青夏(せいか)

こじゅろう

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青夏(せいか)

私が好きな人

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「あっつい!」
 今日の最高気温は、39度を超えるって、かわいいお天気アナウンサーが言ってた。 
世間的に言う猛暑日というやつ。最悪だ。ありがた迷惑なことに、私は主人公席、つまり。一番日に当たりやすい席で身を焼かれながら、楽しくもない授業をお経のように聞かされているのだ。私を焼き鳥にでもしたいんだろうか。

 今の私は、アイスの気分なのに。あ、でもアイスよりシャーベットの方が今は気分だな。食べるなら、ジメジメしてるし。爽やかなレモンとか食べたい。今、頭の中はシャーベットの誘惑に負けそうになっている。空からシャーベットが降ってきたりしないだろうか。シャーベットが降ってきてくれたら、シャーベットも食べれて、さらに体がベトベトになるから合法的にお風呂にも入れてサッパリできる。一石二鳥じゃん。でも、きっと、天と地がソーラン節踊ってもありえないから期待はしないでおこう。私は、レモン味のシャーベットが降ってきても、溶けてしまいそうな青空に「レモン味のシャーベットを振らせてください」と、願うように天を仰いだ。
 



 暑さで溶け出しそうな青空を見つめていたら、ようやく、我に帰った。こんなにぼやーっとしていられない。なぜなら、残り数日で、小学校生活最後の一学期が終わって夏休みが始まってしまうのだから。それは、好きな人に会えないことを意味する。友達なら気軽に遊びに誘えるのに、好きな人を誘うとなったら、話は別だ。第一、誘う勇気なんて、私は持ち合わせていない。何か口実でもあればなあ。みんなとも遊べて、尚且つ好きな人とを見るだけでいい、同じグループとして一回でも行動できたら。そんな魅力的なイベントが私を招待してはくれないだろうか、けれど、残酷なことに、どれだけ待っても魅力的なイベントが相手から誘ってきてくれることはないから、自分でどうにか足掻くしかない。
 
 ちなみに、私の学校は修学旅行が三学期にあり、運動会は二学期にある。なので、一学期には申し訳ないが。正直、かなりつまらない。強いて言えばようやく、社会科見学があると言うぐらいだ。この一年は、二、三学期にあるようなものだと、正直な話、思っている。二、三学期の待ち遠しさと、暑さのダブルアタックで更に憂鬱になってしまった。

 こんなに憂鬱な気分でも、先生がロボットのように黒板でチョークを削りつけ、お経を唱えている間は、暑さに耐えながら、黒板をひたすらコピーする作業を繰り返すしかないのだ。私はこの作業がものすごく嫌いだ。というか、好きな人なんていないだろう。だって、コピーするだけなら、字が書ければ誰だってできる。本当に勉強を身につけて欲しいなら、最初に解説をして、理解したか確認する為に問題集やら、テストやらやらせればいいじゃないか。この意味を見出せない作業を私は、黒板を見て、ノートに字や図を機械のように書く。その後好きな人を眺め、(もちろん、みんなにバレないよう顔の向きで)一呼吸してからまた、黒板に目を向ける。この作業を繰り返すことで、この地獄の時間を耐え切ることができるのだ。たまに、ずっと好きな人を見て一限を過ごしてしまい、友達のノートにお世話になる事がある。
 

 ちなみにだが、私の好きな人の名前は山野健太という。同じクラスの特に顔がいいというわけでもないし、運動神経抜群というわけでもない。言ってしまえば、白馬の王子様とはかけ離れた人物。そんな彼をなぜ好きになったのか、多分需要はないが、一応、説明しておこう。
 多分、気になるようになったのは三年生の時だ。
放課後に公園で友達と遊んでいたら、健太が公園の前を通ったので、その流れで健太の話題になった。その時に、友達が「そういえば、山野って、愛花のこと好きらしいよ」
と言われてから、健太のことを意識しだしてしまったのだ。
 

 今思い返してみれば、一時の噂に過ぎない。なのに私は、その噂だけで、健太が気になってしまったのだ。なんて自分は単純なのだろうか。思い出す度に、声にならない悲鳴をあげ、頭を抱えている。自分はなんて単純なやつなんだろうと、でも、今健太が自分のことを好きだろうが、好きじゃなかろうが、私は、健太のことが好きな気持ちは全く変わらない。
 現実から目を背けるように、健太が座っている前の席を見ると、健太と由衣が話している。私は最近健太が友達の由衣の事が好きなのでは?と思っている。由衣は、初対面の人には、猫をかぶってしまうが、一度気を許した相手には、少し大雑把なのだ。
健太は、少し大雑把くらいな子が好きらしい。もしかしたら、両思いなのではないか?と、自分の中で仮説が浮上しているのだ。考えただけで頭痛がしてくる。嫌な事を考えている時は、体が地面にめり込むような気分になってしまう。考えるのをやめよう。今は、授業に集中するしかない。後で由衣に聞いてみよう。健太が好きなのか。
 

 ひたすら授業に集中していたら、思ったより早く終わってくれた。だからといってこれからも集中するつもりはないが。
私は、早足で由衣の席の近くに駆け寄る。
「あのさ、由衣」
「あ、愛花。ちょうどいいところに!一緒に図書室行かない?借りてた本読んでたら、返すの忘れちゃっててさー」
由衣の悪い所は人の話を最後まで聞かずに返事をしてしまう所だ。まあ、そんな大雑把な所を健太は気に入ってるんだろうけど。
「あ、いいよ。私も返したい本あったし」
図書室に行く途中で聞こう。本を取りに自分の机に向かっている途中。さっきの光景がフラッシュバックしてしまった。憧れるなあ。私だって、由衣みたいに、話がしたい。
 

 ふと、空を見上げると、曇ってきていた。雨が降るのかもしれない。
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