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第九十六話 「鯉の恩返し・・・と思いきや」~完全に裏目~
しおりを挟む松浦静山著「甲子夜話三篇」
巻五、四「淀川大鯉の怪談」より
ある日、九鬼長州の隠居所を訪れ歓談した時に、松平楽翁から聞いた話である。
山城の国(京都の南部)の淀川には大きな鯉が住んでいて、三尺(90㎝)を超えるものを何とかと呼ぶそうだ。
(私(静山)は、その呼び名を忘れてしまった)
また、当時の天子様(天皇)は鯉が好物で、よく大きな鯉が献上されていたという。
ある時、淀川の漁師の網に三尺を超える大きな鯉がかかった。
漁師は、「お天子様は鯉が大の好物と聞いている、こんな大きな鯉を宮城(御所)に持ってゆけば沢山のご褒美をくださるだろう・・・」
漁師が鯉を下げて歩いていると、行脚の僧と出会った。
「・・・その大きな鯉はどうするのじゃな?」
「これから宮城に持って行ってお天子様に献上するのです」
「・・・それならば、その鯉を拙僧に売ってくれんか?宮城で下さるご褒美よりも倍の値段でわしが買い上げよう・・・」
漁師はもとよりそれが生業である、喜んでその鯉を僧侶に売ると、僧侶はその大きな鯉を近くの川に放してやった。
しかしその夜、かの僧侶は大熱を発し悶え苦しみ、うわ言のように同宿の僧に向かって口走り始めた。
「我は淀川に年久しく棲んでいる巨鯉である。貴いお天子様に食べられ、その血肉となる得難い幸を求めて、川の底から浮かび上がり漁師の網にかかったのだ。それなのに、この僧侶は我を買い取って再び川に戻したので、我は福を失ってしまった・・・それを怨みに思い、この僧にとり憑いたのだ」
同宿の僧達は半ば驚き、また訝しく思ったという。
・・・・この後は一体どうなったのだろう。
その場にいた客の議論する声が騒がしかったが、私(静山)は、その後の事は聞かずに、別の宴席に移ってしまった。
・・・恐らく酒宴での雑談なのでしょう。
話が完結せずに終わっていますが・・・静山さんならずとも、この結末は聞きたかった気がします。
それにしても、殺生を避けようと鯉を買い取って川に放した僧侶。
普通ならば「鯉の恩返し」となりそうなものですが・・・・完全に裏目に出たとはちょっと気の毒です。
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