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第二話 「幾代餅政談 ~落語の幾代餅と大岡裁き」
しおりを挟む「幾代餅」(いくよもち)という落語を御存じでしょうか?
落語好きな方ならすぐに判ると思いますが「紺屋高尾」と同じ筋立ての純愛ストーリーです。
搗き米屋の奉公人、清蔵が、錦絵で見た吉原の一番人気「幾代太夫」に恋をしてしまい飯も喉に通らなくなる。
その時代の吉原のトップ大夫、一晩会うだけでも十五両という大金が必要という「世界」が違う二人・・・。
いくら一目惚れしたところで、どうにもならないのだが、「十五両ありゃ太夫だって買えねえことはねぇ、とにかく一生懸命働いて金を溜めろ」という親方の慰めを真に受けて必死で働く清蔵。
寝食忘れて働き、一年後、本当に15両の金を作った清蔵が「大店の若旦那」という触れ込みで吉原に乗り込み、奇跡時に幾代太夫と一夜を明かす。
「ぬし、次は何時来ておくんなます・・・」
・・・と聞く幾代太夫に、
「一年後に必ず・・・きっと金を溜めてまた会いに来ます」
・・・と自分が搗き米屋の奉公人であることを明かす清蔵。
その真実の愛に打たれて、年季が明けた幾代太夫が清蔵のところに嫁入りし、二人で餅屋を始める。
奉公人と人気太夫の純愛、そして幾代太夫の美しさが江戸っ子の話題となり、幾代太夫の名にちなんで「幾代餅」と名付けた餅が大人気となって店は繁盛する・・・・。
という純愛ストーリーです。
前述のとおり「紺屋高尾」と全く同じ筋立てです。
故・立川談志師匠の「紺屋高尾」はつとに有名ですが、まあ、同じストーリーながら個人的にも「紺屋高尾」の方が好きだったりします。
前置きが長くなりましたが、この「幾代餅」実話に基づいたお話だったりします。
ちなみに「幾代餅」は、焼いたお餅に餡を乗せただけの素朴なものですが、家でも作れますし、これはこれで美味しそう。
根岸鎮衛著「耳嚢」にこういう話があります。
(巻之一「両国橋幾世餅起立の事」より)
※落語の方は「幾代」ですが、耳嚢の方は「幾世」となっています。
元々「幾世餅」は、浅草御門内にあった「藤屋」というお店が元祖で以前から営業していたのですが、この落語に出てくる幾世太夫の方のお店「小松屋」、繁盛してくると店舗を両国に移して、吉原に居た頃からの幾世のファン達の援助も受けて「日本一流幾世餅」と暖簾を掲げて大々的に売り出しを始めたとか。
浅草と両国という近い場所、そして同じ「幾世餅」とい商品名・・・というと当然予想されるのが今でいう「商標争い」。
元祖の「藤屋」と幾世太夫の方のお店「小松屋」の争いは、奉行所に持ち込まれ、今でいう「裁判」となります。
この裁判を担当したのが、あの有名な「大岡越前守」!
その大岡裁きとは・・・・・
「双方の言い分を聞いても「幾世餅」の名称を使うことには理由があり、もっともな事である、浅草と両国、近い場所で同じ名称のものを売るが為に問題となるのであるから、藤屋は四つ谷内藤宿(今の新宿区)へ、小松屋は葛西新宿(今の葛飾区)に店舗を移転して、それぞれに商売をするように」
・・・というもの。
同じ「新宿」だから文句ないよね?との洒落の効いたお裁きなのですがそんな場末に移転させられては商売あがったり。
藤屋と小松屋は当惑して、訴えを取り下げさせてもらったとか・・・。
こんなお話を、実際に「名奉行」として名高い根岸鎮衛が書き記している、という点も面白いです。
同じ奉行職という事で、鎮衛自身も面白い話だと思ったのではないでしょうか。
まあ、「大岡政談」は、旧約聖書のソロモン王裁判から、他のお奉行の下したお裁きまで「何でもあり」らしいので、この話も本当がどうかは分かりません・・・・。
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