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第二十ニ話 男が呪われる地、女泣村の伝説 ~四百年前の悲劇と山の女神~

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 「ええ、この女泣村の役場との契約期間は二年間だったでしょう?幸介さんにはその間、村の女達に子種を与え続けて・・・この村の存続に力を貸してもらいたいの・・・将来の蜂ヶ谷家の当主を作るためにね!」

 ・・・志津は情熱的に幸介の首に両手を回し、ネロネロと耳たぶを舐め回しながら甘くささやく。

 「・・・将来の当主?・・・志津さんの後を継ぐのは娘さんの凛子さんではないのですか?」

 「もちろん私の後は凛子が当主を継ぐわ・・・その次の話よ・・・幸介さんには何としても凛子に子供を産ませてほしいの・・・絶対にね!」

 「・・・ええっ?り、凛子さんと・・・僕が・・・」

 幸介は仰天して思わず自分の胸に甘えている志津の顔を覗き込む。

 「・・・「オス蜂」は、数年ごとに他所よそから迎える、そう言ったわね・・・でも、オス蜂が村の女達に子種を注ぎ続けたとしても、絶対にこの蜂ヶ谷の家の女が赤ん坊・・・それも女の子を授かるというわけではないでしょう?」

 「・・・えっ、ええ・・・それはそうです・・・」

 「だから、この女泣村の昔からのしきたりで、オス蜂を迎えてから村で最初に生まれた女の子が養子となってこの蜂ヶ谷家に入って「女王蜂」となるのよ・・・」

 「・・・村の誰かが最初に生んだ女の子をこの蜂ヶ谷の家が貰って、当主を継がせる・・・そういうことですね?」

 「そうよ・・・貴方の「試験」の為にお相手をさせた菊と、当主である私が終わったら・・・明日からはくじ引きで決まった順番で村の女達が貴方の種を貰いにくるわ・・・そうして、一番最初に生まれた女の子が将来の蜂ヶ谷家の当主となる・・・・この女だけの村はね、言ってみれば一つの「蜂の巣」みたいなもの・・・メス蜂達の共同体なのよ」

 「・・・メス蜂だけの・・・巣・・・ですか」

 「ええ、女だけでは子供は作れない・・・村を存続させてゆくために定められた昔からのしきたり・・・村の序列を維持して統率してゆく為の掟・・・」

 「・・・ぼ、僕が・・・村の女の人達と」

 「・・・そうよ、だからね、幸介さんにはどんなことがあっても私の実の娘の凛子に女の子を産ませて欲しいの!絶対に娘を最初に孕ませて欲しいの!・・・この蜂ヶ谷家の当主の座を他の家の女達に奪われるなんてっ・・・そんなのは許せないわ・・・」


 ・・・幸介にとっては何もかもが驚きの連続だった。

 月給50円という破格の好待遇で東京から招かれた自分が、実は女だけで生きてきた村・・・女だけの共同体で子孫を作る使命を担った「オス蜂」だったとは!

 それは彼が村に滞在する二年の間、村の女達に子種を与え続ける、言い換えれば肉体関係を持ち続けるということだ。

 ・・・この蜂ヶ谷家に寄宿してからの、まるでお殿様扱いの好待遇、そして精のつく豪華な料理・・・それはひとえにこの村で女達に精を注ぎ込み、子供を作り村を存続させる為だったのだ。

 当然にこのことは村長の朽木も先輩の西村達も知っていたことなのだろう。

 「・・・志津さん、それは分かりましたが・・・・この村にかけられた「呪い」・・・男達に災いが降りかかるその呪いとは、一体どういう由来なのですか?志津さんならばご存じでしょう?」

 「・・・ええ、もちろん知っているわ・・・・それは今から四百年ほど前の事だと聞いているわ・・・」
 
 

 志津が語った、この村が男達にとっての「鬼門」となったその由来は以下のような話だった。

 ・・・なんでも今から四百年ほども昔、寛永の頃の出来事だという。

 まだその頃はこの女泣村は「鴨沢村」と呼ばれていた。

 その鴨沢村の庄屋であった蜂ヶ谷家には、美しい一人娘がいたという。
 山奥の村には珍しいほどの色白の美人で、長い黒髪に桜色の頬、優し気な表情はまるで地上に降り立った天女のようで、鴨沢村の男達はおろか近郷近在の村からも娘を嫁に欲しいという男がひっきりなしに訪れたのだった。

 美しく生まれついた自慢の娘に相応しい立派な婿を・・・そう思った父は、そんな求婚者達をつれなく追い返し、隣村の庄屋の裕福な家の嫡男を婿にすることに決めたのだった。

 娘も美男の婿を一目見て恋に落ち、あとは祝言の夜を迎えるだけとなったある日、村のならず者の男達が娘をさらって山に連れ込み手籠めにしてしまったのだという。
 彼らは、娘に求婚したものの、父親に冷たく門前払いされた腹いせにこうした暴挙に出たものだった。

 無論、ならず者達はすぐに捕らえられ縛り首にされたが、嫁入り前に純潔を奪われた娘は絶望し、自ら山の裏手の崖から身を投げて自害してしまったのである。

 その今際いまわきわに娘は山の神にこう願ったのだという。

 「この村に男などいるから私はこんな惨い目に遭ったのです!・・・男はみんな野獣です!悪者です!・・・山の神様、どうか私の命と引き換えに、憎いこの村の男達が末代まで不能になり、子供も作れず、病に苦しむよう呪いをかけてください・・・お願いでございます!」

 そんな激しい恨みを残して身を投げた娘の呪詛の言葉を、この山に住む神様は聞き入れてくれだのである。
 日本各地に伝わる多くの伝説でも、申し合わせたように山の神は「女性」である・・・それも気まぐれで破壊的な力を持った恐ろしい神様だという。

 この地の山の女神は、男達の暴虐によって非業の死を遂げた娘を哀れに思い、彼女の願いを聞き入れ、この村の男達に呪いをかけたのだと伝説は語っている。

 志津の語るこの伝説がどこまで真実かは分からないが、それから四百年も経ったこの昭和四年に至るまで、この地は男にとっての受難の地になっていることは揺るがない事実なのである・・・。




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