上 下
3 / 29

第三話 「結界破りと魔女の復活」

しおりを挟む
 

 「結界僧達は一体なにをしておるのだ!」

 近衛隊長が怒りにまかせて叫ぶ。

 王宮には、魔術や魔力者から女王達を護るため、魔力によって結界を張る「結界僧」と呼ばれる強力な魔力者が数十人待機して、王宮をすっぽり包み込むような、目には見えない大規模な結界を作り、魔力の使用を察知する警報装置のような役割を担っている。


 その時、廊下から息を切らせた一人の守衛兵が飛び込んできた。

 「隊長殿っ、結界僧がっ・・全員石になっております!」

 「・・・そ、そんな馬鹿なっ・・・そんなことがあり得るのかっ・・・」

 人を石化する魔法は、ほとんど百年に一人という異常な魔力を持った魔力者だけが可能な、強力な魔法である。
 しかも数十人を一度に石化するなど、前代未聞である・・・。


 「おほほほっ、王付きの魔力者もちょろいもんねっ!」

 ・・・すっかり静まり返った広間に、甲高い女の声を響いた。

 蜂の巣を突いたような騒ぎの中でも、凛とした表情を崩さなかった女王・リュディアの顔色がサッ・・・と変わる。

 「・・・そっ、その声は、まさか・・・」

 その瞬間、三羽の大きなカラスが宮殿の小窓から入ってきたかと思うと、玉座に座っている女王リュディアのエメラルドの髪飾り、アレッタ姫やパリエル王子のネックレス等を鋭い鍵爪で奪い去り、再び宮殿の小窓から飛び去って行った。

 身に着けている者が魔法の対象とされることに抗力を発揮する、エメラルドを奪った鮮やかな手口・・・。

 「うふふっ、お久しぶりでございます、リュディア様・・・」


 黒いローブを纏い、銀の装飾品を身に着けた黒髪の若い女が突如として女王の前に出現した。

 「おっ・・・お前はっ、ロミア!・・ど、どうしてっ、封印の間で永久凍結の刑を受けていたはずロミアが・・・」

 魔力者ロミア、20年ほど前に、その魔力を使い地方で騒乱を起こした魔女である。
 ロミアは、村民の心を魔術で惑わし私兵に変え、領主を殺害し一か月ほど辺境の城を占拠し暴虐の限りを尽くしたのだ。
 ロミアの反乱の報を受けた女王リュディアが、国軍と直属の魔力兵を派遣、多少の犠牲はあったがロミアを捕らえ、永久凍結の刑に処したのである。

 ロミアは確かに、物体を動かしたり破壊する物理系魔法から、人の精神や身体を自由に操る精神奪取など、全ての魔法に長けた強大なパワーを持ってはいたが、100年に一人と言われる国の脅威となるような魔力者ではなかったはずだ。

 現に20年前は、王立魔力軍の前に屈している。

 しかし今夜見せられた魔力は、そんな20年前の彼女と同一人物とは思えない、恐ろしいほどの強大な魔力であった。

 「あらっ、リュディア様のお隣にいらっしゃるのは・・・お姫様ですのね、確か、アレッタ姫様とおっしゃいましたか・・・お母様にソックリで素晴らしい美しさでございますわねぇ♥」

 「お前がどうしてここに・・・まさか、あの封印を解いて結界を抜け出したというの?」

 ロミアは軽く笑って王女リュディアに向かって言う。

 「ええっ、20年もあんなところで固まっていると、もう退屈で死にそうですものっ・・・」


 その時、宴に招かれていた客の中から、一人の若い騎士が剣を片手に飛び出した。

 「・・・この魔女めがっ!女王様達に狼藉は許さぬっ!」

 腰の長剣を高々と振り上げ、ロミアに斬りかかった騎士は、ロミアのひと睨みであっという間に石へと変わって、床に倒れて砕け散った。

 「ギャアアアッ!」

 女性達の悲鳴が広間に響き渡る。

 「わっ、わしは関係ないっ・・・無関係だぁ!」

 デップリと太った、これ見よがしに金銀の装飾品を身に着けた中年貴族がパニックになって、人々を押しのけて広間から逃げ出そうとする。

 「ふふっ、みっともないことっ・・・」

 ロミアが逃げる中年貴族に掌を向けると、その指先から青い光が放たれ、中年貴族は風船のように弾け飛んで辺りに肉片の雨を降らせた。

 再び起こる女性達の狂気のような悲鳴。

 「逃げる者はこうなるからねっ!・・・でも、安心して・・・逃げない限り、貴方達には危害は加えないわ」

 怯えて泣き出す者もいる宴の参列者に向かって、ロミアは優しい声で言う。

 そうして、玉座に座っている女王リュディアとアレッタ姫、そして彼女の婚約者のパリエル王子を舐めるようなイヤラシイ目で見つめる・・・。

 「うふっ、20年経っても変わらない美しさでございますねぇ、リュディア様っ・・・いや、女の色気は昔よりも磨きがかかっていますわね♥」

 ロミアの眼光が青く変わると、女王リュディアの身体が硬直したように動かなくなり、大の字になった体が空中に磔になったように宙に浮く。

 「キャアアッ、なっ、何をっ!・・・ロミアっ」

 「ああっ、お母様ぁっ!」

 「リュディア女王っ・・・」

 リュディアの両隣りのアレッタ姫とパリエル王子が、思わず立ち上がって駆け寄ろうとするが、身体が椅子に吸い付いたように動かない・・・・これもロミアの魔力によるものだ。

 「・・・ああっ、リュディア様が・・・魔力で・・・」

 広間の壁際に固まって身を小さくしている祝宴の参列者達は、先ほど石にされた若い騎士や、逃げようとして一瞬にして肉塊となった中年貴族を見て恐れ、事の成り行きを見守るしかない・・・。

 「ま、魔法を解きなさいっ、ロミアっ!一体何が目的なのっ?」

 「あらっ、ご挨拶じゃないっ、リュディア様ぁ♥20年間置物みたいに封印されていた私がやっとこうしてシャバに出てこれたっていうのに・・・」

 「くううっ、一体どうやって・・・あの強力な結界を・・・・」

 女王リュディアは、ロミアを睨みつける。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

聖獣の愛し子である私は「王子の婚約者にしてやる」と王都に呼ばれましたので、仕方なく断りに来ました

kieiku
ファンタジー
「良いか、おまえのような田舎娘を、この俺の婚約者にしてやると言っているのだ。地にひれ伏して感謝せよ。そしてその獣をしっかりと躾け、王都を富ませるようにせよ」 「無理なものは無理でございます」 残念ですが、聖獣さまは人に従えられる存在ではないのですよ。ひどいことになる前に諦めてほしいです。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

勇者一行の後遺症~勇者に振られた薬師、騎士の治療担当になる~

きなこもち
ファンタジー
「必ず魔王を倒して君のところへ戻ってくるよ。そしたら僕達一緒になろう。死が二人を分かつまでずっと一緒だ。────」 それがあの日、幼馴染の勇者ルイスがイェリにした約束だった。 ◇ 王宮で働く薬師のイェリは、かれこれ三年、幼馴染であり恋人でもあるルイスの帰りを待ちわびていた。 とうとうルイス率いる勇者一行は魔王討伐を果たし帰還を果たすが、イェリが待ちわびたルイスはまるで別人のようだった········· 不安になるイェリの元に、意外な人物からの治療依頼が舞い込む。 「俺にかけられた魅了魔法を解いて欲しい。」 依頼してきた人物は、ルイスと共に魔王討伐に参加したメンバー、騎士アクレンであった。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

処理中です...