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第五十四話 「天明六(1786)年の大水害」

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 松浦静山著「甲子夜話」

 巻五十二、一二「天明洪水の話」より

 天明六(1786)年、江戸で水害が起こり、本所の辺りも甚大な被害を受けた。
 その時私(静山)は平戸にいたので実際には見ていないが、後でその時の事を聞くとまさに大洪水というべきである。

 最近聞いた話では、本所の近くの原庭町に何文(菊屋善兵衛、この人は漢気があるので知られている)という者がいた。
 大水が出ると聞くと長屋の者達を集合させて、隣にある霊光寺(現・墨田区にある寺)の本堂に高く棚を造り、全員を避難させた。

 やがてそこにも水が押し寄せ水没しそうになると、何文は前から借りていた鯨舟(細長い小型の舟)に全員を乗せた。
 既に、辺り一面は全て水が氾濫している。
 長屋の者全員が船に乗ったのを確認すると、何文は大声を出した。

 「覚悟はいいか?」

 皆が口々に「よし」と答える。

 何文が押さえていた手を離すと、船は矢のような速さで濁流を下り、一瞬の間に駒形堂の岸についたという。

 何文は、後日この時の事を語り、

 「あの時の洪水は凄かった・・・・」と嘆息したという。
 

 ・・・この天明六年に関東や東北を襲った大雨による大水害は、「江戸三大水害」と呼ばれている凄いものだったそうです。
 これを読んでも、墨田川一帯がほとんど濁流に呑まれている様子が分かります。

 この年は、この水害だけでなく全国的に米の不作も重なったり、このエッセイでもご紹介したことのある、あの「賄賂政治」で有名(?)な老中・田沼意次が罷免されたり大変な年だったようで・・・。
 また、その余波で翌年の天明七年には主要都市で「天明の打ちこわし(暴動)」が起こりました。

 地震もそうですが、昔から日本人は天災と向き合って生きている事を改めて実感します。





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