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第三話 「マヌケな驢馬」~迷宮に取り残された少年~

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 「・・・おい、そろそろ「西の迷宮」だ・・・お前達、警戒を怠るな!頭上から降ってくる蝙蝠蜘蛛には気をつけろ!前回は迷宮の裏手の亀裂から入ったが、今回は正門から正攻法で行く!覚悟を決めろ!」

 隊長のバロッツァが部隊パーティのメンバーにげきを飛ばす。

 彼らは不気味な魔界の植物で覆われた森をかき分け、ついに「西の迷宮」の正面に出る!
 異界の植物が生い茂る密林の中から姿を現した迷宮は、見上げるような巨大な建造物であった。

 元は、ラーヴァ王国の宮殿だったという「西の迷宮」は、魔族の手によって無軌道に拡張され、今や文字通り、恐ろしいほど巨大な迷宮ラビリンスと化している。

 その正面の巨大な門の前に6人のパーティーが立ち尽くす。

 「・・・門を開いたら一気に飛び込んで伏せろ!奇襲に充分に注意しろよ!」

 「・・・は、はいっ・・・」

 メンバー全員の食料や装備などを背負わされ、疲労困憊していサージュも、いよいよ本格的な戦闘を前に緊張する。

 「・・・・おい、サージュ・・・お前が一番乗りだ!俺たちが扉をこじ開けるからその間に飛びこめ!」

 「・・・ええっ、ぼ、僕がですかっ?」

 「おう、そうよ・・・何事も度胸だ!なあに、迷宮の入口近くはたいした怪物はいねぇ!お前は初陣だ・・・この先、本当に実戦で使えるかどうかの、度胸試しの試験だと思え!それが出来ねぇなら、とっととお家へ帰るんだな!」

 ・・・・そこまで言われると、サージュとしても、一番乗りを引き受けない訳にはいかない。

 「・・・はい・・・やります!」

 「お前が飛び込んだら、すぐに俺たちも続く!・・・前だけを見て魔物の襲撃に備えろよ!」

 「・・・・分かりました!」

 サージュが緊張して答える。

 「おっと、一番乗りに荷物や食料はジャマだ・・・俺達が持っていてやるぜ」

 いつもは人使いの荒いバロッツァが珍しく優しい言葉をかける。
 背負っていた食料や水などを他のメンバーに渡し、刃こぼれの目立つ剣を鞘から払って、覚悟を決める!

 「・・・・よし、他の者はこの扉を開くのを手伝え!」

 頑丈な石造りの門扉を男達が両側からゆっくりと押してゆく。

 ・・・・ゴリッ・・・ガリッ・・・ギギギギギッ・・・・・

 重くて頑丈な扉が少しずつ開いてゆく、人一人が入れる隙間が出来た瞬間、バロッツァが叫ぶ!

 「よしっ!今だ!・・・サージュっ、行けっ!」

 その言葉に弾かれるように、サージュが西の迷宮に飛び込む!
 ・・・中は真っ暗だ・・・草いきれの強烈なニオイが鼻を刺激する・・・魔界のコケやつたのたぐいであろう。
 扉の中に飛び込んだサージュは、クルリと一回転をして、迷宮の奥を睨みつける。

 ・・・・魔物の奇襲はないようだ。

 「・・・・バロッツァさん、入りました!怪物はいません!」

 ・・・・その時だった。

 ・・・・ギギッ・・・ギギギギッ・・・・。

 後ろで、門扉が閉じてゆく音がする。
 それと共に、迷宮の内部は闇に包まれる。

 「えっ?ええっ・・・バロッツァさんっ!門がっ!門が閉じてしまいました!」

 一人迷宮内に閉じ込められてうろたえるサージュ、彼が扉を再び開けようとするがビクともしない。
 厚くて重い扉の向こうで、バロッツァのかすかな声が聞こえる。

 「・・・・おいっ、サージュ、無事かっ?」

 「・・・はいっ、無事です!バロッツァさん、この扉を開けてください・・・」

 「ダメだ・・・今やっているがもう扉は開かねえ・・・」

 「そっ、そんなっ・・・・」

 「これはトラップだ・・・一度開いたら二度は開かねえようになっているらしい・・・」

 「・・・ぼっ、僕はっ・・・どうしたらいいんですかっ?」

 ・・・扉の向こうで、バロッツァが申し訳無さそうな声で答える。

 「スマンが俺達ではどうすることも出来ねぇ・・・冒険にはこういうトラップはつきものだ、諦めな・・・」

 「ちょっ、諦めるって・・・バロッツァさん、そんなっ!」

 「・・・オメぇも、冒険者のつもりならば、この先は自分で考えろ!迷宮の奥に進んでいけ!出口に他にもあるはずだ!俺達も他の入り口を探して中に入るつもりだ!それまで一人で頑張れよ!・・・成功を祈る!」

 「・・・・そんなあっ!・・・ヒドいですよっ、バロッツァさん、ねえっ、バロッツァさああっん!」

 ・・・・しかし、扉の向こうからは返事はなかった。


 「・・・や、やられた・・・僕は囮だったんだ・・・」

 サージュは初めて気付く、元々バロッツァ達は、この迷宮の正面の扉のトラップを知っていたのだろう。
 そして、サージュ一人を正門から入れて、魔物をそちらに引き寄せて、自分達は前回見つけたという、迷宮の裏手の亀裂から内部に侵入するつもりなのであろう。

 ・・・・彼等としては、その分相手にする雑魚の魔物が減って、報奨金の高い、知性を持った高等魔族・ベラルゴースの首を獲れる確率は高くなるのだ。

 ・・・裏切り・・・おとり要員・・・マヌケな驢馬ドンキー・・・・。

 サージュは、泣きたくなる・・・呆然と立ち尽くしたまま・・・しかし、すでに魔物の巣窟である迷宮の内部だ。

 「・・・ここでしょげていても仕方ない・・・バロッツァ・・・アイツの言ったとおり奥に進めば、他の出口が見つかるかも知れない、他のパーティーの残した食料もあるかもしれない・・・」

 ・・・・サージュは気を取り直して、目前に広がるダンジョンを睨む。

 「・・・行こう・・・迷宮の奥に・・・・」


 そうして、彼は西の迷宮の最下層まで来た・・・意図してやってきたのではない、ただガムシャラに前に進み、襲いかかる低級な怪物達から逃げ回って来た結果である。

 それはほとんど奇跡に近かった・・・怪物を見ればとにかく逃げる!装備も食料もロクに持っていなかったことが逆に幸いした。
 完全武装の大人ではなく、小柄で身の軽い少年故に逃げ切ることが出来たのだ。

そして彼は、西の迷宮の最下層・・・その最奥にある巨大な扉を開けたのだ!

 ・・・そこで見たもの・・・それは、数万の触手に覆われた大広間と、不気味な触手に埋もれていた美女達であった。


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