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第八十四話 「冬の甘酒売り」
しおりを挟む松浦静山著「甲子夜話続篇」
巻八十六、四「醴売声に輿夫応ぜし辞の笑嘆」より
数年前の事を思い出したのでここに記す。
幕府の老中の来客への対応は朝早く、老中に面会を求める者は、いつも早朝七つ(午前四時)前に老中の屋敷の前で開門を待つのが習わしとなっている。
その時の老中は、西の丸下のお堀の向かいに屋敷を構える某候であった。
老中の屋敷前にはいつも面会の客が大勢集まっているため、御城内ではあるが醴(甘酒)売りもやってくる。
荷箱に甘酒を仕込んで、下部にある炉に火を入れて温め、屋敷前で待っている者達に甘酒を売って寒さをしのいでもらうのである。
その当時は、私(静山)は壮年だったが、私の駕籠者(武家の駕籠を担ぐ人夫)は「巻き端折り」といって、着物の裾を腰まで巻き上げ褌まで見えるようにしていた。
折しも12月のことで、早朝の空気は大変冷たかった。
甘酒売りが、
「甘酒~、甘酒~、熱いの、熱いの、燗が煮える煮える~」
と売り声を上げる。
その時、私の駕籠者が甘下げ売りの売り声に答えて叫んだ。
「寒いの、寒いの、尻が冷える冷える~」
私は、駕籠の中で吹き出してしまった。
・・・他愛もない話ですが、学校の「歴史」の授業のような、年代と事件の暗記だけでは絶対に判らない、当時の人々の息遣いが聞こえてきそうなこういう話はとても面白いと思います。
幕府の要職である老中、そのお屋敷前は、色々な陳情に来る人達でごった返していたのでしょうか・・・・。
なお余談ながら、甘酒は意外にも俳句では夏の季語だとか・・・。
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