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青夏(せいか)
決意
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運動会という大行事が終わってみんなが一息つき、肌寒くなってきた頃。珍しく図工の授業が行われた。みんな、久しぶりの図工でテンションが上がっていた。
「はい、今日は電動ノコギリを使って気を切ってみようと思います。電動ノコギリはセットするのが大変なので誰かに手伝ってもらってセットしてください」
一人一枚1平方メートルくらいの木の板が配られた。今日の授業内容は、木の板に絵を描いてその絵に合わせてきる。というものだった。
…私図工に向いてないのかもしれない。先生の説明を一言も逃さずに聞いていたのに、実物を見ると何が何だか全くわからない。しょうがない。由衣にやってもらおう。由衣は図工などの芸術的な?作業が得意だったはず。由衣の作業している席に行くと、由衣が切り終わった木の板を抱えていた。由衣の切った絵はクラゲの絵で、どうやったらそんなに綺麗に切れるのかわからないほど曲線が綺麗だった。
「ねえ由衣。でんのこセットしてくれない?」
「いいよー刃曲がっちゃった?」
「…いや?まだ何もしてない」
「ん?…あ、残念だけど私セットは専門外なんだよねー」
由衣は少し周りを見渡してからそう答えた。その後、一気に体を回転させて口を開いた。
「ね、山野。山野っ見たでしょ?私のあのセットの仕方!」
「あれは酷かった。何もしてないのに、下にセットしようとしただけで刃が曲がってた。…あれはむしろ握力が強すぎるせいなのでは?」
「すっごい失礼なこともちょーっとだけ聞こえた気がするけど、できないからさー。あ、そうだ山野。あんたがセットしてあげなよ」
由衣は私にどやっとして私が使っていたでんのこ台を指さした。
「いいよー何ができないの?」
「…実は全部できない」
由衣ー!嬉しいよ?嬉しいけど、心臓が鼓動の速さについてこないってー!
「おっけ、俺やるから、次から直せるように見といて」
「あ、ありがとう」
こういう時も配慮を忘れない健太…さすがだな。健太がせっせと作業をしていると、後ろを向いた。
「ねね、石田。刃セットしたいから上押さえておいてくれない?」
でんのこは上としたで刃をセットしなくてはいけないので上から抑えなければいけない。私はあまり邪魔にならないように息を殺してでんのこに近づき、上から押さえた。すると、健太が手を重ねてきた?!私は状況が理解できず、硬直していた。十秒ほど硬直していると、健太が刃のセットを終わらせ、ようやく気づいたらしく、光の速さで手を離した。
「ご、ごめん!あまりにも静かだったから、気づかなくて…うわー俺、女子の手に触れてたのにそのままにするとか変態かよ…ほんとごめん!」
「え…うん。大丈夫だよ」
どうせなら、思いっきり照れてくれたらいいのにな。なんて高望みしてしまった。まだ健太の手の感覚が残っている。うわー、今日、手洗えないな。
健太にお礼を言うと、毎回恒例になってきてるニヤニヤ顔で由衣が待ち伏せしていた。
「良かったねー!」
「…何が?」
多分、さっきからずっと顔は真っ赤だろうけど、ここまできたらしらっばっくれよう。
「なんかあった?ハプニング的なやつ」
「…無かった」
あの思い出を誰にも共有したくなくて、嘘をついてしまった。あの時間だけは、ふたっりきりのものにしたくて。その日は放課後まで顔が赤かった。
ようやく落ち着いてきた放課後、由衣が聞いてきた。
「で?これからどうするの?愛花」
由衣と二人で遊んでいると、由衣が一体いつになったら行動するんだ…と言わんばかりの顔で聞いてきた。
「え…どうするも何も今更私が行動したって入る隙なんてない気が…」
本当に、この約二ヶ月で嫌と言うほど思い知らされた。きっと、健太が私を好きになることなんて、無いんだろうと。すると、由衣の顔がクワっと開いた。
「何をおっしゃい!最近いい感じでしょーが!そりゃ、山野は恋ちゃんが好きかもしれないよ?でもそれは、愛花が諦める理由になる?ならないよね?!それに、全世界のカップル元から二人とも両思いだったなんて事なかなかないんだからね?恋愛は、どちらかがその人に好きになってもらおうとしてできた賜物であり一生物!そんなすぐに手に入ってたまるかあ!確かに好きな人が友達に告白してたら辛いでしょーよ!私なら引きこもってる!」
由衣があまりにも早口で語るので混乱してしまった。由衣、こんなに滑舌良かったんだ…でも、確かに…
「由衣って、たまに名言ぽろっと出すよね」
「『たまに』だけいらないかなー?」
「でも、行動するって言ったって、どうしたらいいんだろう…健太は恋ちゃんにメロメロなわけだから、私が例えばだしやら無いけど抱きついたりでもしたら、気持ち悪がられるのは目に見えてるでしょ?かといって特別感のないアピールは意味もないし…」
「ふっせっかく山野と同じ班にしたのに忘れてもらっちゃ困るよ?一年生への読み聞かせがあるじゃん!読み聞かせる時以外の打ち合わせとかは、私と夕陽で小田抑えてるから、たくさん話しかけてきな!ちょっと早めのクリスマスプレゼントだよ」
「ほんと!?…なんか気恥ずかしいけど、お願いしようかな…」
「それはそうとしてどうするの?これからの方針は?」
由衣が通常運転のにやけ顔で聞いてきた。
「もちろん!好きになってもらうように努力する!…由衣、その顔どうにかできない?」
「私、嬉しいよ。愛花がこんなに早く成長してくれるなんて…」
「ノーモア保護者面!」
なんか、恋ちゃんや優香もそうだけど、私こんなに応援してもらえるなんて幸せものだな。少し前の私なら、好きな人を打ち明けることでこんなに心が軽くなるとは思ってもいなかったな。…お祭りの時の傷はまだ癒えてはいないけど、いつか健太と…付き合えたらいいな。
「じゃあ今度の秋祭りも、前のメンバーで行こっか」
…ん?
「はい、今日は電動ノコギリを使って気を切ってみようと思います。電動ノコギリはセットするのが大変なので誰かに手伝ってもらってセットしてください」
一人一枚1平方メートルくらいの木の板が配られた。今日の授業内容は、木の板に絵を描いてその絵に合わせてきる。というものだった。
…私図工に向いてないのかもしれない。先生の説明を一言も逃さずに聞いていたのに、実物を見ると何が何だか全くわからない。しょうがない。由衣にやってもらおう。由衣は図工などの芸術的な?作業が得意だったはず。由衣の作業している席に行くと、由衣が切り終わった木の板を抱えていた。由衣の切った絵はクラゲの絵で、どうやったらそんなに綺麗に切れるのかわからないほど曲線が綺麗だった。
「ねえ由衣。でんのこセットしてくれない?」
「いいよー刃曲がっちゃった?」
「…いや?まだ何もしてない」
「ん?…あ、残念だけど私セットは専門外なんだよねー」
由衣は少し周りを見渡してからそう答えた。その後、一気に体を回転させて口を開いた。
「ね、山野。山野っ見たでしょ?私のあのセットの仕方!」
「あれは酷かった。何もしてないのに、下にセットしようとしただけで刃が曲がってた。…あれはむしろ握力が強すぎるせいなのでは?」
「すっごい失礼なこともちょーっとだけ聞こえた気がするけど、できないからさー。あ、そうだ山野。あんたがセットしてあげなよ」
由衣は私にどやっとして私が使っていたでんのこ台を指さした。
「いいよー何ができないの?」
「…実は全部できない」
由衣ー!嬉しいよ?嬉しいけど、心臓が鼓動の速さについてこないってー!
「おっけ、俺やるから、次から直せるように見といて」
「あ、ありがとう」
こういう時も配慮を忘れない健太…さすがだな。健太がせっせと作業をしていると、後ろを向いた。
「ねね、石田。刃セットしたいから上押さえておいてくれない?」
でんのこは上としたで刃をセットしなくてはいけないので上から抑えなければいけない。私はあまり邪魔にならないように息を殺してでんのこに近づき、上から押さえた。すると、健太が手を重ねてきた?!私は状況が理解できず、硬直していた。十秒ほど硬直していると、健太が刃のセットを終わらせ、ようやく気づいたらしく、光の速さで手を離した。
「ご、ごめん!あまりにも静かだったから、気づかなくて…うわー俺、女子の手に触れてたのにそのままにするとか変態かよ…ほんとごめん!」
「え…うん。大丈夫だよ」
どうせなら、思いっきり照れてくれたらいいのにな。なんて高望みしてしまった。まだ健太の手の感覚が残っている。うわー、今日、手洗えないな。
健太にお礼を言うと、毎回恒例になってきてるニヤニヤ顔で由衣が待ち伏せしていた。
「良かったねー!」
「…何が?」
多分、さっきからずっと顔は真っ赤だろうけど、ここまできたらしらっばっくれよう。
「なんかあった?ハプニング的なやつ」
「…無かった」
あの思い出を誰にも共有したくなくて、嘘をついてしまった。あの時間だけは、ふたっりきりのものにしたくて。その日は放課後まで顔が赤かった。
ようやく落ち着いてきた放課後、由衣が聞いてきた。
「で?これからどうするの?愛花」
由衣と二人で遊んでいると、由衣が一体いつになったら行動するんだ…と言わんばかりの顔で聞いてきた。
「え…どうするも何も今更私が行動したって入る隙なんてない気が…」
本当に、この約二ヶ月で嫌と言うほど思い知らされた。きっと、健太が私を好きになることなんて、無いんだろうと。すると、由衣の顔がクワっと開いた。
「何をおっしゃい!最近いい感じでしょーが!そりゃ、山野は恋ちゃんが好きかもしれないよ?でもそれは、愛花が諦める理由になる?ならないよね?!それに、全世界のカップル元から二人とも両思いだったなんて事なかなかないんだからね?恋愛は、どちらかがその人に好きになってもらおうとしてできた賜物であり一生物!そんなすぐに手に入ってたまるかあ!確かに好きな人が友達に告白してたら辛いでしょーよ!私なら引きこもってる!」
由衣があまりにも早口で語るので混乱してしまった。由衣、こんなに滑舌良かったんだ…でも、確かに…
「由衣って、たまに名言ぽろっと出すよね」
「『たまに』だけいらないかなー?」
「でも、行動するって言ったって、どうしたらいいんだろう…健太は恋ちゃんにメロメロなわけだから、私が例えばだしやら無いけど抱きついたりでもしたら、気持ち悪がられるのは目に見えてるでしょ?かといって特別感のないアピールは意味もないし…」
「ふっせっかく山野と同じ班にしたのに忘れてもらっちゃ困るよ?一年生への読み聞かせがあるじゃん!読み聞かせる時以外の打ち合わせとかは、私と夕陽で小田抑えてるから、たくさん話しかけてきな!ちょっと早めのクリスマスプレゼントだよ」
「ほんと!?…なんか気恥ずかしいけど、お願いしようかな…」
「それはそうとしてどうするの?これからの方針は?」
由衣が通常運転のにやけ顔で聞いてきた。
「もちろん!好きになってもらうように努力する!…由衣、その顔どうにかできない?」
「私、嬉しいよ。愛花がこんなに早く成長してくれるなんて…」
「ノーモア保護者面!」
なんか、恋ちゃんや優香もそうだけど、私こんなに応援してもらえるなんて幸せものだな。少し前の私なら、好きな人を打ち明けることでこんなに心が軽くなるとは思ってもいなかったな。…お祭りの時の傷はまだ癒えてはいないけど、いつか健太と…付き合えたらいいな。
「じゃあ今度の秋祭りも、前のメンバーで行こっか」
…ん?
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