上 下
3 / 3

【おまけ】 カナマラ大明神の由来 ~有歯女陰(ヴァギナ・デンタータ)伝説~

しおりを挟む
 

 根岸鎮衛著 「耳嚢」

 巻之一「金精神の事」より


 津軽氏の家来の話では、津軽の道中に「カナマラ大明神」といって、黒銅で作られた男根を御神体としている所があるという。

 私(鎮衛)が「・・・これは一体どういう由来のものなのでしょうか」と聞くと、土地の古老がその由来を語ってくれた。


 昔、その地に裕福な長者の夫婦が住んでいた。

 夫婦には一人の娘がいたが、その娘はたぐいまれな美貌だったため求婚者が絶えなかった。
 父母はこの美しい一人娘を寵愛した。

 村の青年たちはこぞって長者に贈り物をし、その美しい娘を嫁に欲しいと申し出たが、長者としても一人娘ゆえ、よく婿を選んで容姿も家柄も申し分ない青年を娘の婿に迎えた。

 娘の将来は順風満帆じゅんぷうまんぱんに思えたが、どういう理由か、婿は娘との初夜の晩にあっけなく死んでしまった。

 長者は仕方なく、次の婿を迎えたが、これも新婚初夜の晩に変死を遂げてしまう・・・。

 それからというもの、何人もの男が娘の婿としてやってきたが、あるいは変死し、あるいは大怪我をしてすぐに逃げ出してしまい、美しい娘のねや(寝室)は空しいものになってしまった。

 父母は大変悲しみ、娘に訳を聞いてみた。

 「どうして婿が死んだり逃げたりしてしまうのだろう・・・おまえ、なにか心当たりはあるのかい」

 「・・・私もその理由が分からないのです、なぜか初夜の時に殿方が死んでしまうか、恐れて逃げてしまうのです・・・」
 
 娘はそう言って泣くばかりだった。
 父母も、娘の因果を感じ嘆き悲しんで暮らしていた。


 ある村に一人の若者がいた。
 若者は長者の娘の噂を聞き、娘の婿になって男根に大怪我をして、命からがら逃げてきた男に話を聞いた。

 「・・・あの女の女陰ほとには鬼牙があるのだ、それで男のモノに噛み付いて食い千切ってしまうのだ・・・俺はこうして命は助かったが、あれは恐ろしい魔物だぞ」

 若者は一計を案じた。

 若者は鍛冶屋であるものを拵えてもらい、娘に求婚した。
 すでに娘の噂は近郷まで広まり、婿になろうという男はどこにもいなかったので、父母は大変に喜んで若者を迎えた。

 さて、娘と若者が祝言を終えて初夜を迎え、二人はねやに入った。
 そして、いよいよ交わるという時に、男は自分の男根を挿入するふりをして、かねて用意していた黒銅製の男根を娘に挿入した。

 男根が入ってきた瞬間、娘の女陰からはおびただしい鋭い鬼牙が生えてきて男根に噛み付いてきたが、銅で出来た男根に、牙はすべて折れ砕かれてしまった。
 それからというもの、娘は普通の女となり若者と幸せに暮らしたという。

 長者の家では、この黒銅の男根を御神体として奉り崇拝するようになったということだ。


 カナマラ大明神というと、現在は神奈川県川崎市の「金山神社」が世界的にも有名(Iron Penis Festival として外国人も沢山やってくるとか)ですが、青森県でも古くから生殖器崇拝があったようです。
 太古の人類が子孫繁栄の象徴として性器を神聖視する、というのは非常に理解できます。
 先史時代(人類が文字を発明する以前)の出土品として有名な、通称「ヴィレンドルフのヴィーナス」も、女性の乳房や性器が大変誇張した造形で作られています。

 生殖器崇拝は、原始宗教の名残を色濃く残している風習なのでしょう。

 それにして、この有歯女陰(ヴァギナ・デンタータ)伝説は、世界各国に類話が見られるとか。
 これが非常に不思議な気がします。
 民俗学や文化人類学、そしてフロイトの精神分析学等、色んな側面から研究したら非常に面白い気がしました。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

田中
2024.10.23 田中

「半田溶助女狩り」に女陰が蛇ってのが
ありました

解除
田中
2024.10.23 田中

「半田溶助女狩り」に女陰が蛇ってのが
ありました

解除

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【18禁】「胡瓜と美僧と未亡人」 ~古典とエロの禁断のコラボ~

糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
 古典×エロ小説という無謀な試み。  「耳嚢」や「甲子夜話(かっしやわ)」「兎園小説」等、江戸時代の随筆をご紹介している連載中のエッセイ「雲母虫漫筆」  実は江戸時代に書かれた書物を読んでいると、面白いとは思いながら一般向けの方ではちょっと書けないような18禁ネタや、エロくはないけれど色々と妄想が膨らむ話などに出会うことがあります。  そんな面白い江戸時代のストーリーをエロ小説風に翻案してみました。  今回は、貞享四(1687)年開板の著者不詳の怪談本「奇異雑談集」(きいぞうだんしゅう)の中に収録されている、  「糺の森の里、胡瓜堂由来の事」    ・・・というお話。  この貞享四年という年は、あの教科書でも有名な五代将軍・徳川綱吉の「生類憐みの令」が発布された年でもあります。  令和の時代を生きている我々も「怪談」や「妖怪」は大好きですが、江戸時代には空前の「怪談ブーム」が起こりました。  この「奇異雑談集」は、それまで伝承的に伝えられていた怪談話を集めて編纂した内容で、仏教的価値観がベースの因果応報を説くお説教的な話から、まさに「怪談」というような怪奇的な話までその内容はバラエティに富んでいます。  その中でも、この「糺の森の里、胡瓜堂由来の事」というお話はストーリー的には、色欲に囚われた女性が大蛇となる、というシンプルなものですが、個人的には「未亡人が僧侶を誘惑する」という部分にそそられるものがあります・・・・あくまで個人的にはですが(原話はちっともエロくないです)  激しく余談になりますが、私のペンネームの「糺ノ杜 胡瓜堂」も、このお話から拝借しています。  三話構成の短編です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。