ヒトの世界にて

ぽぽたむ

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17話 【艦上国—コルキス—】

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 7月1日 アストラノートリーダー ディータの調査帳(半分は日記)から抜粋。

 コルキスに救出されてから一週間近くが経過した。
 その間アルゴナウタイはコルキスの港の一部を借りて修理中、とは言え修理はなのましんとやらが勝手にやっているのでワシらにやる事は無い。
 ならワシがアルゴナウタイで日々何をしているかと言われると、驚くほど何もしていない。
 コルキスの上に滞在している以上遺跡に行くこともないしワシは朝起きてご飯食べて本を読んだりレアとじゃれあったり勉強を教えているだけだった。
 他の人はどうしているのかというと意外とワシ以外は忙しそうにしている。
 レアはワシから出された宿題をしっかりやっている、最近性教育を検討しているが話題に出すと直ぐに顔を真っ赤にして逃げてしまう。
 あ奴無防備な癖に妙に初心なんじゃよな。
 クラトスはコルキスに親戚が居ると言って留守にしている、夜に帰ってきている所を見るとまだ親戚には会えてないらしい。
 レアが事情を聴いた所、親戚の一家が三か月前何者かに殺害されて息子が行方不明だというのを聞いたそうでその調査をしているのだという。
 コレ―はタロスを街の技術者に見せたら意気投合して鍛冶屋に入り浸っている。
 なにやら怪しい武器を作っているとか聞いたがあんな爆弾を見た後で何故そんな事ができるんじゃろうか。
 トリトは海の怪獣と戦って路銀を稼いでいる、今はぺレウスやイアソンから貰ったお金があるので困窮はしていないがいざという時の為に必要だしトリトも体を動かしてないと鈍る、と言っていた。
 そんな中ローデは何をしているのかというと――

「ア、アルゴナウタイ発進です! ……え、えへへ」
「……なぁにをやっておるんじゃお主は」

 ディータが艦橋に入るとローデが楽しそうに、何時もアレスが立っている場所で腕を振っていた。
 まるで自分が船を動かしている様に遊ぶ子供の様に。

「……あ゛」
「そんな帽子まで買ってきて……」

 彼女の頭には大きいブカブカのバイコーン帽を被って、腕を前に突き出したまま固まるローデはどんどんと顔を真っ赤に染めていく。
 前から人の目を盗んで遊んでいたのだが人に見られるのは初めてだった。

「あ、あぁ……あう、あうぁうぅ……」
「ま、まぁ程々にするんじゃよ……? うん、お主なんかコルキスに来てから妙に浮かれておるが……」

 そういえば一番読んでいる自伝の作者がこの国の王なのだと聞いた事があるのだがそれが関係してるのかも知れない。
 そうだとしても今はそんなにはしゃいでいる場合ではないのだが。

「ご、ごめんなさい……」
「嫌良いよ、コルキスからはしっかり自由時間を与えられているんじゃし……」
「……自由時間ですか、アレスさん。大丈夫でしょうか」
「解らぬ……旧人類と関わりがあるから、と逮捕されてしまってもう一週間じゃしなぁ」

 ため息を吐いて何時もアレスが座っている指揮官用の椅子にディータがちょこん、と座る。
 ディータも暇つぶしとはいえ、一応予定があって艦橋に来た。
 その目的は——

「ほれ、起きぬか」
『最初から起きてますよ、そもそも私達AIに睡眠という概念はありません。今日はどんなお話をご所望ですか? ディータさん』

 指揮官用の椅子に一番近いモニターが仄かに光ると男性の様な声が聞こえる。
 この声はアレスの中に入っていたAIでアレスが逮捕される前にアルゴナウタイの整備を任せるために残したものだ。
 その事もアレスから聞いており最近はディータやローデの話し相手になっている。

「今日は何か話を聞く気分じゃないわい……なんと言うか、愚痴の言い合いじゃな」
『愚痴、ですか?』
「だって今日で一週間じゃぞー? あれからどうなったのかをコルキスは教えてくれぬし、ひたすら待機命令を置かれている状況なんじゃぞ?」
「そういえば、何も進展が無いですよね……」

 正直な所、暇で暇で仕方ない。
 アイギーナからの信書を渡して仕事を終えたので次の仕事を探すべきなのだがディータの仕事は遺跡の探索とその探索結果を解析し見識を広める事である。
 コルキスは今の人類が作り上げた最前線の技術だ。
 武器も防具も魔法も遺跡も、あらゆる分野がこのコルキスで研究され各地に送られる。
 特に怪獣の被害が凄まじいオリュンポスには優先して最新の道具が送られるらしい。

『ふむ、確かにアレスの動向はこちらでも確認できませんね。通信を送ることも可能ですが会話が可能かは解りません』
「――え?」
「え? なんじゃって? 通信で会話できるのか?」
『……言ってませんでしたっけ?』
「「言ってない(です)!!」」

 若干気まずそうに答えるAIに二人の声が重なった。



「……ん?」

 冷たい鉄格子の内側でアレスが顔を上げる。
 ここはコルキスの地下牢、アレスは逮捕されて以降ずっとこの地下牢で大人しくしていた。
 時々旧人類に対しての質問がきたがアレスとて今の旧人類の事を知っている訳ではない。
 仕方ないとはいえ上手く強力できてないのでこんな所で座り込んでいる。

(……通信? なんだ?)
『おや、繋がりました』
『アレスーーーー!! お主何やっておるんじゃー!?』
『無事なんですかー!? 何処に居るんですかアレスさーん!!』

 反射的に頭が右に仰け反る、アレスの通信システムには爆風の中でも人の声が聞き取れる様に大音量をカットするシステムが自動で組み込まれてるのにそのシステムを貫通してきた。
 何事かと通信音量を30%までカットする、よく考えたら人の声をカットするシステムでは無いのだから大音量で騒がれては関係ないのだろう。
 なんだこのシステム案外使えないな、と500年前の最高傑作の技術に心の中で悪態をつく。

(……なんだ? どうしたんだ?)
『何がなんだ? じゃ!? お主一週間も連絡せず何してたんじゃ!?』
『そうですよ! 私達もずっと待機してて何も動きが無いんですよ!?』
(あー……そうか、すまん。連絡は入れるべきだったな。俺の方は特に動きはない、Dr.ウェヌス達の事は俺にも解らないことが多いから俺からもうまく説明ができなかったんだ)
『ぬぅ、まだ帰ってくることはできぬのか?』
(そうだな、何時帰るのかは解らない……)
『そうでしたか……早く解放されると良いんですけど』
(あぁ、俺もアルゴナウタイが恋しい位だ……)

 二人の声を聞いて自然と頬が緩みそうになる。
 頬が緩みそうになった事で、アレスはアルゴナウタイを恋しがっている事を自覚した。
 アルゴナウタイを、というより何だかんだ皆といるあの空間が恋しい、と。

「……ん?」
「そう! ここにいるお人に会いたいの!」
「だ、ダメですって!? 危険な旧人類なんですよ!?」
「危険ならとっくに暴れてるでしょう!? あのお人は一週間も大人しくしているのよ!? だから平気でしょホメロス! 元々アイギーナ国の親書があったのですからこの行為自体が不当ですよ!?」

 よく響く女の子の声と困惑する男性の声が聞こえる。
 ホメロスと言われた男性の声はアレスも知っている、臆病だが仕事熱心なエンスの若者でこの地下牢の看守だ。

「居ました! 貴方がアレスさんですね!? ワタシはキルケー、コルキスのプリンセスよ!」
「あ、あぁ……そうか、プリンセスか」
『なんじゃ? 急に会話が途切れたぞ?』
『何かあったんですか?』
(……キルケーが、コルキスのプリンセスが会いに来た)
『『え? えええええええ!?』』

 レアより一回り小さなエンスの少女、キルケーが満面の笑みで牢屋の前に立っていた。



「じー……」
(……見られている、凄く見られている)

 海の見える個室でキルケ―にじっと見つめられていた。
 この個室はどうやら客間の様で、アレスはソファーに座っておりその向かいにキルケーが座ってこちらを見ている。
 ソファーの間にはテーブルが置いてありテーブルの上にはコルキスが纏めてある様々な資料が置かれている。
 流石にずっと見つめられるのは話にならないので。

「……あー、何故、そんなに見てくるんだ?」
「いえ、たんれーな方だなぁ、と思って」
「……たんれー?」

 たんれー、端麗。
 アレスの顔立ちは確かに整っている、というべきだろう。
 ディータやローデ、レアに初めて出会った時にもそういう風に言われてきた。
 しかし、アレス本人にそんな自覚は勿論無い。

「俺の顔はパーツの一種だ、だから端麗と言われてもな……」
「パーツと言われてもたんれーなのですから! しかしこのままでは話が進まないわね……えっと先ずは、貴方の話を書き記した資料を拝見したのですけど……」
「あれを読んだのか?」

 アレスが捕まった時にこの国の軍に色んな話を聞かれた。
 聞かれたことにアレスは正直に答えてきたのだが勿論その全てを信じてもらえた訳ではない。
 自分の事を、アルゴナウタイの事を、そして仲間達や旧人類の事を全て話した。
 しかし正直に話しすぎたのだろう、自分がロボットであることやアルゴナウタイの事、そして島を消し飛ばしてしまった核兵器の事を正直に話しても受け入れてもらえなかった。
 その時に聴取記録としてアレスの言ったことをメモしている者が居たがそのメモを見たのだろう。

「とーぜんです! 解らない事ばっかりだったけどお話を聞きに行く以上はさいてーげんの知識を得ておくべきだし……この国の為に旧人類の事は一つでも多く知っておきたいのです。勿論ここで聞いたことは後で国できょーゆうします」
「……成程な」

 自信満々に答えるキルケ―の言葉に頷く。
 彼女がプリンセスと言われその資格があると自然と理解できた。
 動作の一つ一つは年相応で雰囲気もレアより幼いのにその行動は不自然と言っていいくらい大人びている。
 しかしそれは彼女がプリンセスとして生きていこうと意識しているからだろう、自分の立場を自分で理解しているとても大人びた少女だ。

「なら俺もしっかりと話さないといけないな。解らない所があれば聞いて欲しい」
「はい、股聞きでは理解できない部分も沢山あったし。お願いします」

 旧人類に対しての理解は今の人類が認識しなくてはならない課題だろう。
 科学知識に関しての差が大きい、アレスの経験上旧人類が戦艦を保有しているであろうことは確信している。
 あの戦艦の中に入って白兵戦を仕掛ける前段階の状況で今の人類が勝てる手段が見えてこない。
 怪獣と戦うのとは大きく違う、このコルキスは戦艦ではないので旧人類の乗る戦艦に襲われれば一溜りも無いだろう。
 怪獣撃退用の武器はあるらしいがその武装が通用するとはとても思えない。

「先ずは、そもそも俺たちの科学技術についてなんだが……」

 旧人類が何を考えて今の人類に戦争を仕掛けるのかは解らない。
 しかし何処からかヒントを得ることができるかも知れない。
 何かの光明を得るために、二人はお互いの意見を交換するのだった。



「なるほど……旧人類の目的は今も解っていないんですね?」
「ああ、俺としては機械化改造を受けてまでも生きている理由が解らない程だ」
「……ふろーふしが目的なのでないのですか?」
「無いとは言い切れないが……俺が出会ってきた旧人類の人々は何か目的があって動いている様な感じだった」

 今まで何回か旧人類と出会ったことがあったがその誰もが明確な目的を持って動いていた。
 武器の商売をしていたディアナ。
 怒りに任せていたが何かを探していたマルス。
 何かの仕事を請け負ってマリオンを壊そうとしていたポイボス。
 遺跡の奥に眠るデータを回収していたヴァルカン。
 そして――

「アレスさんを作ったウェヌスさん、という旧人類は旅をしながらお医者さんをしているのね?」
「そうだ、まとめてみるとどうにも全貌が見えないな……」
「……何よりもかいじゅーの闊歩する街や村の外を単独で、それも徒歩で移動しているらしいのも不可解です。かいじゅーに襲われないのかしら?」
「怪獣か、俺の作られた時代には存在してなかった……何処から来た、とかは解らないのか?」
「かいじゅーのせーたいは何も分かってないの。らんせーなのかたいせーなのかも不明なのです」

 怪獣というのが何処から来たのか、その答えを探している者は確かに存在している。
 しかしその答えは未だに何一つ解っていない。
 コルキスの資料には卵生胎生かすら不明、交尾や食事をしている姿すら確認されていない、と書かれている。
 ここまで何一つ解らない、となると逆に不気味である。
 ヒトを襲うのにその生態には生き物としての全てが欠けている。

「この資料は、オリュンポスの研究者が作ったと書いてあるが……」
「オリュンポスは大陸で最もかいじゅーの被害が多い場所です。怪獣のけんきゅーが最も進んでいると言っても過言ではないわ……でも解っている事は本当に少ないの」
「ここまで来るとヒトを襲う為だけに存在してるのかも知れない、と解釈されてすらいるな……」
「ヒトを、襲うだけの存在……そうなってしまうと、本当に解りませんね……この人のしりょーって他にある?」
「……いや、他には存在しないな。ドトス、この資料を書いた者だがこの資料を書いた後怪獣に殺されてしまったらしい」

 研究者である以上怪獣に襲われるのは日常的だろう。
 死体が残る訳でもない、全身に毒素を持っている、そんな怪獣の研究をするのは簡単な事ではない筈だ。
 よく見れば資料の一部には故人が作成したもの、という注釈があちらこちらに記載されている。

「……今は無理だが俺もオリュンポスに行ってみるべきなのかも知れないな。資料だけではなくこの目で確認しなければならない事が多すぎる」
「その時は是非、ワタシを連れて行って下さい。オリュンポスの王、アルケイデス様とお知り合いだからきっと役に立つわ」
「ああ、その時はよろしくたの――」
「うおおおい!? ここか!? キルケ―が旧人類のゴーレムと二人っきりになっている部屋はぁあああ!?」
「む?」
「あ、お父様」

 肩で息をしながらイアソンが部屋の中へ突撃してくる。
 イアソンからすればアレスは危険な存在と聞いており、その危険な存在が大事な愛娘と個室で二人っきりなのだ。
 そんな状況はイアソンからすれば居ても立っても居られないような状況だろう。
 しかしイアソンの慌てっぷりとは裏腹にアレスやキルケ―の対応はきょとんとしたものだった。

「な、何だ!? おい何が起こってるんだ!? キルケー! お前無事なのか!?」
「はい、今アレスさんと情報の交換をしていました」
「じょ、情報の交換……?」

 何の事かイアソンには解らない。
 しかしここから始まるのだろう、新人類が影に潜む旧人類と戦うためのスタートラインに立つ時が。



「ここか」

 アレスがキルケ―と共に怪獣の資料を見ていた時刻と同じ時、クラトスはある建物の前に立っていた。
 二階建ての建物でコルキスでは一般的な大きさとされている一見普通の家なのだが玄関前にある吊り看板にはこう書いてある。
 テミス探偵事務所。
 この探偵事務所はコルキスで起きる様々な事件を軍隊と共に解決してきた凄腕らしいのだが、今はとある事件を追っている。
 その事件とは――

(パラス一家殺害事件……父であるパラス、その妻テュクス、長女ニケが自宅で死亡しているのが見つかった、そしてニケの兄であるゼロスが行方不明……)

 親戚の家を最初に尋ねた時、パラスとテュクス、そしてニケが何者かに殺され家を焼かれていたことを近くに住んでいた人に聞いた。
 それからあちらこちらに事情を聴いて迷宮入りしかけているが、この事件を独自に追っている探偵事務所があると聞いて最初に親戚の家に訪ねてから一週間が経過していた。
 その一週間殆どアルゴナウタイを留守にしてしまいレアの勉強を見る事も無かったので、最近レアに拗ねられてしまった。
 今度の埋め合わせをしっかりしておくんだぞ、とディータにからかわれてしまったが手のかかる妹と言うのはああ言った感じなのだろう、と納得はしている。

「……甘い菓子の土産でも持って帰るか」

 物で機嫌を取りたくはないが埋め合わせの一つにはなるだろう。
 そんな事を考えながらドアをノックすると、直ぐに足音が聞こえ、いや待ってほしい少し足音が速い気がする、こういう足音の仕方をクラトスは知っている、子供が元気よく走っているタイプの足音だ。

「いらっしゃいまっせ~! 猫探しから怪異な事件まで! イディオスな探偵事務所、テミス探偵事務所へようこそ! 名探偵の! テミス~です!!」

 レアより少し年上でローデより少し年下だろうか、その位の身長の少女が元気よく飛び出してきてビシッとポーズを取る。
 ショートカットで見た目の少女的な容姿からは不釣り合いな豊満さを誇る胸部に目を引かれそうになるがそんな気分にならない程謎のポーズを極めている。
 勿論そのノリにクラトスはついていけない、テミスと名乗った少女がポーズを取ったままで沈黙がその場を支配する。
 どうしたものか、と目線を泳がせていると。

「あ~テミスちゃん? お客さん固まってるし取り合えず中で話し聞いてもらえば? お客さんこっちこっち」
「うっす」
「あ、あぁ……失礼する」

 奥にいた大柄の魔族が手を振っている、コートを着ているウェアウルフの男性だ。
 ウェアウルフの男性に言われるとテミスはようやくポーズを解いて部屋の中へすごすごと歩いていく。
 探偵事務所に入ると四人分の目線がクラトスに向けられる。
 一人はテミス、この探偵事務所の探偵らしいがその姿はレアより少し年上の位の子供だろう、しかしクラトスの体面に座っているのでこの子が探偵なのだろう。

「えっと、わたしはエポニム。一応この探偵事務所の経理担当だよ」

 二人目はエポニム、先ほど案内してくれたウェアウルフの男だ。

「護衛担当と潜入担当は今出かけちゃってるんだけど……とりあえず話しは聞くよ?」
「あ、あぁ……パラス一家殺害事件についての話しが聞きたい、親戚なんだ」
「パラス博士の親戚? あ! クラトスさんですか!?」
「……調べてあるのか?」

 手帳を開いたテミスがパラパラとページを捲りながら答える。
 あっさりと自分の名前を言い当てたテミスに少なからず驚く。
 幼い見た目だが、その見た目で判断しない方がいいのかも知れない。

「当然、パラス一家殺害事件は今あたしが追っている重要事件、事件の背景に大きなものが何かあるって思って調べてるけど……」
「パラス叔父さんはこのコルキスで歴史の研究をしていた筈だ」
「そうだね、パラス博士は歴史研究の権威でコルキスでも最先端の研究者だ……」
「あぁ、パラス叔父さんは過去の戦争の事を調べていた。オレも手伝いで過去の地質捜査で過去の戦争の事を調べていた事もある」

 クラトスが調べていた地質調査は過去に何らかの毒素を含む地質を調べてそれがばらまかれた戦争があったかも、という想定を元にした調査だった。
 結果、アレスの言葉もありこの想定は合っていた事になる。
 毒素、放射線を含む地質の調査は放射線の知識が無いのなら風土的な地域性の毒素をかと最初は予想されていたが、三国の地質、水質捜査により全て同じ毒素を検出し、それが人の作った毒素であると想定された。
 そうした結果過去に戦争があったのでは、と予想がされていたのだが。

「なるほど、では此方の情報を一つ。恐らくだけどパラス博士が生前何か大きなモノを見つけていた、というのは知ってる?」
「大きなモノ、だと?」
「これはまぁ、テミスちゃんとわたしの予想なんだけど……パラス博士は何か重要な情報を手に入れてしまった為に殺された、という予想なんだ」
「……事情を知らなければ妄想の陰謀論にしか聞こえんが」
「勿論、そんな事探偵であるあたしがしません! これ、ちょっと見てください」

 そう言ってテミスが見せてきたのは一枚の写真だった。
 一枚目は体の大きなエンスのサイボーグの死体の写真、しかしサイボーグというより不気味な蜘蛛の様な特徴がありしかもその体格の大きさがかなりでかい。
 周りとの比較になるがおおよそ4メートル以上はある、大型魔族の2倍以上は大きい。
 
「これは?」
「最近このコルキスで暴れてる改造人だよ、これは改造人一号って便宜上呼ばれてる……」
「改造人は突然コルキスの何処かに出てくるの、コルキスは軍を持ってなくて治安警備隊が対処してたんだけど下手な怪獣より強くて被害が出まくってね。んでこの写真なんだけど」

 次に渡された写真は先ほど渡された改造人一号と戦っている何かの写真だった。
 白い全身鎧の様なものを着た身長175cm程の人物が蜘蛛のサイボーグと戦っている。

「便宜上この白い鎧は改造人二号、と命名されて。一号と戦って一号を倒すと何処かへ消えて行ったわ、それ以降は目撃情報がないの」
「これがパラス叔父さんとどう関係する?」
「まあまあ順序だてて説明するわ、最後にこの写真よ」

 三枚目の写真は燃える大きな家で撮られた様だ、蝙蝠の改造人と赤い全身鎧を着た人物が戦っている姿だ。
 改造人の体格はやはり大きく、赤い全身鎧は先ほど見た白い全身鎧に何処か特徴が似ている。

「蝙蝠の方を改造人三号、赤いのを改造人四号と名付けてるわ。現在改造人は十二号が確認 されて五号以降は全て四号に倒されてるわ……この四号何だけど、あたしは行方不明のゼロスさんだと思ってるわけ」
「ゼロス、だと?」
「えぇ、パラス一家殺人事件で唯一死体が見つかってないゼロスさん。彼が改造人と戦っている理由は解らないけどこの事件の真相を知っているかも知れない一人だわ」
「わたし達はその可能性を追って改造人四号の情報を追ってるんだけど、これが中々難しくてね。四号は最近なんかクリオスマギアーって名乗ってるんだけど」
「……なんか、変なポーズをとりながらか?」
「うん、よく解ったね」

 重々しい話をしていた筈なのに急に頭が痛くなる情報が流れ込んできた。
 そして同時にこの改造人四号がゼロスだというのをクラトスは確信した。

「ゼロスは昔からアルケイデス王に憧れていた、それで見栄を張るというか自分を鼓舞する為に変なポーズを取っているとか何とか……兎も角、オレの予想では改造人四号はゼロスだ」
「成程……しかしそうなると行方不明になっている理由も自ずと解ってくるわ。後の問題は……改造人が出てくる理由とか、何処で改造人が作られているのか、なんだけど」
「そこまでは調査が進んでいないのか?」
「こればっかりはねぇ、わたしちゃん達や国も調査してるんだけど何一つ解んない! そりゃもうミルクパズルの中に黒いピースが混ざってるくらい不自然にわっかんない!」
「そうなんだよぉぉぉ~……目の前に明確なグリフォスが置いてあるにも関わらず一切先に進めないのよぉ~」

 テミスがため息を吐きながら溶ける様に机に突っ伏す。
 探偵も停滞しているこの状況に辟易としているのだろう、謎を追っているにも関わらず不自然な点が雑に置かれているのにその不自然に手を伸ばそうとすると蜃気楼の様に遠ざかってしまう。

(成程……恐らくだが、その不可解に塞がれた部分は旧人類が関わっているんだろうな)

 少し、腹立たしいと思った。
 旧人類はこの謎が解ける筈がないと目の前に秘密箱を置いている。
 堂々と、新人類には自分の情報規制を突破できないだろう、と見下されているのだ。
 事実、テミス達は自分を探偵と言っているが、旧人類の持つ科学力は魔法より魔法として全ての証拠を消し去ってしまうだろう。

(……気に食わんな)
「少し、話を聞いて欲しい」
「はい? 何の?」
「何かを、知っているのかしら? あたし達よりも、何かを……」

 旧人類が今の人類と戦うと言うのなら、此方からも手を出すべきだ。
 戦いが既に始まっているのなら、水面下の情報で有利になるために奴らより早く何かを得るべきだ。
 此方が持っている手札は非常に少ない、旧人類は500年かけて揃えた手札がある。

「奴らも知っているが、お互いが共有するべき情報だ……オレ自身、まだ明確な情報は得てないが……それでも何かの切っ掛けになる筈だ」

 明かしてやろう、奴らの事を。
 教えてやろう、我々の事を。
 それだけで、それだけで変えられる筈だ。
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