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「わ~、コレも似合う!!あ、コレも掛けてみて!コレも!!」
次から次へと渡される眼鏡。大きな円形のフレームのものに四角く細いタイプのもの、角の丸いやつになんかちょっとアレなやつ・・・・・・と、渡されるままにそれをつけていくと、隣で鈴音がきゃっきゃとはしゃぐ。その様子がなんとなく心地よく思われるが、どれだけ鏡に近づいても度が入っていないため実際似合っているのか判断できない。
それに、鈴音が大声で叫び大量の見本を運んでくるものだから、店にいる人がこちらを見ているような気がしていた。
確かに、視力が悪いのに眼鏡もかけず一緒に映画を行くなど気分を害してしまったのは間違いない。それについては本当に申し訳ないのだが、注目されているこの状況からはいち早く脱したかった。
「いや、眼鏡はいいよ・・・・・・」
楽しそうにエンドレスに眼鏡を手渡してくる鈴音に、今手渡された眼鏡を押し返すと、わかりやすく機嫌を悪化させる。
「・・・、眼鏡を掛けていると、すぐ頭痛くなってきちゃうからさ」
これは本当なのだ。小学校の低学年から眼鏡をかけているが、今でも長時間かけているとこめかみ辺りが痛み、酷いときなどは頭痛も起こってくる。だから極力家では外しているのだが、やはり階段などは見えないと危ないし色々と不便だ。それにかけていると鼻も痛い。おそらくレンズの厚みがありその分重量も重くなっているのだろう。数ミリずつ鼻の高さが低くなっていっている気がする。
「うう~~・・・・・・あ!じゃあコンタクト!!」
「えっ、コンタクト・・・・・・?」
「そ、コンタクト!」
思わず顔を顰めて聞き返すと、元気の良い頷きが返ってくる。
「いいよ!やっぱ店出よう!コンタクトは絶対に嫌だ」
コンタクトレンズは、こわい。
目に物体を、しかもレンズを入れるなんて、こわい以外のものではないと思う。
学校で特別親しくしている友はいないが、教室にいると騒いでいる生徒たちの話が聞こえてくる。彼らの声が大きいためよく聞こえてくるのだ。高校デビューに従いコンタクトデビューなんかをしている者もおり、彼の口からは研が恐怖を抱くようなものばかりが流れ出してくる。
それらの話を聞き、研は一生眼鏡のままでいると誓ったのだ。
「なんで?なんでコンタクトはダメなんですか?だって眼鏡と違って締め付けもないだろうし」
男が、しかも高校生にもなった男が『コンタクトレンズがこわい』だなんて、とてもじゃないが言えない。恥ずかしい。きっと恥辱で逃げたくなってしまう。
だが、鈴音には引き下がる様子がなく、このままだと店員に声をかけ相談をしかねない。そもそも、コンタクトレンズを購入するのはそれほど簡単ではないだろう。話が面倒くさくなりそうだ。
「だって、こ、」
研は再び、大人しく白状することにした。
「こ?」
「こわいんだもん・・・・・・」
沈黙が流れる。きっと内心で笑ってるのだろう。この年にもなって『こわい』だとか。
「だって、クラスの奴とか目の中で見失ったとか言ってたし、ずっと付けてたら取れなくなったとか聞いたし、そもそも、眼球に直接物質を入れるなんてっっ、こわすぎるだろっ!?」
わかってもらえなくてもよい。だが自分は自分でちゃんとこわい理由があるということを伝えなければ、と思った。恥ずかしい目に遭い、多少言い訳がましくなっているかもしれないが。
そんなことを思いながら必死に理由を述べていると、近くで研たちを見守っていた店員が近づいてきて優しくアドバイスをしてくれた。
だがそんなことでは絆されない。親切なアドバイスだと思うし、ゆくゆくは恐怖心を克服してコンタクトを使いこなしたいとは思うが、今はまだその勇気は皆無なのだ。
店員直々に対応してもらい、またこのまま映画館へも行けないと思い、研は観念して急遽眼鏡を購入することにした。
鈴音に選択してもらうことにし、傍らで店員の話を聞いていた鈴音にどれが良いか訪ねる。
鈴音が嬉しそうに選んだフレームを受け取り、親切な店員にそれを渡す。すると視力検査へと促され、研は苦い気持ちを抱えながらも足を向けた。
喫茶店でしばらく過ごした後に再び訪れると、早くもお願いした眼鏡ができあがっていた。あとは掛けてみての微調整らしい。
カウンターですぐやってもらい、カードなどを受け取って店を出る。
正直驚いた。今使っている眼鏡はかなり昔に親に買って貰ったもので、できるだけ目元を隠せるものをお願いしたら、度数も相まってあんなものになったのだ。レンズが分厚くそれに重い。そしてフレームも固く頭を締め付けた。
しかし今日購入した眼鏡は驚くほど軽かったのだ。フレームも簡単に曲がり、そして丈夫なのらしい。レンズも薄型で、見え方もすっきりしている。
だがその分、顔を隠すことはできていない。幸い鈴音は自分のことを醜いと思っていなさそうであることが唯一の救いだった。
人に素顔を見られるのが、こわい。皆に拒絶されていたときのことを思い出すからだ。人の目を逸らす顔。悲鳴を上げて走って行く姿。もう人と関わるのは嫌だった。顔を見て欲しくなかった。
「研治さん、その眼鏡、すっごく似合ってる!」
鮮明に見える鈴音の顔。そこに嫌悪感はなく、ひまわりのような笑顔が輝いていた。
心の芯の部分が、じわり、と温かくなった気がした。
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