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「先週の木曜の夜、俺、その・・・・・・アレをしてたんだけどさ」
「アレ・・・・・・?」
頭の中で本当のことを言おうかどうか逡巡したが、渋々白状することにした。さすがにあけすけには言えず、察してくれることを期待してぼやかしながら言うと、裕が純粋な目で『アレ』とは何かと問いかけてくる。
研は恥辱で消えてしまいたいと思った。恥ずかしくて堪らない。頭に熱が上り、顔の表面だけでなく内部までが熱い。恥ずかしい。どうしようもない恥ずかしさと、どうしてわかってくれないんだ!という苛立ちとがぐるぐると混ざり合って混乱する。だが最終的な責任は自分に帰結してしまい、研は口に出したくない恥ずかしい言葉を口にした。
「アレは・・・・・・その・・・・・・、お、オナニー・・・・・・」
そもそも、口に出したくないほど恥ずかしい行為を、人前でしてしまったかもしれない自分が悪いのだ。
「あ・・・・・・ごめん!その、わからなくて・・・・・・」
逃げたい気持ちに駆られながらも、太股に乗せている拳を強く握り自分が犯してしまった罪を懺悔するように裕に話す。
不思議なことに、恥ずかしくて逃げたいくらいだった気持ちが、疑惑を口にした瞬間スッと軽くなった気がした。今まで一人で悶々と悩んでいたが、やはり自分の外に出したからだろうか。気が楽になった心地がしたのだ。どんなときも優しく話を聞いてくれる裕に、救われた。
だが、自分が鈴音の態度を変にさせてしまった事実は変わらない。それについて、再び気持ちが下向きになってしまった。
「もうダメだ・・・・・・。絶対見られた。だってあいつ、俺を避けるし、なんか態度変だし・・・・・・」
自分でも情けないと思いながらも、弱音を吐いてしまう。
研の言葉に、裕も悲痛な表情を浮かべた。
一度弱音を吐いてしまうと、もうダメだった。鈴音が来てからずっと碌に裕に触れられず、下の熱が溜まって限界なのだということも、口を滑らせてしまった。
同じ空間にいるのに、近くにいるのに、遠い。触りたいのに、それができない。そのもどかしさに、最近苦しんでいる。その鬱憤が、口から溢れ出てしまったのだ。
「俺、もうダメだ・・・・・・。限界だよ、兄さん。こんなに近い距離にいるのに、触ることができないなんて・・・・・・生殺し過ぎる!!」
いきなり手を掴むと、裕は小さく声を出して後ずさった。追うようにして立ち上がり彼を見下ろすと、裕も目を潤ませてこちらを見つめ、乾いた唇を舐める。
その潤んだ瞳に、その濡れた唇に、最近燻っていた気持ちに火が着く。体の内側から獣のような抑えられない衝動が湧き出てきて、研の理性を攻撃する。
下には鈴音がいる。――わかっている。
体が言うことを聞かなかった。
「あっ、やっ――!」
逃げようとする裕の両腕を掴んで拘束し、覆い被さるようにしてキスをしようと顔を近づける。
あと少しで唇がくっつくという時、裕の背後で物がぶつかる音がした。
『だいじょうぶ~?』
次いで下から聞こえてきた、鈴音の寝ぼけているような声にハッとする。
現状に意識を向けると、自分が裕の両腕を掴んでいたことにぎょっとし、すぐにそれを離した。
「ごめん兄さん。俺・・・・・・ごめん。おやすみ」
今度こそ逃げるように顔を逸らし、狼狽えている裕に背を向ける。
「うん・・・・・・おやすみ」
背後からは小さくそう聞こえ、その後静かに扉が閉められる音がした。
『やって、しまった・・・・・・』
顔が熱いのを無視し、研は自分の震える両手を見つめる。ほぼ無意識の状態で裕にあんなことをしようとしていたことに、心底驚く。
「はぁ-・・・・・・」
先ほどまで座っていたため皺ができているベッドに腰を下ろし、組んだ両手を額に当て、大きく深い溜息を吐いた。
熱い部屋に、暗く熱を持った溜息がゆっくりと落ちていった。
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