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青夏(せいか)
修学旅行 3日目 午前
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「愛花!」
「…蒼天?どうしたの?」
蒼天の顔は寒さのせいか強張っているようだった。由衣からあんなことを言われると、蒼天と話すのに少し抵抗を感じてしまう。
「愛花の好きな人って、健太?」
「…は?」
あまり大声を出さずに蒼天をそこら辺の椅子に座らせる。
「…とりあえず、どうして?」
「泉が、言ってたから」
泉ー!まじであいつ…。これだから教えたくなかったのに。きっと今の私は修羅のようだろう。
「…それで、ほんと?」
蒼天はこういうところがある。何か聞き出したい時とか、やってほしいことがある時とか。こんな顔をする。好きな人がいない女子じゃあ、オチてただろうなあ。
「えーっと。…誰にも、言わないでね」
「…うん。言わない、誰にも」
「…あってるよ」
「そっか」
なんとなく居た堪れなくて、この場から逃げようとした。何かが私の袖をひいてひき止める。
「…蒼天?」
「もうちょっと、話さない?…朝ごはん食べるまで」
「…いいよ?」
年表をなぞるようにゆっくりと、初めてあった日からお互いの最近まで沢山話した。口に出して、人に話すことで、自分のことを客観視できた気がした。沢山、笑った。
「それじゃ、時間だから。またね、蒼天」
「…うん。愛花、また遊ぼうよ」
「…みんなでね」
由衣や恋ちゃんに見られてはいなかっただろうか。そんなことを考えている時点で蒼天に失礼かもしれない。でも、これが私なりの「ありがとう、ごめんね」だから。私は、蒼天を異性とし
て見れない。見たくない。
「それでは、ここからは自由行動です。各自、くれぐれもこの地域から出ないようにしてください。集合時間から十分以上遅刻した場合、迷子とみなします。それでは、楽しんでください」
いろんな人たちが嬉々とした千鳥足で散らばっていく。私は由衣、優香と回る予定だ。恋ちゃんは、南と親睦を深めたいらしい。
「あ、愛花いたいたー!」
「よし、じゃあ全員揃ったし行くか」
「そだね、みんなどこ行きたい?」
三人でマップを囲って計画を立てていると、声がした。
「愛花達、一緒に回らない?」
「蒼天。…あ」
蒼天のウィンクを見て気づいた。健太がいる。
「私たちはいいよん。ね、由衣と愛花?」
「優香…。泉と回りたいのね?」
「え、だ、誰もそんなこと…」
「そっか、じゃ俺らはでえと行ってくっからじゃーな。いこ、優香」
「ちょ、勇太ー」
「優香が連行されてった」
「じゃ、俺らは四人で回る?」
「いいんじゃね?佐藤は?」
「え、ああ。いいよ」
「石田は?ごめんね勝手に合流しちゃって」
「いや、全然いいよ」
ひゃー。健太と回るとは思ってなかった。
「よし、それじゃどこ行くどこ行く?あ、俺佐藤とどっか行こうか?」
「蒼天?いいから、別に」
「へーい」
あーあ、蒼天がそんなこと言うから由衣が顔真っ赤。ま、いっか。
「の、野沢なんでそんなはしゃいでんの?」
あ、持ち直した。
「逆に聞こう、なぜはしゃがない?」
「確かに」
「佐藤も分かってくれたか。じゃあ、手始めにあの店行こう!」
「行くどー!」
蒼天と由衣が駆け出す。
「あ、二人とも、ちょっと待って…」
二人を追って、足をかけ出す。何か、落ちてたのか、私の視界は急降下する。
「いったあ…」
「石田!?大丈夫?血、出てない?おーい蒼天と佐藤?って、いないし」
一番痛みを感じる部位に視線を寄せる。よかった、血は出てないみたいだ。
「うん、ありがと。大ジョーブ」
「そ?立てる?」
「うん」
手を砂利だらけの地面について下半身を起こそうとする。
「…もしかして、動かない?」
「いや、力が入んないだけで多分、いける…」
「あー待って!また体倒れそうになってる!て、掴んで!」
「え?あ、ありがと」
手を取る。目が合う。目を逸らす。健太がもう片方の手で顔を、隠す。やめてよ、勘違いすんじゃん。
「いや、ごめん流石にキモいよな」
「え、あ、いや」
「距離考えるわ…」
「…」
「ほんと、ごめん」
「いやじゃ、ないよ。私は」
健太が顔を覆っていた手を退けて目を合わせる。
「…健太って、よんで良い?」
「え」
「あ、いや別に。なんでも無い」
「…いいよ、愛花」
「…蒼天?どうしたの?」
蒼天の顔は寒さのせいか強張っているようだった。由衣からあんなことを言われると、蒼天と話すのに少し抵抗を感じてしまう。
「愛花の好きな人って、健太?」
「…は?」
あまり大声を出さずに蒼天をそこら辺の椅子に座らせる。
「…とりあえず、どうして?」
「泉が、言ってたから」
泉ー!まじであいつ…。これだから教えたくなかったのに。きっと今の私は修羅のようだろう。
「…それで、ほんと?」
蒼天はこういうところがある。何か聞き出したい時とか、やってほしいことがある時とか。こんな顔をする。好きな人がいない女子じゃあ、オチてただろうなあ。
「えーっと。…誰にも、言わないでね」
「…うん。言わない、誰にも」
「…あってるよ」
「そっか」
なんとなく居た堪れなくて、この場から逃げようとした。何かが私の袖をひいてひき止める。
「…蒼天?」
「もうちょっと、話さない?…朝ごはん食べるまで」
「…いいよ?」
年表をなぞるようにゆっくりと、初めてあった日からお互いの最近まで沢山話した。口に出して、人に話すことで、自分のことを客観視できた気がした。沢山、笑った。
「それじゃ、時間だから。またね、蒼天」
「…うん。愛花、また遊ぼうよ」
「…みんなでね」
由衣や恋ちゃんに見られてはいなかっただろうか。そんなことを考えている時点で蒼天に失礼かもしれない。でも、これが私なりの「ありがとう、ごめんね」だから。私は、蒼天を異性とし
て見れない。見たくない。
「それでは、ここからは自由行動です。各自、くれぐれもこの地域から出ないようにしてください。集合時間から十分以上遅刻した場合、迷子とみなします。それでは、楽しんでください」
いろんな人たちが嬉々とした千鳥足で散らばっていく。私は由衣、優香と回る予定だ。恋ちゃんは、南と親睦を深めたいらしい。
「あ、愛花いたいたー!」
「よし、じゃあ全員揃ったし行くか」
「そだね、みんなどこ行きたい?」
三人でマップを囲って計画を立てていると、声がした。
「愛花達、一緒に回らない?」
「蒼天。…あ」
蒼天のウィンクを見て気づいた。健太がいる。
「私たちはいいよん。ね、由衣と愛花?」
「優香…。泉と回りたいのね?」
「え、だ、誰もそんなこと…」
「そっか、じゃ俺らはでえと行ってくっからじゃーな。いこ、優香」
「ちょ、勇太ー」
「優香が連行されてった」
「じゃ、俺らは四人で回る?」
「いいんじゃね?佐藤は?」
「え、ああ。いいよ」
「石田は?ごめんね勝手に合流しちゃって」
「いや、全然いいよ」
ひゃー。健太と回るとは思ってなかった。
「よし、それじゃどこ行くどこ行く?あ、俺佐藤とどっか行こうか?」
「蒼天?いいから、別に」
「へーい」
あーあ、蒼天がそんなこと言うから由衣が顔真っ赤。ま、いっか。
「の、野沢なんでそんなはしゃいでんの?」
あ、持ち直した。
「逆に聞こう、なぜはしゃがない?」
「確かに」
「佐藤も分かってくれたか。じゃあ、手始めにあの店行こう!」
「行くどー!」
蒼天と由衣が駆け出す。
「あ、二人とも、ちょっと待って…」
二人を追って、足をかけ出す。何か、落ちてたのか、私の視界は急降下する。
「いったあ…」
「石田!?大丈夫?血、出てない?おーい蒼天と佐藤?って、いないし」
一番痛みを感じる部位に視線を寄せる。よかった、血は出てないみたいだ。
「うん、ありがと。大ジョーブ」
「そ?立てる?」
「うん」
手を砂利だらけの地面について下半身を起こそうとする。
「…もしかして、動かない?」
「いや、力が入んないだけで多分、いける…」
「あー待って!また体倒れそうになってる!て、掴んで!」
「え?あ、ありがと」
手を取る。目が合う。目を逸らす。健太がもう片方の手で顔を、隠す。やめてよ、勘違いすんじゃん。
「いや、ごめん流石にキモいよな」
「え、あ、いや」
「距離考えるわ…」
「…」
「ほんと、ごめん」
「いやじゃ、ないよ。私は」
健太が顔を覆っていた手を退けて目を合わせる。
「…健太って、よんで良い?」
「え」
「あ、いや別に。なんでも無い」
「…いいよ、愛花」
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