異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ

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竜騎士になったよ

王宮へ

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「ぐすっ…!」
「感動の別れだったな。シン愛されてんなぁ」
「うう…!ジジイ~!ばあちゃん…」

俺はラースの首にしがみついて泣いていた。フィリックスが微笑ましそうに俺を見て慰めてくれる。

ジジイ達が俺のために、それはカッコいいラースの鞍を作って用意してくれていたのだ。ラースに似合う見事な革彫り細工は大ジジイから。そしてばあちゃん達が、王宮に着いて俺が恥ずかしくないようにと、蒼い生地に金糸で細かな刺繍の施された立派な服をこの日のために仕立ててくれていた。

「シン、似合うよそれ…竜騎士の制服に似てるからそのまま普段も使えるかもな」

オリオン号という赤いドラゴンに乗ったフィリックスが声をかけてくれる。

俺は知った。
ドラゴンに乗ってる同士は会話がしづらいので、日本語で言うテレパシーみたいな魔法の会話術を使う。でも、脳内のやりとりというよりまるで普通に話してるのだ。魔法の世界ならではだよね!

「あ、ちょっと待ってシン…別の交信が入った…はいフィリックス…、団長」

フィリックスが突然真顔になって誰かと会話を始めた。俺はラースの鞍を撫でながらそれを見ている。オリオン号はかなりの高度を飛んでいて、スピードも出ているけれども、ラースは難なくついていっている。フィリックスはラースの能力に驚いていた。

「はい、蒼の騎士シンと一緒に参ります。おそらく一時間程で王宮に到着するかと…。はい、蒼のドラゴンは予想以上です、…承知しました、では」

何の話をしたんだろう?俺のことを言ってたよね?

「少し飛ばすぞ。団長がお待ちかねだ…」

そう言ったフィリックスの横顔が少し機嫌が悪そうだったのが気になる。

オリオン号が赤い翼を更に早く羽ばたかせ、スピードを上げ、ラースもそれに従った。


小一時間ほど飛んでいると、緑がぱっくり割れ、突然都が現れた。真ん中の小高い丘に大きな城が建っている。その周りの大きな敷地をぐるりと高い塀が取り囲み、城の四隅には砦が築かれている。

王宮、というより荘厳な城塞といった方がしっくりくる。戦いのことはわからないけれども、素人目にも戦いを想定して建ててると思う造りだ。

ここがこれからの俺の新生活の場。

竜騎士として、国王に仕えるんだと思うとワクワクした。

城塞の塔に何か大きな黒い生き物がとまっている。それは大きな翼を広げると、二、三回羽ばたきをして塔からふわりと離れた。

ラースが低い唸り声を立てる。


あいつは…!


思い出した。
ラースに衝突して怪我をさせてそのまま去っていった黒いドラゴン!

くそ、こんなとこで会うなんて!俺は腹の底が煮えくり返る。

あのときの礼はさせてもらわないとな。俺とラースは急降下して、その黒いドラゴンに攻撃体勢を取った。

「シン!ダメだ!…団長!」

フィリックスが叫ぶ声がしたけれど俺達は止まらなかった。
黒いドラゴンは翼と両手を広げて真正面に立ち塞がると、ラースを前足で捕まえてがっちりと受け止めた。フィリックスの赤いオリオン号より大きなその黒いドラゴンは、難なくラースを捕らえている。俺はラースの背中から黒いドラゴンに乗ってる人を思い切り睨み付けた。

明るい金髪に彫りの深めの整った、圧倒的な容貌、恵まれた体躯。赤い瞳がギラギラして俺を見ている。こいつが竜騎士団長…!

「シン、蒼のドラゴンは威勢がいいな、気に入った」
「クゥン!」

金髪の男性が笑い、黒いドラゴンはラースをまたぎゅっと締める。ラースから苦しげな悲鳴が上がった。

「こっちへ移ってこい、シン!」
「いやだ!」
「ハァ?!」

団長と呼ばれた金髪の男性の眉間に深くしわが刻まれる。

「知らない人についていっちゃいけませんって習ったし!」

日本ではそう習った!外にでたことないけどそれが常識くらいは知ってるもん!

「俺は不審者じゃねえ!」
「不審者じゃん!団長だろうがラース傷つけて逃げた轢き逃げ犯じゃん!」
「アホか!だからフィリックス置いていっただろうが!俺は急用があったんだよ!」
「代理は認められませーん本人が謝罪しないと許さないからな!」

金髪の団長と言い合いになり、俺は引かなかった。ラースを痛い目に合わせたことは許せない!

「…ない」
「え?聞こえない」

耳に手を当ててすっとぼけてみる。

「くそてめえこの野郎…」
「は?なんて?」
「くそぉ!悪かった!蒼いドラゴンに怪我させて申し訳ない!」

まぁこのくらいで許してやろうか。どデカイ声で謝る金髪の団長に俺は一矢報いてやった気分になった。でも、ちゃんと謝るんだなこの人…そう悪い人じゃないのかも。

黒いドラゴンが腕をゆるめてラースの頬をぺろりと舐め、頬擦りをした。

黒いドラゴン、本当はなかなかフレンドリーだ。ラースも嫌がりながらもまんざらではなさそう。

「すごいなシン…蒼の竜騎士、最恐伝説ここにはじまる…か」

一部始終を見守っていたフィリックスが面白そうにぽそりと呟いた。













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