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「で?なんで『研治』とか嘘吐いたの?」
「そ、それは・・・・・・」
家に帰り一先ずテーブルに着いた。そして『よかった』と穏やかになりかけた空気を壊すようにテーブルを叩き、鈴音は二人に切り出した。
「俺が研にそうしてくれって頼んだんだ」
はい、と言って手を上げた裕が、言いにくそうに話し出す。どうやら、面食いの自分が研の素顔を見たら秒で惚れるから、それを阻止しようと他人のふりをしろと言ったらしい。
『裕兄ちゃん、策士だ・・・・・・』
実に巧妙に言い当てられている。今まで散々コケ脅してきたが、研が実はイケメンだったと知ったらきっと今までの態度を180度変えるだろう。
「研治さんのこと好きって言ってたのに、ずっと黙ってるなんて、裕兄ちゃんひどいっ!」
「ごめん・・・・・・」
「で?二人は、恋人同士なわけ?」
「「え!?どうして・・・・・・?」」
二人が声を揃えて驚愕を示す。鈴音は呆れの溜息を零すと半目状態で二人を見た。
「どうしてもなにも、見てればわかるよ。あーあ、気のせいかと思ってたけどやっぱそうなんだね。やっぱね。だって研、『研治』のときとか裕兄ちゃんのことずっっと見てたし、もろバレだし!!」
「そんなことっ」
照れるビン底眼鏡を叩きたい衝動に駆られる。それに一緒に照れる裕にも鈴音は頬を膨らませた。こんのリア充!!
「でもなんで研は僕とのやり取りを裕兄ちゃんに黙ってたのさ!」
「そっれは」
「本当だよね。何か裏切られた気分だった」
今度は裕も鈴音サイドで、二人で縮こまる研を見下ろす。二人の威圧感に、研は渋々といった風に理由を語り出した。
「ハアッ!?顔が醜いからぁ!!?」
研がしゅんとしながら語り出した理由は、目の良くない素顔のまま外に出ることで裕に余計な心配をかけたくなかったというものだった。どうしてそんな思考回路になっているのか、さっぱりわからない。検討もつかない。
「ねぇ裕兄、これ、本気で言ってるの?」
「ああ、そうなんだ・・・・・・」
小声で裕に聞いてみると、疲れた顔で小さく頷く。
『なにそれ、しんっじらんない!!!』
恐ろしいほどに顔が整っているというのに、本人は本気で自分が醜いと思い込んでいるらしい。
いくら視力が悪く自分の顔が見えないからといって、眼鏡をすれば見えるやんか!と思ったが、いつもビン底眼鏡をかけている研は、周りの様子は見えても自分の顔は今一わからないときた。思わず『なんてこったい!』と叫びそうになってしまう。
本当に、恐ろしいくらいの自己肯定感の低さといえる。だが研を独り占めしたい裕にしたら、好都合なのらしいが。
まぁ、それは頷けなくもない。と鈴音は思った。自分だけが知っているというのは、確かな優越感を得られる。
「兄さん、隠しててごめんなさい。鈴音も、ずっと欺しててごめん」
眉を垂れさせた研が、正座の姿勢から頭を深く下げた。
今の研は眼鏡も前髪もなく、いわば『研治』となっている。極上のイケメンが子犬のような目をして謝ってくるのに、裕と二人してドキュン!!とダメージを受けた。
「・・・いいよ。、まぁでも、僕が『研』を好きってことは、変わらないからねっ!」
「「鈴/鈴音っ!!?」」
ペロッと舌を出した僕に、裕の悲鳴と研の叫びが重なる。
「そう言われても、俺、兄さんのことが好きだから・・・・・・」
「知ってるし」
知っている。そんなことは知っている。二人の間に隙間なんかないことは百も承知だ。だが、諦める気は到底なかった。
正直今まで研には粗雑な態度を取ってきた。ダサい、どうでもよい存在だと思っていたのだ。
だが、180度変えられる。
イケメンを前にした鈴音には、もはやプライドなどなかった。これからいくらでも猫をかぶれる。むしろ、今まで乱雑にものを言い合っていた仲であることが、関係の発展へと繋がる予感がしてきた。
青い顔をしている兄弟を前に、鈴音はふふんと自信満々にこう述べた。
「でも好きだもん!!」
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