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第九十四話 「居酒屋の女房の機転」

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 松浦静山著「甲子夜話三篇」

 巻五、一〇「亀井戸酒烹店賊入し時婦人之ちえ」より


 市井の庶民の知勇はまた、武士とは異なるものである。

 人から聞いた話では、今月の初め(甲午五月)、の夜、亀戸橋の際にある居酒屋に刀を持った賊、四、五人が押し入った。
 最近、この店が流行っていて、裕福そうなのに目を付けたのであろう。

 店の主人は賊が押し入ってくるのに気づかついて、驚いて外に逃げ去ってしまい、妻が一人残された。

 賊は、妻に刀を突きつけて脅した。
 
 「小判はあるか?小判を出せば命は助けてやる」

 妻は、咄嗟に答えた。

 「・・・うちは、日々の商いなので売り上げの銭はありますが、小判などはごさまいせん」

 そう言って、賊に銭六十貫を差し出した。
 しかし賊はそれには納得せずさらに妻を責めた。

 「いや、はした金はいらん、小判を出せ、商売が繁盛しているのだからないはずはない」

 「・・・い、いえ、本当に小判などはないのです、どうかこれでご勘弁を・・・」

 そう言って妻は、夏冬の衣類を集めて賊の前に差し出したが、賊はどうしても小判を出せと責める。

 ・・・・本当は、商売が大当たりして貯えた小判30両があるのだが、このような賊に盗られるのは口惜しい、なにかいい方法はないかと妻は考えた。

 「・・・それでは、私の老母が小遣いを溜めているものが少々ございます、今持ってきますから少し待っていてください」

 そう言って、あちこちを探す振りをして、貯えていた小判三十両をこっそり着物の帯の間や自分の髪の中に隠し、少々の小判を賊に与えた。

 賊は、小判をみて納得し、その小判と売り溜めの銭をひっ掴んで、刀を納めて去っていった。

 夫は、妻を置いて逃げた臆病を笑われ、妻はその知恵を皆に称賛されたという。


 ・・・・このおかみさんは度胸が据わっていますね!
 普通、こんな強盗が押し入ってくるとパニックで何も考えられないものですが・・・。

 それにしても小判って、一枚くらいならともかく、髪の毛の中に沢山隠せるものなんでしょうかね?
 当時の女性は髷を結っているとはいえ小判ってけっこう重いですし。
 九十三話でご紹介した箱根の関所でも、女性の髪の中は密書等が隠されているかも知れないので、よく調べられるそうですが・・・。

 読んでいて、一番気になったのはこの部分でした。
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