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竜騎士になったよ

騎士団長アンディ

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朝のパトロールが終わり、王宮へ戻ったフィリックスは雑務に追われて竜騎士の事務所へと行ってしまった。俺はラースとオリオン号をドラゴン舎へと返し、ご飯をあげようと準備をはじめる。ワゴンにドラゴンのフードを山のように載せてなん往復もして、最後の一回。落ちないように下ばかり見ていたら。


どかーん!


何かを思いきりワゴンで轢いてしまった。
勢い余ってドラゴン舎にワゴンごと倒れてフードをぶち撒いてしまい、俺も転ぶ。
もしかしてドラゴンの足を轢いたのか!?ヤバイ!

…と、思って青くなって見ると。


人の足!?ヤバイ、人間轢いた!俺は転んで起き上がれないけれど、散らかったフードの中からあわててその人に謝り倒す。

「ごめんなさいごめんなさい!あの、その…っ…」

すると、その人が起き上がって俺を見た。
茶色い髪のはっきりした顔立ち、エリアスやフィリックスに負けず劣らずものすごいイケメンさんだ。しばらく俺たちは見つめ合い、イケメンさんは立ち上がって俺に近づいて手を引いて起こしてくれた。

その瞬間、バチーンと火花が走って激痛が走る。

「痛ぁ!」
「えっ!ごめん!静電気!?俺静電気体質だから…」
「いやっ、そこじゃなくて足ぃ!」
「えええ?」

イケメンさんは慌てて俺のどこが痛むか調べるためにかがみこんだ。静電気体質って…。

「足…擦りむいたかも」
「ああ、ここだな」

見ると、俺の脛から血が滲んでいた。ドラゴン舎の倉庫を開けると中から救急箱を出して俺にテキパキと手当てをしてくれる。

慣れてるなあ、この人…。誰だろう?足にガーゼを貼られながら俺はその人をまじまじと見つめていた。

「君が、シンか」

いきなり名を呼ばれて俺はビックリ仰天しすぎて返事を忘れた。

「…俺は、アンディって者だ」
「アンディ…」

静電気のアンディさんな。覚えた。

「…エリアスはいるかと思って来たんだが…」
「…カイザー号もいないので、外に出ているかと思うけど」
「…みたいだな」

そう答える俺をしばらく見つめたその男性が俺に尋ねる。

「まあいい、シンに会えたから。…さすが、エリアスの秘蔵と言われてるだけあるか。可愛らしい」
「えっ、そんなこと言われてんの?」

俺の話だよね?どこの誰にそんなことを言われてるんだ?アンディという男性はぷっ、と吹き出す。いい笑顔をするなあ、と思って見ていたら。

「…アンディ…」

低い声がして見ると、エリアスがものすごーい不機嫌な表情でカイザー号と戻ってきていた。

「おう、エリアスか。久しぶりだな」
「久しぶりじゃない。昨日も会議でいただろう?つまらん冗談言うな、笑えない」

エリアス、冷たいな…。

「口をきいたのが久しぶりという意味だ…ドラゴン舎、変わってないな」
「騎士団長さまが何のご用だ?アンディ…」

き、騎士団長?アンディが?さっきフィリックスに聞いたばかりのエリアス因縁の騎士団長がこの人だというの?俺は固まって二人を何度見もした。

「ヘラクレスの用で来たんだが…シンにも会いたかったんだ。…こんな可愛らしい竜騎士をなかなか紹介してくれないから」

アンディがにっこり笑って俺を見た。

「シン、うちの騎士団員から何度もひどい目に…大変すまなかった。こちらの不手際で俺まで報告が入らなくて…そいつらは全員クビにしたので安心してくれ」

いいい?直接謝りに来たのこの人!?騎士団長って相当偉くないの?俺は恐縮してしまう。

「今さらかよ遅い!お前の組織ガタガタすぎ!」

エリアスがぶち切れる。

「すまない…言い訳だが千人いるんだ…5人組のお前らとは規模が違う。でも、俺のいたらなさが、招いたことだ、本当に申し訳ない」

アンディが再び謝るので、俺は首をぶんぶん振った。

「俺のことはもういいんです。あのっ、ヘラクレス号のことって何?」

俺の質問にエリアスの表情が変わる、

「貴族の会議にたまたま出て議題に出てたんだが…エリアスに敵対する派閥からの突き上げでな、処分が決まりそうなんだ。今は合同演習の準備で忙しいが、後に処分される」
「処分って…」
「…言いたくないが、ベンの後を追わせると」
「ちょっ…!待って!」

俺は大声を上げた。

「ここでそんな話やめて!ドラゴンは人の言葉が理解できるんだ!ヘラクレスの前でそんな話しないでよ!!!」

俺の声でドラゴン舎が静まり返る。ヘラクレス号は黙ったまま動かなかった。

「…シンはドラゴンと直接話ができる。…俺よりかなり深く、どのドラゴンとも意思の疎通が可能だ。竜騎士のドラゴンは全員シンとかなり深く信頼関係を築いているし、ヘラクレス号に唯一触れることができるのはシンだけだ」
「な…!秘蔵なわけだ…」

エリアスの説明にアンディが驚愕の表情で俺を見る。

俺はヘラクレス号のところに走っていき、その額にべったりと貼り付いた。

「ヘラクレス号は俺のだ!誰にも渡さないし、誰にも命を奪わせない!絶対!ヘラクレス号は俺の大好きな友達なんだからっ!」

叫びながら涙が溢れてきてしまってヘラクレス号の目の間が濡れていく。


その時。

ーーーーーー

俺は知らない、ヘラクレス号の脳裏に甦った言葉。

「お前は俺だけの大切なドラゴンだよ。世界一カッコいい!お前は大好きな友達だよ」

優しい、それは優しい、自分に向けられた言葉。

体がどのドラゴンより大きくて太くて、カイザー号やオリオン号のように美しいとは言いがたい、どっしりした容姿に、飛ぶことが得意ではない翼。何もかも不器用で、すべてを焼き尽くす破壊的な炎で忌み嫌われたドラゴンだった自分。

お荷物のようにドラゴン牧場でひっそりと飼われていた自分を見いだしてくれた人。

ベン。

ベンとの毎日はとても幸せで、竜騎士のドラゴンとして活躍の日々。彼のためなら何でもできる気でいたし、なんだって出来た。どこへいくのもベンと一緒で、泣いたり笑ったり。楽しかった日々が思い出された。

あの日までは。

悲しみのどん底に突き落とされ、誰も信じることができなくて。小さな翼も破れた。


でも、シンが現れて、どんどん心の中に存在が大きくなるんだ。

なあベン、俺は幸せになってもいいのかな?


ベン以外に、俺を必要としてくれる人がいるんだ。


ーーーーーー

「…ヘラクレス?」


ヘラクレス号が立ち上がって、俺を鼻先に乗せたまま、のっそりとドラゴン舎の入り口へと向かって歩いていき、外に出た。












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