上 下
52 / 100

第五十二話 「口は災いの元」~まあ、そうなりますわな~

しおりを挟む
 松浦静山著「甲子夜話」

 巻五十六、八「医の軽脱に報う」より


 ある人が語った話だ。

 木挽町あたりに住むある大名家の医師は、相応に流行ってはいるが、その人となりは軽薄でつい余計な事をいう性格だったという。

 ある日、病人が出た家から依頼があり往診に行ったところ、病人は大変にやつれて、重い病気のように思えた。
 医者は、もうこの病人は長くないと思い、薬の処方を断っていつもの調子で言った。

 「さてさて、大変残念な事だが、あの病人はもう長くはもたないでしょうなぁ・・・早く棺桶の用意でもしておいた方がよいでしょう」

 医者はそう言って帰ってしまった。

 しかしその後、家族が別の医者に見せたところ、病人は次第に回復し、ついにはすっかり良くなってしまった。

 さて、翌年の元日の朝。

 医者の元に新品の棺桶が届けられた。
 担いできた人夫が医者の家の玄関前に棺桶を置くと、奥から医者がびっくりして飛び出してきた。

 「こ、これは何事ですかな!・・・元日から玄関前に棺桶とは縁起が悪い!」

 棺桶を運ばせてきた病家の家の者が答えた。

 「いえ、去年うちの者が先生に診て頂いたところ、はやく棺桶を用意した方がいい・・と有難いご教授を頂きまして、棺桶を作らせたのでございますが・・・その後、別のお医者様の診療で病人がすっかり回復いたしまして、この棺桶も不要になりましたので、先生に寄贈させて頂きたいと存じます」

 それだけ言って、病家の家の者は帰ってしまった。
 元日の朝に棺桶とは縁起が悪い事この上なく医者も大変困惑したが、元はと言えば自分の口から起こった事なのでどうすることも出来なかったという。

 珍しい笑い話である。


 ・・・・まさに「口は災いの元」見事に意趣返しされた医者の話でした。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

誓いの言葉

  *  
エッセイ・ノンフィクション
誓いの言葉です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...