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異国での決意

俺の存在

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俺たちはあれから四日ほど飛び続け、とある国についた。そこは陛下の婚約者である姫君の国だった。小国ながら平和で豊かな国。

陛下のクーデターの話を知っていたこの国の王は喜んで俺たちを受け入れてくれた。竜騎士団ごと呼べるという算段もあったかもしれないけれど、優しげな国王は好感を持てた。

俺たちは個室を与えられ、ドラゴン達も大きな宿舎を与えられた。


やっと、ゆっくり眠ることができる。

「何で個室なのに…?自分の部屋…」

俺が陛下に挨拶を終えて自分の部屋に戻ると、フィリックスとエリアスがのんびりベッドに座ってくつろいでいた。大の男が二人もシングルベッドにいる理由がわからない。

「え、個室で寝るわけないだろ?」
「は?じゃあどこで寝るの」
「ここ…」

エリアスがシーツにごろごろと転がるのを見て、フィリックスも寝そべった。

「とりあえず陛下を送り届けて落ち着いたから、ひと安心してしまったんだけど、これからどうする?」

エリアスが寝転んだまま俺に尋ねた。

「え、どこって…?ここで陛下に従うんじゃないのか?」
「それなんだけど」

俺の問にエリアスとフィリックスが顔を見合わせて目配せをする。え、なに…?

「俺たちはシンとここから出ようと思ってる」

え?

俺は固まった。俺を連れて…?

「そ、それは俺がハーフドラゴンだから?迷惑がかかるから…だよね」
「最後まで話を聞けシン、そういうことじゃない」

声が震えだした俺をフィリックスが起き上がり、手をとって諌める。

「俺たちはここから出て、エリアスの家が持つ無人島でドラゴンを連れてしばらく暮らそうと思う。それから…これからのことを考えたらいいんじゃないかとフィリックスと相談して決めた」

エリアスが俺にそう答え、寝そべったまま足を組む。

「ここにいたらまた社畜になってしまうだけだろ、陛下の騎士だけでなく、この国の騎士になるだけなんて…」

俺はその場に立ち尽くした。俺のために竜騎士をやめるなんて。

「俺のため…?俺がいるからこれからも魔族に狙われたら、一つのところにいられないくなるからなんでしょ?俺が、こんな体だから…!」
「そうは言ってない」
「だって…!」

俺は涙が出そうになるのをグッと堪えた。ここで泣いても俺がハーフドラゴンな事実が変わるわけでもない。なら、泣いても二人が困るだけだ。

「この際ヘラクレスはアンディと陛下にお任せしようと思う。ベンを愛してくれた陛下ならヘラクレス号も心を開くだろう?」
「え…!?」

俺はショックを受けた。ヘラクレス号はもう俺の大切な仲間だ。

なのに手放さなければいけないなんて。

エリアスもフィリックスも、俺のせいで無理してないだろうかと不安になった。
いくら超人的な力があるとはいっても、さすがにあれだけの戦いをした二人には疲労の影がちらついていた。

王宮は、壊滅的に壊れ、あの国はとうなるだろうか。無責任に逃れてしまったけれども、このままでは陛下も俺達も命の危険があったかもしれない。


これでよかったんだよね?

不安が止まらないんだ。

二人に長年に渡って大切にしてきた国を捨てさせた。そして今は命を賭して仕えた主まで捨てさせようとしている。

それだけは止めなければいけない。

カイザー号もオリオン号も、ここならまた活躍できる。…ラースも。

見ると、エリアスがすうすうと寝息を立てて眠っていた。フィリックスもその隣でまどろんでいる。かなり疲労が溜まっているように見え、そっとしておいて、俺は風呂に行ってシャワーを浴びた。

胸が苦しい。シャワーのお湯に紛れて涙がボロボロとでてくる。

脱衣場にはピアスのガラと指輪のオスカー、魔剣ルーカスが置いてある。今、俺は完全に一人になったからいくらでも泣いていい。

「ひっ…く…!ぅ…」

魔族が俺を狙いに来なければ、竜騎士は瓦解することなく、あのまま貴族院に付け入られることもなかった。ベンの体を騙り、陛下まできずつけた。トゥルキも騎士団に襲われることはなかった。ドラゴン舎も壊れなかった。

みんな、俺のせいだ。

俺がいなければ、みんな幸せになれるかな。

すごく愛してるけど…俺がいることでみんなを危険にさらすのなら、我慢する。

やだ、離れたくないよ…エリアス、フィリックス…好き…!みんな、ラース…大好き…!


俺は冷水を浴びた。顔の、目の泣きはらした痕を消さなければ。

俺は服だけ着てバスルームを出た。二人ともぐっすり眠っているのを見る。

エリアスに近づいて、柔らかい唇を重ねた。

「ん…?シン…どした…?」
「んーん」

その後、眠るフィリックスにも唇を重ねた。

「シ、ン…?風呂…」
「うん、入ったよ。ちょっと王宮を散歩してくる」
「ん…すぐ戻ってこいよ…今夜はシンを愛したいから…」
「うん…わかった」

半分眠りについた様子のフィリックスが目を薄く開け、また眠る。
二人ともまた寝てるね。ゆっくり眠って、疲れを癒して。

俺は二人の寝顔をもう一度振り返って見て、部屋をそっと出ていった。

脱衣場にはピアスのガラも指輪のオスカーも、魔剣ルーカスもそのままきちんと置かれてあった。


王宮の長い廊下を歩き、下に降り、玄関のホールを抜ける。所々衛兵がいるけれど俺の姿を見ると敬礼してくれた。

そのままドラゴン達のいる宿舎へと進むと、そこはとても快適な大きな体育館のような建物だった。

カイザー号とオリオン号がラースを挟むようにして眠っている。お互いの前足がラースの背中や腰に伸びている。ラースは嬉しそうにカイザー号の胸に甘えて眠っていた。

幸せな恋人たちを引き離せないや…。

ラースはこのままなら、ここで幸せに暮らせるね。


俺はドラゴン宿舎をそっと後にした。

































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