に染めたローシュ様が脱兎の如く走って逃げて言ってしまったのを見て、僕は急いで自分の口を塞いだ。気持ち悪がられたかもしれない!僕の馬鹿馬鹿!!
 付き人のスイさんが、『うわ~無自覚って・・・こわっ』とか言っていたけど、意味がよくわからなかった。

「うっ・・・どうしよう・・・・・・。きらわれちゃった、かなぁ・・・・・・」

 やってしまった失態に、しょんぼりと肩を落して呟く。あの、何を言い出すんだ!?という表情。そしてその直後に走り出したローシュ様の小さくなる後ろ姿。これは完全に、嫌われたよ・・・。

「大丈夫でございますよ。ローシュ様、受け取られたではありませんか」

 ずぅぅん・・・と下を向いていると、後ろから優しい声がかけられる。メイドルさんが話す時は、いつも感情がないかのように抑揚のない声だが、今はなんとなく柔らかく温度が感じられる様な声色だった。
 言われたことを考えると、確かに僕が渡したものは受け取ってくれた。それについては、拒否されたわけではなさそうだ。よ、よかったぁ~~。

 一気に気分が急上昇した僕は、またまたそうだ!と思い立ち、ガサゴソとポシェットの中を漁りだした。そして目当てのものを手に取ると、後ろを振り返って僕の行動を注視しているメイドルさんに差し出す。

「・・・・・・?」

「あの、これ・・・・・・。この色、メイドルさんのきれいな髪の色と同じの、やつです・・・・・・。励ましてくれて、ありがとうございます。それにっ、いつも、僕の側にいてくれてありがとうございます」

 なんか緊張しすぎて文法がめちゃくちゃになってしまった。それに、何かと渡す理由を言った方がいいと思って日頃の感謝とか述べてみたんだけど・・・・・・、すっごく恥ずかしい!!だめ!メイドルさんの顔が見れない!
 勇気を出して告白している男子さながら、僕は鶯色をした綺麗な実を持つ手をメイドルさんに掲げた。

 次の瞬間、頭上から『ン゛グッ!!!』という不穏な声が聞こえ急いで顔を上げたが、そこにはいつも通り無表情のメイドルさんの顔が。

「有り難く、いただきます」

 メイドルさんが、優しい手つきで僕の手の平から光樹の実を受け取ってくれる。
 とても嬉しくて、僕は思わず破顔してしまった。口角が上がるのをものすごく感じる。

 ポシェットの中には、ミミさんのイメージの色をしたものと、メメさんの分もある。
 それぞれにお土産を渡した時、同じように二人の口から『ン゛グッ!!!』という声が聞こえたような気がしたのは、晩ご飯の際のお話。
 


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