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第四話 「春美流失恋の癒やし方」~元カノの母の無邪気なスキンシップ~
しおりを挟む小綺麗に片付けられた広くて明るい室内・・・大きなソファに桜色のカーテン、ピカピカのフローリング、応接テーブルに飾られたガーベラの生花。
何度かおじゃましたことのある瑠璃の家は、甘いようなとてもいい香りがする。
年頃の女の子がいるせいだろうか・・・それとも、目の前の春美の髪や肌からほのかに漂う「オンナ」の香りのせいなのだろうか・・・。
初めて入るわけでもないのに、潤は不思議と心臓がドキドキしてしまう・・・。
瑠璃の家は、瑠璃と、母親の春美と父親の三人暮らしだ。
大手広◯代理店に勤める父は、大変な激務で毎日帰りも遅いようだが、その分収入も良く裕福な家庭である。
そのため妻の春美は、今は専業主婦として家庭をしっかり守っているのである。
・・・もっとも元来、明るく社交的で、薬剤師の資格も持っている春美は、瑠璃が◯校に上がり、あまり手がかからなくなったら、働きに出ようと思っているのだという。
「潤くんっ、本当にアリガトウねっ!瑠璃のバック、重かったでしょ?」
「いやっ、ちょうど帰り道の途中だし、全然ダイジョウブですっ・・・」
フンワリと沈む座り心地のよいソファに、落ち着きなく腰を落とした潤の前に、春美がグラスでオレンジジュースを出す。
「・・・・どうぞっ!暑かったでしょ?」
春とはいえ、もう日差しが暖かく少し汗ばむくらいである・・・潤の額にも少し汗が滲んでいる。
「・・・いっ、いただきますっ!」
「ウフフッ・・・それにしても潤くんがウチに来るの、何週間ぶりかしらっ・・・」
「・・・そ、そう・・・ですねっ・・・2週間くらいかな・・・アッ、アハハハッ!」
「さっき瑠璃からLI◯Eがあってね、瑠璃は学校からそのまま友達の家にダンスの動画を撮りに行ったみたいよ・・・MYTUBEっていうのっ?瑠璃の友達がダンス動画を投稿しているんで、瑠璃も友情出演で後ろで踊るらしいの、なんか最近、楽しいらしいわ・・・」
「・・・・そうですか・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
午後の日差しが薄いカーテン越しにヤンワリと差し込むタワーマンションの高層階。
春美がCDで聴いていたショパンの夜想曲第2番の美しい旋律が小さく流れている。
「元カノ」の美しい母親と二人っきりとなった潤・・・緊張からか、何を話していいのか分からず沈黙してしまう。
・・・・二人の間に漂う気まずい雰囲気・・・・そう、春美は知っているのだ、娘の瑠璃が潤をフッたことを。
「・・・・瑠璃から聞いたわよっ・・・・瑠璃ったら、潤くんのこと・・・フッちゃったって・・・」
「・・・・は、はい・・・そうです・・・」
「潤くんっ、本当にゴメンねっ!瑠璃ったら・・・こんな可愛くて優しい潤くんをフッちゃうなんてっ!あのコっ、オトコを見る目がないのかしらねえっ!」
「・・・・・いっ、いえ・・・僕が頼りなかったから・・・・」
「ううんっ!そんなことないわよっ、潤くんっ!おばさんには判るのよっ!潤くんって優しいしお利口さんだし・・・絶対に将来結婚したらお嫁さんを幸せにしてくれるタイプだと思うの!」
「・・・い、いやっ・・・そんな事ないですっ!」
「瑠璃もちょうどスポーツが出来るコとか、クラスの人気者に惹かれる年頃なのよねぇ・・・女の子ってね、あのくらいの年齢はそういうものなのっ!潤くんッ、判ってあげてねっ?」
「・・・・瑠璃さんっ、今はサッカー部の主将の岡崎勇斗と付き合っているらしいです・・・けっこうクラスでも話題になってます、岡崎、女子の間でもスゴく人気があるから・・・」
「・・・・そうなのよねぇ・・・瑠璃も言ってたの・・・・私は、その勇斗クンっていうコ、よく知らないけど、潤くんみたいに真面目で礼儀正しいコだといいんだけどねぇ・・・・」
「・・・・・・」
彼が、この家に入るのを躊躇した理由・・・・瑠璃との破局を話題にされた潤は、ションボリした顔で飲み干したジュースのグラスを見つめる。
「・・・・潤くん、本当にゴメンね・・・・」
娘の恋愛・・・母親の春美には全くもって関係ない事とは言え、優しくて真面目な潤を傷つけてしまったことに春美は何か自分のことのように「責任」を感じているらしい。
・・・・本来は年頃の娘の色恋沙汰など、取るに足らないことなのだが、人一倍優しくて世話焼きの春美は、まるで自分が潤をフッたような負い目を感じているらしいのだ・・・。
「・・・・潤くん、すっごく可愛らしいし、優しくて成績もトップクラスだし、直ぐに新しい恋人みつかるよっ!元気だしてっ!」
「・・・・は、はい・・・・」
「元カノ」の美しい母親に慰められれば慰められるほど、今の自分の情けない立場が思い出され、崖を転がり落ちるように、どんどんと落ち込んでゆく潤・・・・。
スポーツ万能の学校一の「ジョック」にカノジョを取られた情けないヤツ・・・彼自身の自分に対する評価はそうなのだ。
そんな潤をなんとか励まそうと思ったのだろう・・・・春美がいきなり対面しているソファから腰を上げ、潤のすぐ隣に移動する。
・・・・ポフッ!・・・体を密着させるように潤のすぐ隣に座り、ションボリと膝の上に置かれている潤の左手に自分の柔らかい右手を重ねる春美。
「・・・潤くんっ、そんなに落ち込まないで!なんか、おばさんも悲しくなっちゃうの・・・」
春美のややポッチャリした肉感的な肢体が潤の左半身に密着する・・・・ゆったりと編まれたミルクティーベージュに染めた長い髪から漂ってくる、甘いような・・・ミルクのような香りが潤の鼻腔をくすぐる。
・・・・ウットリするような成熟した「オンナ」の香り・・・全身がトロけてしまいそうな、女性特有の甘美な香りは、◯◯歳の少年の脳内にまるで媚薬のように染み渡ってゆく。
左の手のひらに感じる、春美の温かい体温・・・上目遣いに自分を見つめるクリクリとした大きな目!
・・・・潤の心臓がバクバクと暴れだす・・・・。
開け放たれたベランダが入ってくる爽やかな春風が、テーブルの上に飾られた赤いガーベラの花弁を揺らす。
・・・・赤いガーベラの花言葉・・・・「燃える神秘の愛」
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