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ピコンッ
「おっと、なんだ?――」
出された課題をこなしていると、横に置いてある携帯電話が震える。中を開くとそこには泣いている羊のイラストと、『うぇぇん、助けて!!これわかんない!!』という文章、そしてその後には問題集だろうか、写真が送られてきていた。
何でも解答を見ても意味がわからないのだとか。見ると、記されている解答の式が一部省かれていた。
ペンを置いて、口元で小さく笑いながら両手で携帯を持ち直し、返信を打ち始める。確かに、この解答だと少しわかりにくいかもな、と経験を踏まえながらうっすらとヒントを出して答えると、しばらく後に返事が来た。
『ありがてう!!研治さん、僕の家庭教師nなって!』
「ふふっ、字、間違えてるし。急ぎすぎ」
急いで返信したのがバレバレな、可愛らしい文面に思わず笑ってしまった。
「どういたしまして。また何かあったら聞いてね――っと」
にやける口元をそのままに、研は返事を送って自分の勉強に向き直った。
ピコンッ、ピコンッ
課題の答え合わせをしていると、携帯が振動し独特の音を出す。丸を付け終わった後に画面を開いてみると、鈴音からのメールが届いていた。
『こないだ言ってた苦手な問題、できたよ!』という文章と共に、にこにこ笑顔の花丸が書かれた問題集の写真。
以前教えたのと同じ系統のもので、苦手だと零していた問題だったが、回答も完璧で見事に克服していた。
『おお!頑張ったな。えらい!』。自分は補習の課題をやっている身分だというのに、一体どこから目線だと問いたくなるような返事を返し、慣れないスタンプを送る。
するとすぐに鈴音からの返事が来た。
こんな風に、ここ数日鈴音とメールのやり取りは頻繁になっている。最初は勉強についてのやり取りだったが、次第に受験に対する相談や、日常のちょっとしたことまでやり取りするようになった。
時には『今日の寝癖、すっごいんだけど!』というコメントと共に鳥の巣状態となった頭の写真が送られ、またある時には『この雲、ポップコーンみたい』という気まぐれな文章が送られたりする。
もしゃもしゃの寝癖頭に笑わかされたり、椅子から立ち上がって窓の外を覗き、雲の形を確かめてみたりと、彼とのやり取りは忙しい。
同じ屋根の下で生活しているため、日常の中で起きた出来事は共有しているし把握もしている。だからメールで報告してくることもすでに知っていることが多いのだが、研治とのメールでは研の知らない鈴音の視点が伝わってくる。それが新鮮で、彼のことを知れることに嬉しさも感じられる。
確かにメールのやり取りは忙しいのだが、その度に何かとほっこりさせられ、心が温められるのだ。
こんな感覚は初めてで、『弟がいたら、こんな感じなのだろうか』と思う。
何もしていないのに尊敬の籠ったきらきらした目で見られ、こそばゆくなる。年は違うが友達よりも近い距離で、どちらかというと家族に近い。気安く話せ、冗談も言い合える。弱音を吐いて助けを求めてくるし、たわいのないことも、ちょっとした嬉しい出来事も報告してくる。
そんな、近い距離で接する存在との交流は裕以外とは初めてで、とても奇妙で新鮮な気持ちになってくるのにどこか心は温かいのだ。
本当の兄弟とは異なる、義理の兄弟。裕にとっての自分も、もしかしたらこんな感じなのかもしれない。
だが、自分と裕とは兄弟とは違った関係だ。兄弟を超えた関係。甘い、そして時には苦い関係。
裕とそんな関係であることを自覚すると、今更ながら照れてきた。
にやけるのを我慢するために歪んだ表情のまま、返信の終わった携帯電話を机の端に置き、研は再び赤ペンを手に取った。
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