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異国での決意
新しい決意
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ある高層な建物の最上階の大きなテラスに緑のドラゴン、ジュールは音もなく降り立った。周囲には全く俺たちの姿は見えていないようで手すりに留まっている鳥さえも気づいていない。
「…ここは?」
「俺んち…」
ばさり、と羽をたたんだジュールが答える。
そして全身が緑の光る粉のようなものに包まれたかと思うとそれは人型になる。
俺は…呆けたようにジュールを見た。
少し長めに伸びた緑の細く輝く髪、きれいな肌に高い鼻梁、大きめの金色の瞳、くっきりとした顔立ちの、それはそれは美しい男性が目の前にいる。
ドラゴン族は人の形をしていても美形だというけれど、ジュールはその中でもかなり美しいのではないだろうか。オスカーもカッコよかったけれど、彼はジュールより雄みが強かった。ジュールは中性的でもあるし、男性っぽくもある不思議な感じだ。
凍りついたように固まった俺を見たジュールは目を細めて微笑んだ。
「ようこそ我が家へ…どうぞ、温かい飲み物でも入れるよ」
窓を開けてテラスから部屋に入ると、シンプルで調和のとれたリビングだった。人気はなく、
どうやら独り暮らしのようだ。
「…独り暮らしなんだ、今は」
少し遠い目をしたジュールがキッチンへと進んで手を洗い、お茶の支度をしてくれる。
今は?
誰かと住んでいる気配はない。
「ごめんなさい…厚かましくて」
さっきまで見ず知らずだった俺がこんなところに転がり込んで、ジュールはどう思ってるんだろう、と思うと謝らずにはいられなかった。
「ふっ…シンは礼儀正しいな、いい子だ…。あんなところに独りでいたのって、辛いことがあったんだろう?シンを探してたあのドラゴンや人間達…仲間だよな?人間にしては尋常じゃない魔力持ってたけど」
「一瞬でわかっちゃうんだ…すごいな」
エリアスやフィリックスのことをそう言ったジュールに驚いた。
「竜騎士…だったんだ、あの二人」
「竜…騎士?」
ジュールが初めて聞いたような表情になる。
「へえ…シンもそれだったのか?使い魔のドラゴンがいる人間の存在は知ってる。王国に仕えると騎士になるから、竜騎士か…なるほどうまくつけたなその名前」
ジュールが笑う。そうか、竜騎士はあの国でそう呼ばれていただけで、外に出れば騎士ではなく魔力の強い人間ということになる。エリアスとフィリックスはそうなろうとしていたんだよな…騎士の名声も忠誠も捨て、俺のために戦おうとしてくれていたんだ。
なのに俺は逃げた。
「俺は誰かの人生を変えたりしたくないんだ…俺のために、輝かしい人生を先行き不安なものにしたくない、だから離れたの」
俺は自分に言い聞かせるように呟いた。黙って聞いていたジュールがつかつかと俺に近づいて、頬をぺちんと音がなる程度に押さえた。そのまま親指で俺の目の下をそっとなぞる。
「…くま、できてんぞ…」
ジュールの美貌がそっと息がかかるほど近づいてきて、ゆっくりと唇が重なる。
「…ジュール…恋人は?キスしたりなんていいの?」
「…いないよ。死別」
「ごめん…」
「いや、いいんだ、俺はドラゴン族、人間よりかなり長く生きてるんだからこればっかりは仕方ない。お茶を飲んだら風呂入って休め」
ジュールの優しさが何だか沁みる。
さっきのキスも優しい。冷たい俺の唇に少しだけ温かさが戻った。
「あの…お風呂と、お茶を頂いたらお暇するね」
「は?何で?」
「だって…ジュールは俺のこと知らないでしょ?」
浅く笑う俺にジュールが眉間を険しくした。
「さっき、キスしたから警戒してんのか?」
「へっ?いや別に…」
全然、そんなことは思わなかった。キスが優しすぎて逆に泣きそうになったくらい。
「びっくりしたよ…俺は昔、恋人から離れられそうになってな、そいつはシンと同じことを、言ったんだ…ドラゴンの俺に迷惑かけたくないって。そいつは勇者だったんだけど」
懐かしそうに、嬉しそうに恋人の話をして笑うジュールが切ない。
「勇者かぁ…すごいね、ジュールと組むなんてとても強い人だったんだろうね」
「うん、すごく愛してた」
「愛されてたんだ…なんか想像つくよ」
俺はそう言って笑いかけた。きっと、すごく幸せだったんだろうな。
「へえ、シンは俺の恋人はどんな人だと思った?」
いたずらっぽく笑うジュールに俺はありのままを答えた。
「背が高くて、すごくカッコよくて、筋肉モリモリのチートな勇者…?」
そのとたん、ジュールがものすごく楽しそうに笑った。呆気にとられていたけれども、次第に俺もつられて笑ってしまった。
「ははっ…それは想像にお任せする、シン、やっと笑ったな…。しばらく俺と暮らそう、出ていかなくていい」
ジュールは俺の髪を撫でて、そう言ってくれた。
エリアス、フィリックス…ラース…。ごめん、俺はここでしばらく独りで考えたいんだ。
これから、独りでもっと強くなるやりかたを考えなきゃ。自分で、自分の身を守れるように。
守ってもらわなくてもいいくらい強くなったら…いつか、また、会えるかな。
エリアス、フィリックス…ラース…大好きだから。
「…ここは?」
「俺んち…」
ばさり、と羽をたたんだジュールが答える。
そして全身が緑の光る粉のようなものに包まれたかと思うとそれは人型になる。
俺は…呆けたようにジュールを見た。
少し長めに伸びた緑の細く輝く髪、きれいな肌に高い鼻梁、大きめの金色の瞳、くっきりとした顔立ちの、それはそれは美しい男性が目の前にいる。
ドラゴン族は人の形をしていても美形だというけれど、ジュールはその中でもかなり美しいのではないだろうか。オスカーもカッコよかったけれど、彼はジュールより雄みが強かった。ジュールは中性的でもあるし、男性っぽくもある不思議な感じだ。
凍りついたように固まった俺を見たジュールは目を細めて微笑んだ。
「ようこそ我が家へ…どうぞ、温かい飲み物でも入れるよ」
窓を開けてテラスから部屋に入ると、シンプルで調和のとれたリビングだった。人気はなく、
どうやら独り暮らしのようだ。
「…独り暮らしなんだ、今は」
少し遠い目をしたジュールがキッチンへと進んで手を洗い、お茶の支度をしてくれる。
今は?
誰かと住んでいる気配はない。
「ごめんなさい…厚かましくて」
さっきまで見ず知らずだった俺がこんなところに転がり込んで、ジュールはどう思ってるんだろう、と思うと謝らずにはいられなかった。
「ふっ…シンは礼儀正しいな、いい子だ…。あんなところに独りでいたのって、辛いことがあったんだろう?シンを探してたあのドラゴンや人間達…仲間だよな?人間にしては尋常じゃない魔力持ってたけど」
「一瞬でわかっちゃうんだ…すごいな」
エリアスやフィリックスのことをそう言ったジュールに驚いた。
「竜騎士…だったんだ、あの二人」
「竜…騎士?」
ジュールが初めて聞いたような表情になる。
「へえ…シンもそれだったのか?使い魔のドラゴンがいる人間の存在は知ってる。王国に仕えると騎士になるから、竜騎士か…なるほどうまくつけたなその名前」
ジュールが笑う。そうか、竜騎士はあの国でそう呼ばれていただけで、外に出れば騎士ではなく魔力の強い人間ということになる。エリアスとフィリックスはそうなろうとしていたんだよな…騎士の名声も忠誠も捨て、俺のために戦おうとしてくれていたんだ。
なのに俺は逃げた。
「俺は誰かの人生を変えたりしたくないんだ…俺のために、輝かしい人生を先行き不安なものにしたくない、だから離れたの」
俺は自分に言い聞かせるように呟いた。黙って聞いていたジュールがつかつかと俺に近づいて、頬をぺちんと音がなる程度に押さえた。そのまま親指で俺の目の下をそっとなぞる。
「…くま、できてんぞ…」
ジュールの美貌がそっと息がかかるほど近づいてきて、ゆっくりと唇が重なる。
「…ジュール…恋人は?キスしたりなんていいの?」
「…いないよ。死別」
「ごめん…」
「いや、いいんだ、俺はドラゴン族、人間よりかなり長く生きてるんだからこればっかりは仕方ない。お茶を飲んだら風呂入って休め」
ジュールの優しさが何だか沁みる。
さっきのキスも優しい。冷たい俺の唇に少しだけ温かさが戻った。
「あの…お風呂と、お茶を頂いたらお暇するね」
「は?何で?」
「だって…ジュールは俺のこと知らないでしょ?」
浅く笑う俺にジュールが眉間を険しくした。
「さっき、キスしたから警戒してんのか?」
「へっ?いや別に…」
全然、そんなことは思わなかった。キスが優しすぎて逆に泣きそうになったくらい。
「びっくりしたよ…俺は昔、恋人から離れられそうになってな、そいつはシンと同じことを、言ったんだ…ドラゴンの俺に迷惑かけたくないって。そいつは勇者だったんだけど」
懐かしそうに、嬉しそうに恋人の話をして笑うジュールが切ない。
「勇者かぁ…すごいね、ジュールと組むなんてとても強い人だったんだろうね」
「うん、すごく愛してた」
「愛されてたんだ…なんか想像つくよ」
俺はそう言って笑いかけた。きっと、すごく幸せだったんだろうな。
「へえ、シンは俺の恋人はどんな人だと思った?」
いたずらっぽく笑うジュールに俺はありのままを答えた。
「背が高くて、すごくカッコよくて、筋肉モリモリのチートな勇者…?」
そのとたん、ジュールがものすごく楽しそうに笑った。呆気にとられていたけれども、次第に俺もつられて笑ってしまった。
「ははっ…それは想像にお任せする、シン、やっと笑ったな…。しばらく俺と暮らそう、出ていかなくていい」
ジュールは俺の髪を撫でて、そう言ってくれた。
エリアス、フィリックス…ラース…。ごめん、俺はここでしばらく独りで考えたいんだ。
これから、独りでもっと強くなるやりかたを考えなきゃ。自分で、自分の身を守れるように。
守ってもらわなくてもいいくらい強くなったら…いつか、また、会えるかな。
エリアス、フィリックス…ラース…大好きだから。
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